私の正義
「じゃあさっき見た死骸も……」
口をついて出た言葉に、怒りが滲んでいた。
手入れもされず、無造作に放置された動物の死骸。あれも、人の手で……?怒りで熱くなった頭に戻る光景。突き刺すような視線で、横たわる猫の瞳を見つめ、こぶしを握り締めた。
リオナはぴくりと後ずさり、目をぱちぱちと瞬かせる。肩が小さく震えている。
私の怒気がリオナを困惑色に染める。と同時に芽吹く全く別の感情が、その頬に浮かんでいた。
そんなささいな機微に構う余裕などなく、私は勢いに任せてまくし立てる。
「私はお嬢様よね?!何ができる!?」
リオナは声を震わせ、答える。
「ええ、それはもちろん……領主様の娘ですので……」
その答えをしっかりと聞き終わる前に、私は屋敷へ向かって駆け出す。
屋敷が視界に入ったころ、リオナがぽつりと言った。
「実はさっきの丸太の人さ、奴隷なんだよね。首輪に枷まで付いてたでしょ。」
その一言が火に油を注いだ。怒りが一気に燃え上がる。
さっき見た丸太を担ぐ獣人の姿がフラッシュバックする。ときめきの記憶は、痛々しい現実に塗り替えられていた。
私は血走った目で、屋敷の奥、領主のいる執務室へと駆け出す。
怒りが私を前へと突き動かしていた。
◆
扉を勢いよく押し開けると、お嬢様のお父様が書類に目を落としていた。
「リル……どうしたんですか、その顔は」
怒りに血走った目で睨みつける。言葉を選ぶ余裕はない。私にとっては他人で、問題を放置している敵寄りの人間にさえ見えていた。構うもんか。
「ねえ!屋敷の外で見たの!動物たちが人の手で殺されて、そのまま放置されてるたのよ!どうしてそんなことが許されるの!?!」
領主は眉を寄せ、手元の書類を押さえる。
「リル……落ち着きなさい。事情を聞きますから。」
そんな悠長な言葉は耳に入らない。私は机に駆け寄り、声を震わせながら机を叩く。
「落ち着いてなんかいられない!誰かがちゃんと守らないと、あの子たちはどうなるの!?村の中で!ぜんぶ……人の手で!!無残に!死んでた!殺されてたのよ!!」
領主の眉がさらに寄る。
「だから……だから、作るべきなの!鳥や獣が、人の手でむやみやたらに殺されないように、放置されないように!その……ケモミミガチ守り隊、みたいな!」
声が震え、体中の熱が燃え上がる。激しい感情が止めどなく溢れ出す。
「お嬢様!」
後ろから、リオナの叫ぶ声が聞こえる。私は領主の顔を強く睨む。そうだ、私はこの人の娘。
「かわいそうな動物たち、みんな守られるべきなの!やるのよ、お父様!」
領主は深く息をつき、書類に視線を戻す。
「……リル、その……具体的には、どのように守るつもりなのですか?」
私は息を整えずまくし立てた。
「動物を!殺す馬鹿は捕まえて、厳しい罰を!外壁の外を、そうだ風車からとか、もっと見張って!」
領主は顔を上げ、しばらく黙ったまま私を見つめる。その沈黙は、私の胸をさらに熱くさせた。
異世界で目にした当たり前。あんなの間違ってる。怒りは正義感となって、常識をぶち壊さんと燃えていた。




