表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/137

駆け引き

「ウェルトか。久しいな。」


 そう言ったのは、ロンギヌスだった。

 ロンギヌスの身体には、ウェルトと同じように鞭打ちの痕が残る。

 それと何か関係があるのだろうか。


「ロンギヌスか。無事だったんだな。また会えて嬉しいよ。」

「え、知り合いなの?」


 アリスがロンギヌスに近付いて問う。


「ああ、近衛軍でちょっとな。」


 アリスにとって初耳なのは仕方がないことだ。

 近衛軍と言えば、今は紫露と橙たちのことである。

 そして、軍務家とは切り離された、辺境伯領最強の少数精鋭部隊だ。

 軍務家で生まれ育ったとしても、知らないのも無理はない。


「今日中にはシロも到着する。」

「おお、あの根暗女狐もいんのか!」

「はっはっは。言ってやるな。今じゃ紫露さんって感じに変わってしまった。ある意味お前のおかげだ。」

「そうか、アレが効いたのか。まあ公国にまであいつの噂は届いてたからなぁ。」


 楽しそうに笑うロンギヌスは新鮮だった。

 アリスにとってもそうなのだろう。

 しっかり隣でむくれている。


「何だか紫露の到着がとても楽しみになってきたわ。」

「……紫露ともただならぬ仲だったなんて、聞いてない。」

「言わないってことは、……どういうことなのかしらね。」


 アリスにとっては大問題だ。

 誤解を恐れずに言うと、突然二人の女性との深い仲が暴露されたのだ。

 願いの魔法が消えて、嫉妬の炎が渦巻いていそうだ。


「そうそう、ウェルト。この子は周回の後、ロンギヌスと結婚するのだけれど。」

「おお、そうなのか。俺のことはもう諦められたのか?」

「おいおい、よしてくれ。過去のことだ。素直に祝福してくれると嬉しい。」


 何もなかったとは言わないあたり、罪な男である。

 だが、一段と面白くなりそうだ。


「そうか、めでたいな。これは絶対に付いて行かないとな。」

「アリス、人間の男はね、こうやってあっさりと引かれてしまうと余計にその人が気になってしまうの。イシュの民はそこらへんどうなのかしら?」


 その気にさせて、一歩引く。

 そんな魅力の水増しに頼っていると、それ無しで向き合う自信がなくなる。

 その結果、冷たい対応のやめ時がわからなくなる。

 そんな相手を、いつまで慕い続けてくれるのだろう。


「素直に愛情表現する恋敵が現れると、不安は劇的に増加するらしいわ。そして、恋敵をいびるの。それで婚約破棄されるのが悪役令嬢の末路なんですって。」

「え?」


 瑠璃が謎知識を元に、リオナにズレた相談をしていたことを思い出す。

 婚約というのは、家同士の外交条約と同じ。

 内乱や財政破綻の引き金にだってなりかねないのに、恋敵をいびったぐらいで破棄できるようなものではない。


「まあ、私は悪役になったし辺境伯令嬢だけれど、婚約者も恋敵もいないわ。」

「え?」

「おっほっほ。何でもないわ。気にしないでちょうだい。」


 さて、こうやってここで待っていても、そんなにすぐに紫露が現れることはない。

 こちらで飛ぶ計画を立てなきゃだわ。


 ◆


「じゃあ明日みんなを見送って、ラスカノに伝えに行ってあげるよ。赤の森を抜けた南の中継地点で合流だね。」


 話がまとまると、ハピィが連絡役を買って出てくれた。

 行き(往路)は追い風、帰り(復路)は向かい風がちなので、日数では測りづらい。

 だが体感としては、東西は南北の倍ほどの距離がある。

 台地横断の往復を、私たちが北から南へ縦断する日数でできてしまうというのだから、ハピィの飛行能力はすごい。

 半日、遅い子で一日掛けて移動し、少なくとも翌日は、中継地点で過ごす。

 そうして月の満ち欠けが半周する時間を掛けて到着した距離を、ハピィは一日あれば余裕で飛び越えてしまうのだろう。

 何せ、道沿いに行く必要も、森を迂回する必要さえもないのである。

 モマが憧れるのもわかるというものだ。

 というか、空を飛ぶ計画が、楽しくないわけがない。


「紫露らは今日も置き去りでござんした。まこと、薄情なお人らでござりんすなぁ。」


 怒っているわけでも、責めているわけでもない。

 お決まりとなった定型句である。


「離れていた時間が、こうして再会した瞬間の喜びを育ててくれる。そうでしょ?」


 私は瑠璃という人格に支配されていた。

 だから、例え身近にいても、長い間自分の言葉で話せていない。

 その原因を作ったのは、紫露だ。

 そのことを責めたり怒ったりはしない。

 それは、イシュの民から学んだことだ。


「その甘いお言葉が、歩みの遅い者への何よりの毒でござりんす。」


 死の花を差し置いて、私が何よりの毒だと言う紫露。

 一度はこの地を密かに去ろうとした私に、それを知る紫露が告げる毒。

 再会を心待ちにするようになったのは、紫露のもたらした願いの魔法だというのに。


「突き放しておきながらそうやって引き寄せる……まこと、罪作りなお人でござりんすなぁ。」

「買いかぶり過ぎよ。私は私のために走るの。紫露が後ろから来てくれるとわかっているから、私は好き勝手に走れるのよ。感謝しているわ。」


 だとしたら、それ無しで向き合う自信がなくなる前に、素直に感謝を伝えるべきだわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ