消えたルーク2
名門パレス学園の落ちこぼれ、魔法適性ゼロのマッセ。
彼はただ、平穏な日常を守るために「無能」のフリをして過ごしていた。
しかし、紛失したチェス駒を巡り、学園一の天才美少女・アリサが魔法の極致を尽くしても辿り着けなかった「真実」に、マッセはたった数問の質疑で辿り着く。
「それじゃあ事件の内容を話そうか。まあ、事件というほどのことではないのだが……」
ドグマが二つ折りのチェス盤を開く。駒を収納する窪みが、一箇所だけぽっかりと空白を作っていた。
「今朝、レギュラーの朝練のためにこの盤を持って部室へ行ったんだ。そこで気づいた。白のルークがひとつ足りない、とね」
アリサがすかさず身を乗り出し、事務的なトーンで質問を飛ばす。
「最後に駒が確認できたのは?」
「僕が最後に確認したのは4日前、全ての駒を洗ったからね」
「朝練の時間は何時から何時まで?」
「7:00から8:10くらいかな、1回対局した後に検討をして終わる流れだね」
「この部室は誰でも出入り出来る?」
「こっちの控え室の鍵は基本開けっぱなしだね」
アリサの尋問が終わる。彼女の視線が、値踏みするようにマッセへ投げられた。
(こっちもなにか聞かなきゃいけないのか?)
マッセは1つ咳払いをする。
「基本最後に片付けをする人間は決まってますか?」
「特に決まってないけど、基本は最後の対局で負けた方かな、後輩が気を利かせてやったりもするけど」
マッセが深く頷くと沈黙が流れる。
「それだけ!?」
「まあ、今分かることなんてそんなないんで」
彼女は深い溜息とともに目頭を指で押さえた。いいだろ、こっちは素人なんだ。
「それじゃあ魔法検出しちゃいましょう、ジュリア宜しく」
「はーい」
伸び伸びと返事をしたジュリアは部室の中心に立ち魔法を行使する。
ジュリアの周りの地面は魔法陣が幾重にも重なり、辺りが淡く光っている。
魔法適性の無いマッセでも視認出来るほどの強力な魔法であった。
「終わりました〜、結果はなにも魔法は使われていませーん」
「何も知らず申し訳ないんですけど、どういう魔法か教えてくれませんか?」
「私の魔法検出は24時間以内に使われた魔法をが分かるって魔法です〜魔力の消費が激しいのになにも出ないと少しへこみます〜」
「それは、、、ありがとうございます」
「それじゃあ、次は聞き込みね、ドグマさん、3日前までの最後に無くなった盤を使っていた生徒を呼んでもらえる」
「承知しました」
1人目は初日に盤を片付けたという1年生の生徒であった。
マッセはこの生徒をどこかで見た事がある気がしたが今は突っ込まないでおいた。
確か選択授業が一緒の生徒だ。
身長は165cmくらいの小柄な生徒だった。
「1年Ⅳ組のダルトンです」
「3日前、盤を片付けた時、なにか違和感はあった?」
「いえ特に、、、」
「この控え室を離れた時間は?」
「3日前は18:00頃だったと思います」
質問は終わりらしく、またもマッセに目線を配る。
先程より鋭い眼光が刺々しく刺さる。
「この3日の間の来た時間を教えてください」
「1日目は16:10くらい2日目は15:50、3日目も15:50くらいです」
「1番乗りの日はありましたか?」
「3日目は1番乗りでした」
「ありがとうございます、以上です」
質問が終わるとそそくさと控え室を出て行った。
入れ替わるように入ってきたのは身長180cmはあるであろう大男で制服の上からでも体を鍛えている事は容易に想像出来る。
チェス部というよりかは柔術部の方が似合いそうだ。
「2年Ⅲ組のバッシュだ」
「2日目盤を片付けた時違和感は無かった?」
見るからにいかつい人間にも敬語を使わないとは、アリサは相当な自信家なのだろう。
まあ、同じ学生でこいつに敵う奴なんていないのか、、、
「特に無かったな、駒が揃っているのを確認して毎度帰宅している」
「この控え室を離れた時間は?」
「18:00頃だ、部活が終わるのが大体この時間だからな」
学習したマッセは目線を配られる前に質問を始める。
「この3日間来た時間を教えてください」
「1日目は15:50、2日目は15:50、3日目は17:00くらいだ」
「3日目が遅いのはなぜですか?」
「委員会があったからな、ドグマにも伝えて遅れた」
「分かりました、ありがとうございます、」
バッシュが退出し少し経つと最後の人が入ってくる。
すらっとした高身長だが前髪が長く、その隙間から見える目にはどこか不気味さを感じる。
「3年Ⅱ組、デスタです」
「3日目盤を片付けた時に違和感はあった?」
「特に無かったですね」
「この部室を離れた時間は?」
「大体18:20頃でしょうか」
「他2人より20分ほど遅いけどその理由は?」
「僕は大会のメンバーですから、大会の話と朝練の話を聞いていたのですよ」
なかなか質問しないマッセに声を荒げながら目をやる。
「あなたの番よ、早くしなさい」
マッセはデスタの全身を一度だけゆっくりと眺め、それから視線を外した。
「……いえ、僕からの質問は結構です」
デスタは軽くお辞儀をして、音もなく控え室を後にした。
「……あなた、質問しないなんてどういうつもり? 遊びじゃないのよ」
「もう、誰が犯人か分かったからね」
その言葉に、現場の空気が凍りついた。
「ドグマさん、ひとつお願いがあるのですが。今回の事件、あまり大事にしないでいただけますか?」
「ああ。元々アリサ嬢が騒ぎ立てただけで、私としても穏便に済ませたい。約束しよう」
マッセは一度だけ深く息を吐き、静かに語り始めた。




