消えたルーク1
魔法あたりまえのこの世界で、魔法適性ゼロの「異質」として生きる少年・マッセ。名門パレス学園の片隅で、彼はただ平穏な日常を願っていた。
しかし、お節介な友人・ダイゴに引きずり込まれたチェス部で、学園一の天才美少女・アリサと最悪の出会いを果たす。
「犯人探し」という名の厄介事。望まぬ推理の幕が今、静かに上がる。
(最悪だ、、、)
マッセは心の中でただ後悔する。
面倒事が嫌いなマッセのモットーは平和に生きるということであった。
しかし一度でも自分の性分に合わない事をした瞬間これだ。
マッセはこの国屈指の名門校パレス学園に通う高校一年生だ。
パレス学園が名門たる所以は教育の内容にあった。
魔法が使えるこの世界で魔法の実技、教材、講師がここまで揃ってる学園は周りには無い。
通う生徒の大半はどっかしらのボンボンが7割、その他が3割程度といったところだろう。
マッセは後者である外部生徒にあたる。
一般の受験、実技、面接を得てなんとか入学する事が出来たのだ。
その中でもマッセは異質中の異質。
魔法の適正がゼロなのである。
強大な魔力であればなんとなく分かるが微細な魔力は感知出来ない。
いわゆる落ちこぼれであった。
魔法適性ゼロ自体はとても珍しいことだが、世間一般的には魔法が得意で無い者も多い。
しかしこの学園にいる異常、異質と例えるのが妥当であろう。
パレス学園は実力別にⅠ〜Ⅴ組まで分けられており、マッセは最低クラスのⅤ組に属している。
最初の方は面白がられよく話しかけられていたが1ヶ月も経てば面白味も無くなりクラスに馴染んでいた。
「部活動なににするか決めたか?」
同じクラスのダイゴが窓際にあるマッセの席の前の席に腰を掛け唐突に聞いてくる。
「いや、まだだけど、別に入らなくても良いんだろ?」
「何言ってんだマッセ、せっかくパレスに入ったからには部活動したほうがいいぞ」
見てみろといわんばかりに腕を大きく右に伸ばすとそこにはグラウンド上で部活に励む生徒の姿があった。
「やっぱ青春だよな、強豪な部活が多くてみんな切磋琢磨しているらしいぞ〜」
目を輝かせるダイゴを横目に呆れた顔をする。
「ダイゴは何部にするか決めたのか?」
「チェスがいいかなー、世界選手権の常連らしいし」
(運動部じゃ無いのかよ)
「ルール知ってんの?」
「今から覚えるんだよ!」
こいつ、勢いでなんでも決める奴だな。
「そこでお願いなんだけど、、、一緒に仮入部に行かない?」
「なんで俺なんだよ」
あからさま面倒くさそうな顔をするマッセ。
そんなマッセを半ば強引に引っ張り、チェス部の部室へ向かう。
まあ、少ない学友の頼みだ、ここは聞いておいてやろう。
「失礼します」
恐る恐る扉を開けると綺麗に並ばれた机上で多くの生徒が盤を挟みチェスをさしていた。
沈黙の空気の中に対局時計の電子音だけが鳴り響いていた。
「君達は入部希望の生徒かい?」
対局を歩きながら眺めていた綺麗な白色の髪のすらっとした男が話しかけてくる。
「はい、そうです、俺はダイゴと言います」
「僕はマッセです」
「そうかい、そうかい、僕は部長のドグマだ、早速打ってみるかい?経験者?」
「自分初心者なんですけど、、、」
小さく手を上げるダイゴを見てドグマは優しく微笑んだ。
「全然問題ないよ、誰しも最初は初心者だからね、では僕がルールを教えてあげよう」
「あ、ありがとうございます」
強豪校の部長ということもあってかドグマからはとても落ち着いた大人の雰囲気を感じる。
「マッセ君はどうするかい?」
「僕は今日の所は見学で大丈夫です」
「そうかい、好きに見ていってくれたまえ」
マッセは後ろに手を組み机の間をゆっくり歩いて行く。
さすが強豪校。強い選手が多い。
何よりも空気感から本気が伝わってくる。
そんな空気は一瞬で乱れる。
物凄い勢いでドアが開く。
大半の生徒が自然と入り口に目をやる。
「探偵部のアリサよ!事件と聞いて駆けつけて来たわ」
そこには赤よりのピンク色の髪をツインテールにしている綺麗な赤目の美少女が立っていた。
名前はもちろん知っている。
この学園一の有名人、高等部1年Ⅰ組、魔法の天才アリサ=レークスだからだ。
貴族、基は人に興味の無いマッセだが彼女の名前は知っている。
1000年に一人の逸材、一般人との魔法への解釈が段違いであり、魔法は洗練され、異次元のステージに立っている。
って昔なんかの雑誌で見たような。。。
すぐさま声をかけたのはドグマであった。
「アリサ嬢、対局中はお静かに、、、」
「これは失礼したわね、終わるまで待つは、気にせず続けてちょうだい」
ドグマがパチンと手を叩き、対局に集中するように伝えると部員達はすぐに盤面へと戻った。
ドグマは隣の控え室(部員の荷物置き場)にアリサを呼び出す。
やる事が無くなったダイゴはマッセに駆け寄る。
「事件だってよ、盗み聞きしようぜ」
「いやだよ、面倒くさそう」
「いいから、いいから」
またも半ば強引にに連れて行かれるマッセであった。
廊下の通路から話を聞くと内容は充分に聞き取れた。
「事件なんて、アリサ嬢、大袈裟ですよ、チェスの駒が無くなっただけなのですから」
「でも、私の所にその犯人を捜してほしいという依頼があったわ、探偵部として調査させてもらうわ」
「いいですけど、対局が終わってからにしてください」
「盗み聞きはよくないですよ〜」
「うわっ!!」
急に声をかけられたダイゴとマッセは思わず腰を抜かす。
「どうも〜探偵部のジュリアで〜す」
クリーム色の髪にゆるふわのウェーブがかかっており、話し方も相まってかどこかほわほわとした空気を感じる。
「なによ、そいつら」
アリサは冷ややかな目線を2人に向ける。
「彼らは体験入部に来た1年生2人だよ」
「ダイゴと言います」
「マッセです」
「まあ、今日来たばっかならこの事件には無関係そうね」
こほんとダイゴが1つ咳払いをし話し始める。
「アリサさん、マッセはこう見えても推理が得意なんですよ、ここはどうか一枚噛ませてもらえませんか」
「お前、なに言ってんだよ」
(こいつ!余計なこと言いやがって!)
アリサがゆっくりとマッセを見る。
「ふーん」
顕微鏡でバクテリアでも覗き込むような、無機質な好奇心。
(頼む、鼻で笑って無視してくれ、そのまま俺を空気として扱ってくれ)
「まあ、面白そうだし捜査に参加させてあげる」
思いっきり落胆するマッセを横目に親指を立てグッドポーズをするダイゴ。
マッセは天を仰いだ。ダイゴ、、、お前は呪う。




