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水をたどって

 水の音で目が覚めた。

 足を浸した水の冷たさにハッとする。腰を下ろしたまま、手で水面を撫でると、ひんやりとした感触が手のひらに広がった。


 周囲を見る。白い石畳の広場。四方を柱の並んだ建物が囲み、真ん中では籠を抱えた人々が行き交っている。まるでどこかの観光地のような活気。


 立ち上がると、数人がちらりとこちらを見た。じろじろというほどではないが、確かに視線を感じる。それでもみんな忙しそうで、誰も立ち止まらない。何かおかしいのだろうか――そう思って、ふと周りを見ると、広場の中央にある噴水には、子供たちだけが水に浸かって遊んでいる。私が座っていた噴水である。


 数人がこちらに目を向けた気配を改めて感じ、そろりと噴水から上がると、逃げるように視線をそらした。


 建物の間に高く架かる陸橋のような構造物が目に入った。

 石のアーチが幾つも連なり、橋の端から下に落ちた水が、噴水にも分かれているようだ。その上を水が流れているらしい。水の流れる音は遠くまで届いている。


 橋が街全体に水を巡らせていることに気づき、思わず見入る。

 どこへ行くのだろう―――

 流れの行方を確かめたくなり、私は橋の影を追ってゆっくりと歩き出していた。


 広場を抜けると、道は少し下り坂になっていた。両側の建物の屋根は赤く、壁は白く塗られている。窓辺には布や陶器が並び、人々が声をかけ合っていた。どうやらここは商人たちの通りらしい。

 道の真ん中には細い溝があり、水がさらさらと流れている。陽に照らされて、きらめく小さな波。その音が、どこか心地よかった。


 さらに歩くと、街の音が少しずつ変わっていった。

 金属を叩く音や、釜の中で火が弾ける音。職人たちの作業場が並び、木屑と煙の匂いが漂う。同じ石畳の街なのに、空気が違う。

 働く人たちは黙々と手を動かし、通りすぎる私にちらりと視線を投げる。けれど、そのうちの誰かが近寄ってくるということもない。私はただ、流れる水を目で追い続けた。


 やがて、道が開けていった。

 家並みが整い、屋根の高さが揃っている。白い壁の家々が連なり、窓には花の鉢が置かれていた。小さな広場では、子どもたちが石を並べて遊んでいる。その傍らを、細い水路が穏やかに通り抜けていた。笑い声と水音が混じって、まるで歌のように響く。


 坂を下るほどに、風の匂いが変わっていった。潮の香り。遠くで波が砕ける音がする。視界の先に、白い光が広がった。水の流れを追いかけるように歩くと、やがて視界が開けた。そこは、海だった。青く透きとおった海が広がっていた。


 潮風が頬をなで、衣の裾を揺らす。街の屋根が遠くに見える。赤い瓦の波が、陽の光を受けて輝いていた。


「……きれいな街」


 言葉が自然に漏れた。日本人である自分が、なぜかこの景色を誇らしく感じた。胸の奥に、静かな鼓動が響いていた。

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