第26話 八千人再びその3からの弁慶
「ハガネっ!」
「お、無双は終わったのか」
弁慶さんを睨む俺に、アカネが声を掛けてきた。どうやらひゃっほいタイムは終わったらしい。
槍を使うアカネは、一対多数の戦いに長けている。
機動力で相手を翻弄し、リーチの長い槍を振り回して全方位に攻撃を仕掛けていくスタイルだ。
その切っ先からカマイタチを飛ばす、自分を中心にして竜巻を起こす……。密集地帯では手がつけられない程の強さを誇るが、ワルキューレは死んだらおしまい、怪我もするというデメリットもある。そこで普段はおれが盾になってアカネを守りつつ、ガンガン攻めていくスタイルになっている……のだが。
眼の前の弁慶さんのような大物が相手となると、決定力にイマイチ不安が残る、とアカネ本人は言っていた。
そこで俺の出番だ。集団戦闘の時は、盾で大勢をふっ飛ばすことは出来ても、相手を沈めるまでには至らない。その代り、タイマンだったらこっちのもんだ。
護って、殴って、ぶっ飛ばす。
「いよいよだね……っていうか弁慶さん、ラスボス感がすごいんだけど……」
「だな。……でもここで終わりじゃねえ」
「うん。周りは任せて。邪魔が入るならボクが相手するから」
「おう、頼んだ。……さて」
改めて弁慶さんを見た。右手に持った薙刀を地面に突き立て、不敵な笑みを浮かべている。
俺は、大きく息を吸って声を張り上げた。
「待たせたな、武蔵坊弁慶! そのニヤケ面、泣きっ面に変えてやるぜ!!」
「吹き上がるな小僧! 待っている間にあくびが出たわ!!」
そこまで言うと、弁慶さんの雰囲気がガラッと変わった。顎を引き、右半身を下げ、薙刀を前下りに構える。
……こいつぁマジだ。
「いざ。……殺してしんぜよう」
背中にぞくり、と何かが走る。
悪寒じゃねえな。
これは、喜びだ。
――――
「おあああっ!!」
「ぬぅぅん!!」
弁慶さんが薙刀を操り、あらゆる角度から斬撃が襲ってくる。
俺はそれをイージスで躱す……が、暴風のような連続技に、受け流すのが精一杯だ。
反撃に移る間がない。このままだと程なくして手詰まりになる。
……間がない?
おかしい。連続技ってのは必ず始まりと終わりがあるはずだ。たとえ最後から最初に至る流れを違和感なく繋げたとして、どこかで一呼吸入るはず。だが、弁慶さんにはその間すらない。
――もしかして。
怒涛の攻撃を受けつつ、必死で弁慶の顔を見る。
「……そうか」
そういうことか。
弁慶さんはここに至るまでの数分間、完全に息を止めたまま攻撃をしているのだ。
とんでもねえな。武蔵坊弁慶。そりゃ間も隙もねえわ。
だったら、俺のやることは一つ。
――凌ぎ切る。
エインヘリヤルも英霊も、実は呼吸をする。それは生命活動という意味ではなく、生前の記憶に染み付いているからだ。戦闘となれば尚更で、戦闘スタイルと呼吸は切っても切れない関係にある。
つまり、弁慶さんも、どこかで息継ぎをする。しないとリズムが狂うからだ。
その証拠に、少しだけ弁慶さんの顔に焦りが見え始めた。
「……くっ」
「ぐぅッ」
少しだけ斬撃が荒くなり、同時に打ち込みが強くなる。正直おれも限界など超えてはいるが、ここを突破しなきゃ届かない。
だが、この究極の我の張り合いは、意外なところでケリが付いた。
「きゃあっ!!」
「アカネっ!?」
「アカネ殿っ!?」
見るとアカネが、あのせんぱいと一緒にいた、チャラい馬鹿に羽交い締めされていた。
「けへっ、あんたの技も動きも、おれにぁぜぇんぶわかってんだよぉ? どんだけ視姦したと思ってんだ、この身体をよぉ!」
「やっ……離せっ! この、下衆がっ!!」
「おーいおい、そりゃお互い様だろぉ。なんだっけ? てめえの惚れた相手が? 上手いこと死んでくれたから? 都合よく専属のエインヘリヤルにしましたってか?」
「やーーっ!!」
アカネの胸鎧の下に、野郎の手が入り込んでいる。
……おい。
――てめえハなニヲしテいるンダ?
「毎日毎日! 一緒の部屋で乳繰り合ってんだろぉ!? おれにもちょぉっとくれぇわけてくれよぉ!!」
――ヲイ。なニヲしテルンダッテイッテンダ。
「いやぁーーっ!! ハガネぇっ!!!!」
――コロ、ス。
そこデ、おレノキオクハ無クナッタ。
――――
あの小僧。儂とハガネとの勝負に水を差しおって。
しかも、アカネ殿に不埒な狼藉を働くなど……っ。
「おい、ハガ、ネ……」
ハガネに声を掛けようとしたが、その先は口に出なかった。
つい今の今まで斬り結んでいた結城ハガネは、そこにはいなかった。
代わりにそこにいたのは、
「鬼……!」
藍色に輝く身体に橙色の憤怒の炎。
恐怖と憎悪の塊と化した、文字通りの「鬼」がそこにいた。
かつて日本には、鬼と呼ばれるあやかしが住んでいた。
中でも一番強いとされていたのが、酒呑童子だ。
今のハガネは、その伝え聞く酒呑童子もかくやと言わんばかりの魂魄を以て、あの不埒者を睨んでいる。
ハガネに声を掛けようとしたその時だった。
――コロ、ス。
ハガネから、聞くものの魂を根底から恐怖させるような声が一言、発せられた。
更に覚醒するハガネ。
クライマックスにむけ、まだまだ加速します!
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