まさかの展開について。
本日2話目です
現在、俺達は20歳前後の、中性的な顔立ちの兵士に連れられ、別室へと移動している。
ちなみに、さっきの川口の嘘の真意についてはまだ図れていない。
本当はあの場で聞きたかったのだが、流石にあの王様の目の前で「川口って『精霊使い』だろ?」とか言ったらどうなるのかは目に見えていた。
『精霊使い』、レアジョブみたいだしな。
「………ごめんね、ここはこういう国なんだ」
周りに誰もいなくなったあたりで、俺達を先導していた兵士が俺達に謝罪してくる。
「五年前にこの国が戦争で負けてしまってから、この国は変わってしまったんだ。今までにあった種族差別を撤廃して、代わりに弱者を差別する政策へと切り替えたんだ」
ということは、五年前までは種族差別はあったということだ。
しかし、負けたから弱者を差別するんじゃ意味が無いだろ。
「そのせいで、今この国にいる『魔物使い』は皆、闘技場での見世物扱いにされているんだ。もしも、僕にこの国を変える力があれば………いや、なんでもない。こんな事を言ったところで、何が変わるわけでもないのにね」
兵士が自嘲気味に笑う。
しかし、俺はその言葉を聞いて、この人が信用できる人だと確信した。
「兵士さん」
「?」
「俺はこれから強くなるためにここを出ます。その時になったら、一緒にこの国を変えませんか?」
その言葉に兵士は驚いたような表情を浮かべる。
「いや、でも……」
「正直、俺もあの王様の態度には少しイライラしていたんです。それに、俺は曲がりなりにも勇者の仲間ですよ?」
その言葉で踏ん切りがついたようで、兵士はこっちを向いて笑顔を浮かべる。
「そうだね。君は勇者様とも特に仲がいいみたいだったし、本当にこの国を変えてくれるかもしれない。僕はその時まで待っているよ」
そう言って手を差し伸べてくる。
俺はその手を握り返し、兵士に言った。
「俺の名前は優斗です。いつになるかは分かりませんが、その時までには兵士さんももう少し力をつけててくださいね?」
「はははは。……うん分かった。
僕の名前はケイゴだよ」
そして俺達が互いに頷きあったところで
「あの〜」
横から少し呆れたような、川口の声が聞こえた。
やばい、熱くなりすぎて川口のことを完全に忘れていた。
「私の事忘れてない?」
「い、いや、もちろん忘れてないぞ!?」
「本当?………ならいいんだけど、私も芝崎君に付いていくんだから、私だけのけ者にしないでほしいな」
「そっか、それはごめん………ってえっ!?川口も付いてくるのか!?」
「じゃあ、芝崎君は私を一人残してどこかに行くつもりだったの……?」
「え!?いや、川口は一樹達と残るものだと…」
「それだったらあの時手を挙げたりしないよ」
「そ、それもそうか………。あ、そうだ、それだよ!どうして川口はさっき手を挙げたんだ?一樹といた方が安全だっただろうに」
ケイゴさんが信用できると分かったので、俺は隠すことなく川口に聞く。
すると、川口は少し恥ずかしがりながら
「それは、後で言うね」
と言った。
とりあえず俺は川口に「分かった」とだけ伝え、別室へと向かったのだった。
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俺達はその後、別室で、一週間は過ごせるくらいのお金をケイゴ(あの後仲良くなった)から貰い、城を後にした。
その前に、一応一樹には一旦の別れの挨拶を言っておいた。
悲しい表情を浮かべていたが、俺が「元の世界に帰る方法を探るから都合がいい」と言ったら、「優斗らしいな」と苦笑していた。
あ、あと一応西本と一緒にいた方がいいとも言っておいた。
呪いが発動しないに越したことは無いからだ。
それに、本人は自覚はしていないと思うが、一樹も多分西本のことが好きだろうから、誰も損はしないしな。
まあ、それは置いといてだ。
俺と川口はその後すぐに、魔物を狩るためにさっきまでいた森に戻った。
そこで、ようやく俺は川口に、さっきはぐらかされた事を聞くことにした。
「ここなら問題無いだろ?
さっきの質問をしてもいいか?」
「…………うん」
俺はさっきと同じ質問を川口にする。
「何で俺に付いてきたんだ?一樹達と一緒にいた方が良かったんじゃないか?」
「その、それは……」
また川口は恥ずかしそうに俯いてしまう。
流石の俺でもこの反応を見れば察してしまった。
つまり、川口は
ぼっちの俺に気を遣ってついてきてくれたということだ!
多分、優しい川口のことだ。
空気に過ぎない俺なんかのことを心配してくれたのだろう。
だから、わざわざ俺を一人にしないためにみんなから離れてまで……。
そう考えると、それを答えさせようとしている自分が突然恥ずかしくなってくる。
だから、俺は川口の言葉を途中で遮ることにした。
「な、なあ、川口!」
「え、な、何!?」
まさかこのタイミングで俺に話しかけられるとは思ってなかったのか、驚いた様子で川口がこっちを見る。
かくいう俺も、何を言うか決めていなかったから、頭の中が真っ白になってしまった。
とにかく、今は状況を整理しようと、俺はパニックになる思考を整える。
まず、俺はオミスの条件を探すために旅をしなけらばならない。
それは、かなり危険な旅になるだろう。
そこに、善意でついてきてくれると言ってくれている川口を連れて行くわけにはいかない。
でも、ここで直接理由を言ってしまえば、川口は余計に心配して、ついていくと言ってくれるだろう。
だから、直接断るわけにはいかない。
間接的にかつ、川口が確実に一樹達の所へと戻ってもらえる方法は……。
と、そこまで考えたところで、俺の頭の中に一つの案が生まれる。
この方法なら、上の条件を整えれるのはもちろん、俺の未練も無くすことができるだろう。
ただ、それと引き換えに俺と川口との間の絆も無くなってしまうかもしれないが。
でも、もしそうなってしまったとしても、川口を危険な目に合わせるよりはマシだ。
俺はそう思って、川口の目を見て、その言葉を告げることにした。
「か、川口舞さん」
「は、はい?」
俺の雰囲気が変わったことを悟ったのか、川口が目を白黒させる。
俺は、こんな反応を見るのもこれで最後になるのかもな、と少し感慨と後悔を覚えながら、その言葉を発した。
「ずっと好きでした。俺と付き合って下さい」