突然知らない人が現れた件について。
本日3話目です!
その後、全員にステータスとジョブの確認の仕方を教え、俺達は森の出口を探して歩き始めた。
支給品に『コンパス』を貰ったクラスメイトがいたお陰で、探索はすんなりと進んだ。
ちなみに『コンパス』の詳細はこんな感じである。
『コンパス』・・・行きたい場所を念じるだけでその方角を教えてくれる。
これはかなり使える支給品だと思う。
この『コンパス』があれば、どこにいても迷うことはないということだ。
まあ、『コンパス』を手にした村上君(うろ覚え)は地味だと言ってショックを受けていたが。
5分ほど『コンパス』が指し示す方向へ歩いた辺りで、俺は違和感を覚え始めた。
俺達のいる場所は完全に森だ。
周り一面が木々に覆われており、辛うじて歩ける整備されていない道があるだけ。
それなのに、まだ一度も生き物と遭遇していないのだ。
本を流し読みで確認した感じでは、この世界では当たり前のように魔物が存在する。
しかも、その魔物達は主に、森や廃坑、高地等で出現するらしいのだ。
こんな何の手入れもされていないような森なんて、魔物の格好の住処だろう。
そう思って辺りを警戒しながら歩いていたのに、未だに生き物と遭遇する気配がない。
そこに俺は違和感を覚えていたのだ。
それから少しして、俺達はようやく整備された綺麗な道に出ることが出来た。
何事も無かったことに安堵と共に疑問を覚えるが、その瞬間に俺は背後から強い衝撃を受け、地面に叩きつけられる。
顔面からスライディングするように地面を滑ったが、そこまで痛みを感じない。
防御値がEランクに上がってるからだろう。
ランクが1上がるだけでだいぶ変わるみたいだ。
そんなことを考える余裕を持ちつつ後ろを振り返ると、そこにはスライムっぽいモンスターがいた。
体を粘膜で覆われており、土がジューという音を立てて少し溶けている。
あの体から出ている水溶液は酸性みたいだ。
そこそこ強めの。
しかも、体は結構でかい。
1mはあるんじゃないかというでかさだ。
こんなやつに背中を強打されて無傷だったのか……。
俺はそう思い、軽く背中をさすってみるが、制服すら溶けた様子がない。
もしかしたら、この制服にも何かしらの能力がついているのかもしれない。
周りのクラスメイトは突然の魔物に怯えているようだ。
さて、どうしようか。
はっきり言って、ステータス上は勝てるだろうが、あんなドロドロとした液体に触れたくはない。
逃げるしかないのか……スライム如きから…。
しかし、その心配は杞憂だった。
「お前、よくも優斗を……」
どうやら一樹はスライムを悪とみなしたようである。
その証拠に、剣が白く光り輝き、その力を増している(ように感じる)。
一樹はその剣をスライムに振り落とし、真ん中で綺麗に一刀両断した。
つえー。
勇者の剣パネェ。
あの剣が光っている間は一樹の攻撃値はCランクまで上がっていることになる。
ランク1上がるだけでも格段に強くなるらしいのに、3も上がるとかもはやチートの域を超えているな。
「大丈夫か優-------」
「大丈夫!?芝崎君!!」
地面に激突した俺を心配するように一樹が声を掛けようとしてくるが、それを遮るように川口がこっちに走ってくる。
痛みはないが、客観的に見ればかなり酷い怪我をしたように見えたのだろう。
「ああ、大丈夫だ。ありがとう2人とも」
心配してくれることは純粋に嬉しいが、周りの目も気になるので、俺は当たり障りのないことを言って立ち上がる。
それを見て、一樹と川口がホッと息をついたところで突然、『パチパチパチ』という拍手の音が聞こえてきた。
そして、俺達の目の前に鎧を着た40歳くらいの男性が現れた。
………この人、今どこから出てきた?
整備のされていない、道ですらない茂みの中から出てきたように見えたぞ。
まるで、俺達を待ち構えていたかのように。
「今の攻撃……まさか、あなた様は勇者様でございますか!?」
そのおっさんは、驚愕の表情を浮かべながら一樹にそう問いかける。
どうやら一樹に用があるようだ。
「いえ、俺は別に勇者というわけでは…」
「そんなはずはありません!!その剣を持っているのは勇者様だけと伝えられています!」
どうやら過去にも勇者という存在はいたらしいな。
『特殊ジョブ』の『勇者』が『???』になってない時点で気づくべきだったかもしれない。
まあ、そんなことより、今は目の前の状況をどうにかしないとな。
「一樹、『ジョブ』で確認してみたらどうだ?
もしお前が勇者なら『特殊ジョブ』のところに『勇者』ってついているはずだ」
「ん?あっ、そっか!
『ジョブ』!」
別に声に出す必要は無いんだけどな。
しばらく一樹は何も無い(ように見える)空間を見つめていたが、確認は終わったようで、その鎧の男性に向き直った。
「………どうやら、俺が勇者みたいです」
「やはりそうですか!そうであれば、早速我が国の王とお会いしていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ちょっと待ってくれませんか」
俺は慌てて口を挟む。
さっきから、明らかに怪しいところが多すぎる。
その疑問を聞いてからでないと、ついていくわけにはいかない。
「何だ?スライム(笑)に倒されていたお付の方」
一樹と話していた時とはあからさまに態度が違うが、そこは今は我慢する。
「いえ、ただ、どうして一樹が勇者だと分かったのかな、と」
「ふんっ、さっきの私の話を聞いていたのか?その光り輝く剣を持っているからだと………」
「違いますよね?だって、貴方は随分と前にここにいたみたいですし」
俺はおっさんの言葉を遮って、おっさんの出てきた茂みを指さしてそういう。
すると、おっさんは「……ほう」と感心した声をあげた。
「……なるほど、少しは頭の切れるやつがいるようだな。
まあ、いい。別に、そこまで知られてはならない事でもないからな」
おっさんはそう前置きして言う。
「我が王が治める国、カラマ王国は、勇者が現れる度にそれを知ることが出来るのだ。
流石に、その手段を教えることは出来んがな」
なるほど。
確かに、それなら納得がいくかもしれない。
今回のことも、予め俺達が来ると分かっていれば可能だろうしな。
………この男の態度は気に入らないが、どうやらこの男に付いて行った方がいいらしい。
「一樹、ここは連れていって貰った方がいいと思う」
「………うん、わかった。
では、王様の元へ連れていってもらってもいいでしょうか?」
「ええ!もちろん!」
そして、俺達はそのおっさんに付いていくことで、森を抜けることに成功したのだった。