第27話 弁慶からの鬼神
鬼の姿をしたハガネが、アカネ殿を捕まえた小僧にゆっくりと歩みを進めている。
歩く度にその纏った光が弾け、霧のように散る。
その色は様々で、纏っている藍色以外の色も多く見て取れた。
そこで、儂はようやく気付いた。
「――なぜ、他の色が混ざる?」
その時、儂は信じられないものを見た。いや、見せつけられた、というのが正しいか。
ハガネが近づく度、周りのエインヘリヤル達が消滅していくのだ。
「は、ハガネ……?」
アカネ殿も、驚いた様な顔を見せている。
ということは、この状態はアカネ殿も知らなかったということか。
「いかん、止めねば……」
止めねば、どうなるか分からない。
それほどまでに濃密で強い、そして禍々しい光を、ハガネは放っていた。
――しかし、どうやって止める?
正直なことを言えば、今のハガネは儂の手には負えない。
おそらく、今消滅している者共と差して変わらぬ結果となるだろう。
なにしろ、ハガネは歩いているだけなのだ。武力うんぬんで何とかなるものではないだろう。
さてどうしたものかと悩む儂に、細い声が聞こえてきた。
(……さん、べんけいさん)
これは念話、か?
見れば、アカネ殿がこちらを真剣な眼差しで見つめている。
(わたしに、まかせて、ください。とめ、ます)
(無茶を言うな! いくらお主とて……)
こちらからの話に反応しない。アカネ殿の声も何やら途切れ途切れだ。まだ完全な信頼関係ではないということか。
しかし、こうなってはこちらも覚悟をする他あるまい。
アカネ殿が何をするかはわからぬが、万が一に備える必要はある。
儂は、急ぎ土方殿に念話を入れた。
(御免、土方殿……)
――――
ちゃんと伝わったかな、ボクからの念話。
「な、なんだぁアイツ! ばけもんかぁっ!!」
「魂が暴走してんじゃねえか……?」
「そんなの見たことねえぞ……」
違うよ、君たち。
ハガネのあれは、暴走ではない、とボクは考えていた。
あれは多分、ハガネの本性。
元々の魂の強さが、ずっと神の力で抑えつけられたことで鍛え上げられ、それが開放された姿。
「あなた達も逃げた方がいいんじゃない? ……蒸発しちゃうよ、周りの人たちみたいに」
「ひ、ひぃぃ……」
ガタガタ震えてる。まあ無理もないかな。
正直、ボクもちょっと怖い。
今のハガネにあるのは、怒り。
その原因を作ったのは、ボク。
少し油断しちゃったボクのミスだ。
「ハガネ……」
だから今のハガネは、ボクのせい。
そして、ボクの出来ることはただ一つ。
ハガネを全部、受け入れること。
ボクの出来ることはこれだけ。でも、ボクにしか出来ないこと。
ハガネ。
キミがボクをいつも護ってくれているように、ボクもキミを守るよ。
キミの心を。
完全に力の抜けてる腕を振りほどき、ボクはハガネに近寄っていく。
ボクの身体は魂だけじゃないから、消滅することはない。
けど、それでも結構キツいなぁ……。
ねえ、どこまで強くなるの?
本当に、無限に強くなっていくよね、キミは。
最初から、強い魂だって思ってはいた。
透明度がすごくて、色が深くて。
だけど、本当に、こんな。
――思いの強さが、キミを無限に強くする。
ボクはあの時そう言ったよね。
キミはそれを、本当にしてくれてる。
だったら、ボクは。
「ハガネーっ!!」
ボクは、正面からハガネに飛び込んだ。
「……!」
ハガネの動きが止まる。その目はじっとボクを見てる。
「ごめん! 心配させて! ボクは大丈夫だから! ハガネがいてくれるから!」
「……グ……ゥ、ア、カね……?」
「うん! ボクだよ! ちゃんとハガネが護ってくれたよ! ……だから」
ボクは、戸惑うように見つめてくるハガネの頬を両手で支えた。
……そして。
「……ありがとう、ハガネ」
大好き、だよ――。
――――
――眼ノ前デ、誰カガ俺ヲヨンでイる。
……アカ、ネ?
「うん! ボクだよ! ちゃんとハガネが護ってくれたよ!」
……まもった? なに、を
「……だから」
「!」
アカネ……。
俺は無意識に、アカネの髪を撫でていた。
「! ハガネ!」
「……おう、わりい。目が覚めたわ」
俺はアカネの髪を撫で続けながら、アカネを捕まえていた屑を見た。
「ひっ!」
やつは短い悲鳴を上げ、そのまま卒倒してしまった。
「じゃあ最初からやるなよな……」
周囲を見る。
……人少なくね?
「なぁ、アカネ。すげぇ人減ってねえ?」
「う、うん。全部ハガネが消したんだよ?」
「へ?」
消したって何!?
アカネは、あー覚えてないかーなどと呟きながら、ついさっきの出来事を教えてくれた。
「……マジか」
「マジ」
「おぉう……」
改めて周りを見ると、もうみんな完全に逃げ腰になっている。
そりゃそうか。
そんなん、俺だって嫌だわ。
「ハガネっ!!」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには弁慶さんと歳さん、それに回復したのだろう、ヘイムダルが立っていた。
「……降参だ。新選組、そうそう復活させることは出来ねえらしいや」
「どういうことです?」
「戦意喪失だよ。さっきのハガネの姿で、みんなビビっちまいやがった。……てことで、任務だハガネ、アカネ」
「急に、ですか?」
降伏を告げる歳さんに、アカネが尋ねる。
「……稗田阿礼に至る道が開いた。これから動けるやつら全員で、稗田……いや、歪んだ日本神話に殴り込みをかけるぞ」





