舞とのデートについて。3(ギルド長との会話)
「やあ、君がヨエナ君かい?」
そう言って受付の女性に変わって出てきたのは、眼鏡をかけた真面目そうな人間族の男性だった。
一瞬、「ヨエナって誰だ?」と思ったが、今さっき自分がつけた名前だと思い直して、頷く。
「いきなりで悪いのだが、少し私の部屋に来てくれないかい?ここでは話せないこともあるからね」
結構地位の高い人なので敬語を使うか迷ったが、もう今更感が拭えなかったので、結局普通に返事をすることにした。
ちなみに王はムカつくのでノーカンである。
「わかった。俺の妻も一緒に連れて行っていいよな?」
「構わないよ。むしろ私からお願いしたかったくらいだからね」
その言葉を聞いて、舞にまで何かするつもりかと少し身構えながら、俺達はギルド長の部屋に向かった。
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「とりあえず座ってもらえるかい?」
ギルド長の部屋に入った俺達は、質素な椅子に腰掛ける。
「遅れて申し訳ないが、私がギルド長のウルドだ。よろしく頼む」
「ああ、こちらこそよろしく。
それで、俺達を呼んだ理由はなんだ?」
前置きはなしでいきなり本題に入るように言う。
今日はデートの時間だったのに、それを遮られたのだから当然だ。
「ああ、そうだった、すまないね。
既にわかっているとは思うけど、話っていうのは君の実力についてなんだ」
まあそりゃそうだろうな。
勇者が800超えとかの世界で、いきなり900代を出してしまったんだから、警戒されるのも必然といえる。
「本来なら、このギルドのお抱えとして置いておきたいのだけれど、その相手が英雄様ともなればそういうわけにもいかない」
「ああ、こっちも願い下げだぞ。
俺は一ヶ月後にはここを出る予定だからな」
そもそも王様があいつって時点でこの国への印象はマイナスから始まっているのだ。
イノマやカール、ティフィアにハルノ達がいなかったらこの国を守ることすらしなかったかもしれない。
ん?
そういえば、一樹達はどうなったんだ?
魔物が襲撃してきた時に出てこなかったってことは、もうこの国にいないとかか?
後で城に行って団長辺りに聞くことにしよう。
「だから、その代わりにヨエナ君に頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと?」
「ええ、簡単に言うと、ヨエナ君にSランクになってもらいたいということだよ」
えらく簡単に言うな。
そもそもこのギルド長にそんな権限があるのか?
「それと、一応言っておくけど、各国のギルド長には必要に応じて冒険者のランクを上げる権利があるんだ。まあ、もしSランクとかを排出した場合は報告はしないといけないけどね」
めんどくさいという雰囲気を醸し出し始めたウルドに俺は質問する。
「でも、それってそんな簡単になっていいものなのか?Sランクって化け物集団なんだろ?普通に認められない気がするんだが」
「あはは、何を言ってるんだい『英雄様』。
あの森に百年程前に突然現れたと言われる黒竜を使役してるんだから、誰も文句なんて言わないよ」
「そんなものなのか。
……って今、百年って言ったか?それに、竜がいることに気づいていたたのなら、パニックとかにはならなかったのか?」
確かアマルーナは最近ここに来たって言ってた筈なんだけどな。
いや、それはあいつにとっての最近ってことなのかもしれないな。
「ええ、最初の方は、それはもうパニックになったらしいよ。
突然空を黒い竜が飛んで、あの森に入ったのだから。
でも、そこから数十年の間、何の動きも見せなかったから、国民はみんな幻覚だったって思い込んで忘れてるんだ」
「ふーん、なるほどな」
アマルーナにとっては散歩程度でも、国にとっては一大事だもんな。
パ二ックにならない訳がないか。
「それで、俺がSランクになるメリットはなんだ?なんかめんどくさいイメージしかないんだが」
「大丈夫だよ、そこまでめんどくさくはないから。
メリットとしては、一つ目は周りの人から一目置かれること。ヨエナ君にとっては悪いことじゃないと思うよ。
二つ目はギルドからの情報を詳しく教えてもらえること。Sランクには手伝ってもらう場面が出ると思うから、情報の供給は必要なんだ。
大きく言えばこれくらいだけど、悪い取引じゃないと思うよ」
確かにそれだけ聞くといいことだらけのようにも聞こえるが……
「それで、俺をSランクにするってことは、それ相応の何かをしないといけないってことだよな?何をさせるつもりだ?」
単純に考えて、そんな世界に四人しかいないSランクに加えるってことは、何か代償があるはず。
そう考えて聞いたのだが……
「いや、特に何かをさせるつもりは無いよ。
Sランクになったら、ギルドの緊急依頼を受けないといけなくなるけど、それ以外に特に目的は無いかなぁ」
別にこれといって何かをしないといけないわけじゃないらしい。
それは嬉しいことなのだが、何か裏がありそうで怖い。
「一応言っとくけど、別に裏があるわけじゃないよ?
Sランクへの緊急依頼は、それはそれは大変なものばかりだから、それで元は取れるからね」
さっきからウルドが俺の心を読んでて怖いんだが。
いや、たまたまなんだろうけど、そんなに表情に出てたかな?
「じゃあわかった。Sランクになるよ。
Sランクになる為の手続きみたいなのはないのか?」
「うーん、特に無いかな。後は私が各ギルドに報告して、書類を書くだけで君はSランクさ」
「ふーん、そんな簡単なんだな」
「いや、普通はSランクなんて滅多に出ないから、詳しく決められてないだけなんだけどね」
なんか呆れ顔で言われた。
まあいいや。
「それは分かったんだが、じゃあミウはなんで呼ばれたんだ?」
「ああ、それはね……」
舞のことについて聞くと、突然ウルドが真剣な顔をしたので、俺はごくりと息を呑む。
「それは………私が英雄様の奥さんを一目見たかったからだよー!
いやぁ、流石英雄様、こんな可愛い女の子を妻にするなんて、隅に置けないねぇ」
俺は湧き上がってくる殺意を抑えながら、舞がなにかさせられるわけじゃないと知って、ホッと息をつくのだった。




