謎の男に付いて。
本日1話目です
「へぇ、これは凄いな…」
森を出てすぐに、俺は思わず感嘆の声を上げてしまった。
森を抜けた先にあったのは、まるで戦国時代の城下町の様に賑わった街並みと、奥に見える巨大な城だった。
歴史の教科書の再現のような光景に、他のクラスメイト達もごくりと息を呑む。
それを見たおっさんは、若干誇らしげな顔をした後、俺達についてくるよう促して歩き始めた。
辺りを挙動不審にキョロキョロと見渡す俺達を、街の人々が訝しげな目で見つめてくる。
人々と言っても、頭に獣耳を生やした獣人族や耳の長いエルフ族、身長が俺の倍近くはある巨人族など、多種多様な固有ジョブを持った人がいる。
少なくとも、見た感じでは種族での差別は無さそうだな、と俺は少し安心した。
そんなことを考えながらその街通りを抜け、俺達は城へと辿りついた。
近くで見ると、遠くからはわからなかった装飾などが目に入り、少し中に入るのを躊躇ってしまう。
悲しいことに、これが日本人の性だから仕方ない。
「勇者様、ここでございます。
どうぞ、お入りくださいませ」
だが、おっさんはそんな俺達の心情には気付かず、中に入るよう俺達を促してくる。
流石にここまで来ては仕方ないと、俺達は観念して中へと入っていった。
「団長様!その者達は!?」
「突然出ていかれて心配しましたぞ!」
城の中を歩く俺達を見て、おっさんより少しグレードの落ちた鎧を着た男達が話しかけてくる。
どうやらおっさんがこの兵士団の団長みたいだ。
同じ兵士の仲間から慕われているようだが、兵士の言葉に俺は若干の違和感を感じた。
だが、その違和感の正体がわかる前に王様の元へ辿りつき、俺はその思考を一旦頭の隅に追いやることにしたのだった。
王の姿は、俺の予想とはそう離れたものではなかった。
見るからに高そうな服を身につけ、玉座に座って中に入ってきた俺達を見定めるように見つめてくる。
周りには貴族のような人間もいて、俺達のことを睨みつけてくる人もいる。
俺達はこんな所へ来た時の作法など全く知らないので、少し居心地の悪さを感じながら黙って歩いていった。
そんな中で、団長が王に近づき、何かを耳打ちする。
団長と言っても一兵士なので、不敬と言われるのではないか、と思ったが、どうやら団長はそれ相応の地位を認められているようで、特に何も言われることは無かった。
団長と王の会話はよく聞こえなかったが、話が進むにつれ、王の俺達に対する視線が訝しげなものから嬉々としたものに変わっていく。
俺がその反応にもまた疑問を抱いていると、王が団長との話をやめて、俺達に話しかけてきた。
「よく来てくれた、勇者殿とそのお付の者共よ。
私の名前はオウマという。いきなりですまないが、少し私の話を聞いて欲しい」
王の中では、一樹以外はお付と思われているみたいだ。
だから、この話も基本的には一樹にのみ語りかけているものなのだろう。
「実は少し前に、強大な力を持つ、魔王と呼ばれる存在が現れたのだ。過去に現れた魔王と同様、その力は絶大で、今もどこかで猛威を奮っているはずだ。
そこでお願いだ。勇者殿の力で魔王を討伐してはくれないだろうか?もちろん、その為なら我が国はいくらでも協力しよう」
王から聞かされたのは、城につれていかれると聞いた時から予測していたものと同じだった。
勇者がいるのなら魔王もいるのだろうと思っていたが、正にそのとおりだった。
だが、そうなると少しやり辛くなってしまう。
望んでいた異世界転移とはいえ、俺だってずっとここで定住したい訳では無い。
親にも会いたいし、向こうの世界でやりたいことも多くある。
だから、早くオミスの言う条件を探して、元の世界に帰る方法を探さなければならないのだ。
そんな中で魔王を倒していたら、えらく時間を浪費してしまう。
「その場合、俺達にメリットはあるのでしょうか?」
俺が悩んでいる間に、一樹が王に聞く。
一樹の中では、損より得の方が多ければ受けるという事なのだろうが、どうにも良い予感はしない。
そもそも、この王が信用できるという根拠がないのだ。
「もし魔王を倒してくれたのなら、もちろん好きなだけ報酬を与えようと思う。それでは駄目か?」
「いえ………その、俺達を元の世界に返「おい、一樹!」」
俺は考え事をしていた頭を慌てて切り替え、一樹の言葉を制す。
俺達が違う世界から来たという事を、信用できるかもわからない王に告げるわけにはいかないからだ。
それに一樹も気づいたようで、さっき言った言葉を慌てて取り消す。
「いえ、なんでもありません。やっぱり、その報酬だけで充分です」
「ほう、では、引き受けてくれるのか!?」
「はい、俺で良ければですが…」
一樹と王との間で話が進んでいく。
俺達に相談せず勝手に進めるのはどうかと思うが、求められているのは勇者である一樹だけなので、俺達は関係無いのだろう。
まあ、俺にとってはそれは好都合と言える。
「そうかそうか!
皆の者!宴の準備だ!勇者殿をもてなせい!」
「あ、ちょっと待ってください!」
ん?
「なんだ?勇者殿」
「その、みんなも一緒でも構わないでしょうか?
全員、特別な力も持っていますし、俺自身も、みんながいてくれると心強いので…」
おい待て一樹。
「うーむ、しかしそのお付の者共は戦うことが出来るのか?足でまといになられても困るのだが…」
「はい、多分ですが、みんな活躍してくれると思います。なあ?みんな!」
「おう!もちろんだぜ」
「魔王討伐とか怖いけど、楽しそう!」
「一樹君に頼りにされてる♡」
「一緒にいてくれると心強いだって!キャッ♡」
待て待て待て待て!
そんな俺の心の叫びも虚しく、話は全員で魔王討伐をする方向で定まっていく。
だが、そこで、まるで俺の為にあるようなご都合主義な条件が王から提示された。
「なるほど、分かった。しかし、条件がある。」
「なんでしょうか?」
「ジョブが『魔物使い』の者を連れていくことは出来ん。『魔物使い』は最弱のジョブと言われていて、本当に足でまといになってしまうからな」
………素直に喜べないのは何故なのだろうか。
俺が謎の悲しみを負っている間に、一樹が返事を返す。
「それは、仕方がありませんね。
でも、確か俺の知っている限りではこのクラスに『魔物使い』はいなかったはずです」
まあ、俺、自分のジョブを誰にも言ってないしな。
「だが、一応聞いておこう。勇者殿が把握していない者もいるかもしれないからな。この中で、ジョブが『魔物使い』である者は手を挙げてくれ」
誰も手を挙げない。
………俺以外は。
「え!?優斗!?」
「ああ、悪い、まだ言ってなかったな。俺のジョブは『魔物使い』なんだ。だから魔王討伐にはいけない」
「そんな………」
一樹もこれは予想外だったらしい。
まあ、俺が『魔物使い』だと知ってたらあんな条件飲まなかっただろうしな。
「そうか。
では、そなたには悪いが、別室に待機してもらおう。他にはいないか?」
王様が他のクラスメイトに聞く。
多分誰もいないだろうなぁ、と思いながら、俺もクラスメイトを見渡す。
全員のジョブを確認した感じでは、『魔物使い』は俺しかいなかったしな。
10人に1人にしては少なかった。
おそらく、このまま誰の手も挙がらないだろう。
しかし、そんな俺の予想とは裏腹に、俺の視界の右側で手が挙がった。
「そうか、そなたもか。では、そなたにも別室で待機してもらうということでいいだろうか?」
「は、はい!大丈夫です!」
その声を聞いたとき、俺はついに耳がおかしくなったと思った。
何故なら、それがさっきまですぐ傍で一緒に話をしていた、俺の愛しの相手の声だったからだ。
だが、俺の耳は別におかしくなってはいなかった。
そう、手を挙げたのは、『精霊使い』である川口だったのだ。




