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第16話 合体技からの僧兵

「巨人って消えねえのな」

「そういえばそうだねー。なんでだろ」

「時間がかかっておるだけだ。中身から消滅し始めておるわ」


 アカネと話してる時、後ろからやたらと渋い声がした。振り向くとそこには、修行中の坊さんみたいな格好をしたおっさんが立っていた。こいつもでけぇな。


「あなたは……?」


 アカネが警戒しながら誰何する。おっさんは豪快にかっかっか、と笑いながら答えた。


「いや、これは失礼いたした。儂は高天原の英霊、武蔵坊弁慶と申す未熟者よ。以後よしなに、な」

「えっ」

「べ、べんけいって……」


 まじか。弁慶ってあの弁慶だよな?

 さっきは歳さんで今度は弁慶って。

 英霊ハンパねえな……。


「あの、もしかして土方さんの仰っていたもう一人って」

「おう、儂のことだなぁ。何、向こうは小さいのしか出なくてな、平らげた帰りに立ち寄ったまでよ。……それにしても小僧、強いな」

「結城ハガネです。……強いのは、このアカネっすよ」


 実際そうだ。強いのは俺じゃない。

 強くなりたい。強くありたいと思う気持ちは負けない。

 だが、俺はまだ(・・)、強くない。


「……お主は強い。確かに今はアカネ殿が際立つかもしれん。だが、アカネ殿がここまでやれるのはハガネ、お主が強くそこにあるからじゃ」

「そうだよ、ハガネ」


 アカネが微笑む。


「ボク1人だけの時なら多分、最初の亡者3人でいっぱいいっぱいだったと思う。……でも、ハガネが一緒にいるから、一緒に戦ってくれるから、巨人まで倒せたんだよ」

「アカネ……」

「ハガネ。守るものがあるからこそ、強くなるのだ。これまでもそういった経験をしてきているのではないか?」


 ……そうだ。

 俺はアカネを守るためにエインヘリヤルになった。そして、アカネを侮辱されたと思って、ヘイムダルに挑んだ。アカネの隣を奪おうとする同僚と戦った。

 ――アカネを守る力をつけるために、八千人と戦争した。


「俺だけでも、アカネだけでも駄目、か……」

「そういうことだ。だからこそ、アカネ殿と共にあるお主は強い。牛若様と共にあった儂がそうであったようにな」


 武蔵坊弁慶。五条大橋で牛若丸と出会い、戦い、敗れた後に従者となり、敵から主君を守るために、全身に矢を受けたまま、仁王立ちで果てた漢。

 俺にそれが出来るか?


「……精進します」

「おう。お主自身もまだまだ、まだまだ強くなる」


 そう笑いながら弁慶さんは、俺の頭をがしがしとなでた。


――――


 その後、先にヴァルハラに戻るという歳さんからの連絡が入り、俺たち3人はその場で待機することになった。


「土方さん、別の古戦場に行くんだって」

「忙しいな……。そんなにやばいのか、最近」

「うむ、確かに澱みが増えてきてはいた。だが、この1ヶ月ほどは異常だな。それまでに比べて出現頻度は三倍を超える」

「セカンドラグナロクの影響でしょうか」

「何とも言えぬ。それにしては時期が早いとは思うが……」

「それとも他に何か要因があるか」


 1ヶ月か。

 ちょうど俺が死んで、エインヘリヤルになった頃だな。

 その時に、なにがあったんだ……?


「アカネ」

「なぁに、ハガネ」

「1ヶ月ってさ、俺が死んだ頃だよな。その頃、なんかあったか?」

「んー、特に何も……。個人的にはハガネがボクのエインヘリヤルになってくれたってことかなっ」


 やんやん、と手を頬に添えて照れるアカネ。やんやんじゃねえよ可愛いな。


「……いや、待て」

「どうしました、弁慶さん」

「1ヶ月より少し前だ。黄泉比良坂への扉で、ロキという男を見たという報告があったな」

「ロキ……」


 どっかで聞いたことのある名前だ。


「ロキ、様……!?」


 アカネが驚いた表情を見せた。


「どうした、アカネ」

「なんで、ロキ様が……」


 あ。

 思い出した。

 ヴィーザルとの会合の時だ。


『で、そもそも高天原にやらかした黄泉の国には、北欧のロクだかロッキーだかってのがバックについてると』

『……ロキ様ね』


 確か、こんな会話をした。気がする。


「アカネ、ロキってのはあれだよな、北欧の神で、黄泉の国のバックにいるっていう」


 アカネはこくん、と小さく頷くと、俺と弁慶さんを交互に見ながら続けた。


「ロキ様はこれまで、表立った行動はしなかったんです。あくまでも黄泉の国の後ろ盾として存在していた。それが、黄泉比良坂なんて……」


 要は影の黒幕が舞台に出てきちゃったということか。

 あるいは、黒幕だと思いこんでた……?


 と、ヴァルハラと繋がる通信機からヘイムダルの声がした。


「ハガネ! 巨人を殺ったらしいじゃないか。よくやった」

「アカネのおかげっすよ。任務ですか?」

「うむ。お前たち、今弁慶と一緒にいるだろう。その3人で、行ってもらいたいところがある。頼めるか」

「ヘイムダル殿」


 弁慶さんが俺の横から声をかける。割と気さくな感じだ。


「おお、弁慶。聞いていたと思うが、次の任務はそこの2人と共に頼みたいのだ」

「頼まれましょうぞ。この2人、儂もしばらく見届けたいゆえ」

「では、そのように。……それでだ、ハガネ、アカネ。お前たちに行ってもらいたいのは――」


――――


「はい、というわけでやってきたわけですけども」

「はいはい……」

「……?」


 ほら、弁慶さんが何いってんだこいつって顔で見てるぞ。


「しかし、さっきまで会津にいて、もう島根とはなぁ……」

「神様のご都合主義ってやつだねー。ほら、どこにでも現れるじゃない、神って」

「そうだな。儂も何度か説明されたが、とりあえず便利としか覚えとらん」


 お、なんかシンパシー感じる。


「エインヘリヤルになる資格に『雑な人』とか書いてあるのかな……」

「かっかっかっ、そうやもしらんな。……さて、ここが」


 弁慶さんは豪快に笑い飛ばした後、ぎょろりと俺たちを見回した。


「――島根、東出雲。黄泉比良坂に一番近い扉だ」

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