24話 王宮の医師たち
ようやく医者たちが来たか。クソ虫どもめ。来るのが遅すぎる。
「どれどれ。ん? なんだお前たちは?」
白衣を来た細身でシャープな顔立ちの、黒い顎髭を生やした男が私とリヒャインに問いかけてきた。
「……っち。なんで私の休日に合わせてこんな大規模な舞踏会なぞ開いたんだ。ふざけおって。ワシは今日、何があっても仕事はしないと言っておいたというのに」
その後ろで恰幅の良い初老の、光魔導師専用装束を纏った治癒魔導師が鼻をほじりながらぶつぶつと文句を言っている。
……嫌な予感しかしないな。
「私はデレア、この男はリヒャインと申します。この子の応急処置にあたっておりました。とりあえず現在の状況としましては……」
私が説明をしようとした時。
「おい、後ろの貴様。それは何をしている……?」
私の後ろでメリーの水魔力を送り込んでいたリヒャインを見て、恰幅の良い治癒魔導師が割り込んできた。
「あ、これはデレアに言われて水魔力を流し込んでて」
「な、なんだと!? 今すぐやめろ馬鹿者! 殺す気か貴様!」
恰幅の良い治癒魔導師は激昂して声を荒げた。
「違います! これは応急処置で彼女を助ける為に……!」
私はリヒャインを庇うように立ち塞がりそう弁明するが、
「愚か者めらが! 魔力を直接流し込むなど殺人行為も同然! わかっておるのか!?」
聞く耳は持ってもらえなさそうだ。
それでも。
「聞いてください! 彼女はおそらく脳卒中で……!」
「なんだと!? なぜそんな事が貴様のような小娘にわかる!?」
「彼女の症状を観察し、判断しました。腕の震え、微痙攣、呂律が回らないと言った症状から私は……」
「嘘をつくな! その娘のどこにそんな症状が出ている!?」
そうなのだ。
実はもう数分ほど前から、すでにメリーの震え、微痙攣は治まっていた。
意識は少し朦朧としているようだが、呼吸も安定していた。
「脳卒中なら、たかが学生風情の応急処置でそれらの症状が治まるはずがなかろう! それとも貴様たち、まさかその娘をもはや殺してしまったのではあるまいな?」
「違います! 見てもらえればわかります!」
「……どれ」
私がそう声をあげると恰幅の良い男ではなく、細身の白衣を着た黒髭の男がスッとメリーのもとへと歩み寄り、膝をついて確認を始めた。
「……息はある。呼吸にさほど乱れは無い。瞳孔の縮瞳にも異常は見られない。震えも痙攣も見受けなし。嘔吐した後はあるな。おい、キミ。自分の名前は言えるか?」
白衣の男がメリーに尋ねると、
「わた……しは……メ、メリー、です」
彼女は先程よりも随分と滑舌が回復し、そう答えた。
「言葉は少々たどたどしいが、呂律も回らないというレベルではない。ふむ」
「やはり異常はなさそうですな、カイン先生。おい小娘。これのどこが脳卒中だと言うのだ!?」
細身で白衣の医者はカイン、と言う名なのか。
太ったクソ虫の怒鳴り声にはほぼ動じずメリーをよく診ているな。
「カイン様。お願いです。私の言う事を聞いてください。まだ彼女は不安定です」
「おい小娘! ワシを無視するな!」
「……不安定、とは?」
「カイン先生!?」
私とカインと呼ばれた医者は、クソ虫の王国代表みたいな太った治癒魔導師の言葉を無視して互いの顔を見て会話を続けた。
「現状の報告から簡潔に致します。彼女は脳卒中、脳梗塞でした。発症から約四時間も経っていた為、私はすぐさま可能な対応処置を施し、結果、彼女の脳に出来た血栓はおそらく解消されたと思われます。しかしそれによる脳出血が引き起こされないとは言いきれません。なので早急に彼女をちゃんとした医療機関へ搬送し、適切な対応をお願い致します」
「なに? 血栓を解消させた、だと? お前がやったのか?」
カイン先生は目を見開き、訝しげに私を見る。
「っは! そんな馬鹿な話があるか! いいか小娘! 脳卒中は最新魔導脳医学においてもいまだ、謎の多い病なのだぞ! 貴様のような小娘程度の知識でその病理の判断、ましてや対応などできるはずもないだろう!」
マジでうるせーな、このクソデブ虫は。
「カイン先生! こんな世迷いごとをのたまう小娘の話など聞くだけ無駄ですぞ! それよりも早く帰りましょう。この倒れてる娘も意識はあるようだし、なんの異常もありません。我々が出る幕ではありませんわ」
確かに今のメリーは割と落ち着いているが、何故こうも頑なに人の言う事を聞かないんだこのクソデブ虫は。
「……おい、サーメイル」
「はい、なんでしょうカイン先生」
カイン先生はこの場に彼らを連れてきた若い青年貴族を呼びつける。
「この娘を王宮の医務室へと運べ。脳出血の可能性があるかもしれないらしいから、水平のまま、慎重に揺さぶらずにだ。後で私も駆けつけるから彼女に下手な処置はするなと伝えておけ」
「わかりました。しかし私一人では水平に運ぶのは少々難しいです」
「俺様も一緒に行ってやるよ。俺様とお前……サーメイルだっけ? の二人で運べばいいだろ?」
リヒャインが自ら名乗りをあげた。
カイン先生は近くにあった大きめのテーブルクロスを引き抜き、それを担架の代わりとして使えと命じ、二人はカイン先生の言う通り、メリーを慎重に運んで行った。
「カイン先生、甘すぎですぞ! 王宮の医務室は神聖なる場所! たかだか子爵家の弱小貴族の娘などを運び入れるなど……!」
ずっとこのクソデブ虫だけは文句だけを延々言いづけている。
「なに、今は王宮の医務室も十分に空きもある。もし何か王家の方から問いただされたら私が責任を負う。それでよろしいでしょう、デイブ魔導卿」
ぶ。
「そうは言いますがね、カイン先生。先日も貴殿は道端の平民を助けたりと少々勝手がすぎる件についてワシが後ろ指を刺されるのですよ! 少しはワシの身にもなって欲しいのです」
「今度、北方の醸造所で作られた限定ワインを贈る。それで勘弁してくれデイブ魔導卿」
ぶぶふ!
「……ふん! 全く、仕方ありませんな!」
「すまぬな、デイブ魔導卿」
駄目だ、もう我慢できん!
「ぶひゃ!」
あ、しまった。
「……小娘、何が面白い?」
デブ魔導卿……あ、いや、デイブ魔導卿が憎々しげに私を見下ろしている。
いやいや、でもそりゃないっしょ。私が心の中でクソデブ虫とか言ってたら、名前もまさかデブだなんて、お似合いすぎて笑う以外なくね!?
「ん、んん。な、なんでもありません。デブ魔導卿」
「……あ?」
あ、やっちゃったかも。
「い、いえ。申し訳ございませんデイブ魔導卿」
「……まさかとは思うが小娘。今、ワシのことをデブ、と言ったか?」
「言っておりません」
「いや、言っただろう? はっきり聞こえたぞ。ワシはなぁ、ワシの名を間違えられるのが何よりも許せんのだ。そもそもワシは名前で呼ばれる事自体が嫌いなのだ!」
「言っておりません」
「いーや! 言った! 絶対言った! 嘘を吐くな小娘! 貴様、どこの娘だ!? 不敬罪にてこの場で極刑だ!」
「……落ち着け、デイブ魔導卿。この娘はちゃんとデイブ、と言っていた。怒りを収められよ」
「なっ、カ、カイン先生! 貴殿はまたそうやって……。だいたいいつも言っておるでしょう!? ワシの事を公の場で呼ぶ時は、ファーストネームではなくミドルネームの方で呼んで欲しいと! ワシの事はグリエ……」
「デイブ魔導卿。実は公爵様が先日の功績だと言ってデイブ魔導卿に特別ボーナスを出したいと言っていた。フラメキア魔鉱石をあしらった最新モデルの魔道具だと言っていた。公爵様は今、書斎にいる。貴殿に会ったら呼んでほしいと言われていたんだった。うっかり忘れていた」
「な、なな、そ、それはまことですかカイン先生!?」
「ああ。だから早く取りに行かれると良い。この娘のことは私がキチンと対応しておく」
「っち、仕方ありませんな。おい小娘、命拾いしたな! だが次にもしワシの名を間違える事があったなら、本当に貴様は死刑だからな! カイン先生もワシの名の呼び方、気をつけてくだされ! あと、あまりに勝手がすぎるようならザイン宰相にも話を通さねばならなくなりますからな! いいですな!」
やたらと名前に小うるさいクソデブ魔導師のデイブ魔導卿はそう言い残してその場を去って行った。
「……申し訳ございません、カイン様」
「ふ。これでキミには貸しひとつ、だな」
う……くそ。クソ虫に貸しなんか作りたくなかったというのに。
「さて、小うるさい者も消えたようだし、少し私の質問に答えてもらおうか」
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