舞とのデートについて。2(冒険者ギルドで)
冒険者ギルド内は一昨日と変わらず、多くの冒険者で溢れかえっていた。
絶えず冒険者同士の会話等で賑わっていることもあってか、俺達が入ったことに気づいた人はほとんどいない。
その気づいた内の一人であるイノマがこっちに歩いてきた。
「よおユウト、昨日は大変だったな」
「ああ、あんなに濃厚な一日を過ごしたのは初めてだ」
「ははっ、まあそりゃあそうだろうな。あんな体験を何度もしてたら、命がいくつあっても足りやしねえよ」
イノマが笑いながらそう言うが、ぶっちゃけ何日か連続であんなことがあったとしても、普通に耐えられる自信はある。
精神的にもつかどうかは分からないけどな。
「それより、彼女とこんなところにどうした?デートで来る場所でもないだろうに」
イノマが聞いてくるが、その発言は少し訂正させてもらおう。
「彼女じゃなくて妻だ。ちゃんと結婚もしている」
まあ、俺達が勝手にしただけだけど、それでも結婚は結婚だろう。
俺の言葉にイノマが驚いたように目を見開く。
「まじか……。俺、ユウトより年上なのに先越されてたのかよ……」
なにやらブツブツ言っているイノマだが、気にせず質問に答えることにしよう。
「ここに来た理由は冒険者になるためだな。
一昨日来た時は、結局なれなかったし」
「………そ、そうか、まあ、がんばれよ……」
なんか突然テンションが下がったイノマは、そう言ってそのまま元の場所に帰っていった。
その背中からは、妙に哀愁が漂っているように感じられた。
「イノマのやつ、どうしたんだ?」
「うーん、分かんない。どうしたんだろうね」
俺達が結婚してるって話をしてから突然ああなったけど、本当にどうしたんだろうか。
まあ、魔物使い最強のイノマだったら女性も選び放題だろうけどな。
「ま、それはいいか。
それより、早く受付に行こう」
「………うん、そうだね」
俺達はとりあえず考えるのをやめて受付に向かう。
この頃になると、俺達に気がつく冒険者も徐々に増え始めていた。
一昨日に来た時とは正反対の意味を持つ視線を周囲から集中的に受けるが、もう前の二軒で慣れているため戸惑いはない。
さっきまでとは違うざわめきが聞こえる中、俺は受付の女性に話しかけた。
「ちょっといいか?」
「……!は、はい、なんでしょうか」
…………周りの視線に慣れてきたとはいえ、こういう反応をされるのには慣れていないので若干困る。
だが、俺は気にする素振りを見せずにそのまま話し始めた。
「俺達はまだ冒険者登録していないんだが、なれるか?」
「は、はい!大丈夫です」
少し緊張気味の女性だが、てきぱきと用意をしているところを見ると、一応しっかりとした人物のようだ。
「あ、えっと、冒険者についての説明は必要ですか?」
そこで思い出したように女性は俺の方を見て質問してくる。
「ああ、頼む」
「えっ?
あ、はい、わかりました」
どうやら俺達に説明が必要とは思っていなかったらしい。
まあ、あれだけの力を持っていながらそんな一般常識を知らないとは、普通は思わないか。
一応本に載ってることは載ってるのだが、かなりざっくりとした説明なので、実際に聞いた方がいいと考えたのだ。
「それでは説明いたしますね。
まず、冒険者にはランクがあり、下からG、F、E、D、C、B、A、Sランクとなっています。
最初に冒険者になる際に、適正ランクが何ランクかを魔法で測り、その一つ下のランクからスタートすることになります。ただし、適正ランクがGランクの場合は、そのままGランクとしてスタートしてもらいます」
まあ、ここまでは本にも載っていたから知っている。
「冒険者のクエストには国民の手伝い、魔物の討伐、未発見地域の調査があります。
それぞれに制限ランクが課せられており、手伝いはGランクから、討伐はDランクから、調査はBランクからとなっています。
この国で最もランクの高い方でBランクとなっています」
なるほど。
ここまで詳しい情報は本には載っていなかった。
ていうか、この国結構でかいけど、それでもBランクで最大なんだな。
「Sランクはこの世界に四人しかおらず、そのどれもが怪物のような強さを誇るといいます」
そしてSランクは四人、と。
怪物ってどの程度なのだろうか?
もしかしたら限界を超えた強さを持ってるのかもしれない。
「また、Dランク以上の冒険者には、ギルドから緊急の召集がかかる場合があります。その時は国内の冒険者ギルドに向かうという義務が発生します」
ふむ。
これは拒否したらランクが下がるとか、そういうパターンのやつだろうな。
無論、拒否するつもりは全くないが。
「ランクの上昇条件については、ギルドによる試験のためにそれ相応のクエストをクリアすることでランクを上げることができます。
ただ、魔法による鑑定で相応しい実力があると認められた場合のみ、ランクを上げることが認められます」
つまり、一定期間修行して強くなった場合等は、ギルドの試験を受けなくてもいいっていうことだな。
魔法による鑑定って何なんだ?
「なあ、魔法による鑑定って、何をするんだ?」
「はい。それに関しては後で実際に見てもらった方が早いかと思います」
「わかった」
俺は素直に頷く。
実は心の中ではワクワクしているが顔には出さない。
「それでは、早速ですが、登録の方に入りたいと思います。
こちらの用紙に必要事項を記入してください」
そう言って渡された紙には以下のことが書かれていた。
・登録名
・年齢
・固有ジョブ
・通常ジョブ
・登録国
その欄を見て、俺は気になったことを女性に聞いてみる。
「登録名ってことは、本名じゃなくてもいいのか?」
「はい、貴族の方等で名前を知られたくないと仰る方もいますので、登録名は好きに決めても構いません」
「なるほどな……」
それを聞いて俺は少し考えた。
俺と舞の名前はこの世界の人間とは違い、名字と名前に分かれているから、両方書いたら不自然になってしまう可能性がある。
かといって、名字だけ書けば、俺は舞と名字で呼び合わないといけなくなるし、名前だけ書いたとしたら、舞が初対面の他人全員から下の名前で呼ばれることになってしまう。
それはなんか嫌だ。
「舞、登録名は偽名にしよう」
「うん?どうして?」
「まあ、色々理由があるんだ」
流石に舞の名前を他人に呼んで欲しくないから、等ということを言うわけにはいかないので、少し言葉を濁す。
だが、舞は少し首をかしげた後に素直に頷いた。
「じゃあどういう名前にするの?」
「うーん、そうだな……カタカナで、短い名前がいいな」
俺が考え込むと、舞があっといった感じでこう言った。
「……ミウ」
「ん?」
「マイって五十音順で一文字下げるとミウになるでしょ?これならちょうどいいんじゃないかな?」
「なるほど、確かにそれはいいかもしれないな」
ユウトだったらヨエナか。
かなり不自然さはあるものの、この世界で考えたらそうおかしい名前でもないだろう。
「よし、じゃあそうしよう。舞がミウ、俺がヨエナだ」
「うん、わかった!」
登録名以外は特に気にすることなく俺達は順番に必要事項を埋めていく。
そしてその用紙を書き終わり、女性に渡すと、女性は俺達の目の前に野球ボール程の大きさの透明な球体を出した。
「それは?」
「はい、これは魔水晶といいまして、触れたものの実力を数値で示すものです。0~100がGランク、101~200がFランクと上がっていき、701~800でSランクとなります。一応、過去の勇者が触れた時は、800を超えたこともありました」
へー、そんな水晶があるんだな。
話を聞いてみると、各国の実力の高い魔法使いが協力して作った、最高級の魔道具らしい。
そんなものをこんな簡単に置いていいのかよ、とは思ったが、一応何個でも替えはあるらしいし、ギルドにしか置いていないため、もし盗ったとしてもどうすることもできないと聞いて納得した。
「それでは早速測っていきますが、少しお待ちください」
そう言って女性は水晶玉に触れる。
すると、その水晶玉の中央に“23”という文字が映った。
「正常に機能しているみたいですね。
大丈夫です。それでは、どちらが先に触れられますか?」
「舞、先にやってくれ」
「うん、わかった!」
こころなしか少しウキウキとした感じの舞が水晶玉の前に出る。
いつしか、冒険者ギルド内は静かになり、全員が緊張の面持ちで舞を見守っていた。
「じゃ、触れるねー」
そう言って舞が水晶玉に触れると、中央に数字が出現する。
その数値は“536”
それを見た瞬間、女性は思わずといった感じで持っていた俺達の用紙を受付台に落としてしまった。
「536!?最初にこんな数字が出るなんて……聞いたこともありません!」
「え?そうなんですか!?」
「はい……現在のSランクの方で最も強い方でも、最初の数字は400代だと聞きます」
「良かったな、舞」
「うん!」
凄いと言われ、嬉しそうな表情を見せる舞だが、一方で周りの冒険者は一斉に驚愕の表情を見せていた。
「まじか……俺でもまだ300代後半なのに…」
「英雄様の奥さんだから強いとは思っていたが、まさかここまでとはね」
「じゃあ英雄様はどうなるんだ?700代の数値ががきても、俺はもう驚かない気がするぞ」
「奇遇だな、俺もだ」
そんな冒険者のざわめきで、喜んでいる舞に見とれていた俺は正気に戻り、女性に質問した。
「536ってことは、舞はCランクからスタートってことか?」
「は、はい、そうなります」
女性も俺の質問にハッと現実に帰ってきたようで、慌ててそういった。
「じゃあ、次は俺の番だな」
俺がそう言うと、さっきまでのざわつきが嘘のように静かになった。
全員が、一瞬たりとも見逃さないと、視線を水晶玉に集中させている。
俺は、「プライバシーもへったくれもないな」と呆れながらも水晶玉に触れた。
そして浮き上がった数字は……
「“948”か。
なあ、800超えたけど、こういう場合はどうなるんだ……っておい、大丈夫か?」
俺が視線を女性に向けると、女性は驚きのあまりか、魂の抜けた状態になっていた。
舞の時はすぐにうるさくなった冒険者も、今は一言も発さず呆然としている。
俺が困って頬をかいていると、ようやく女性が正気に戻って慌てだした。
「ギルド長を呼んでくるので少し待っていてください!」
そう言って奥の方に走っていった女性を見て、俺は「また迷惑事の予感がする」と人知れず溜息をつくのだった。




