祝福
瘴気が活性化する一ヶ月が終わり、各領地へ派遣されていたコローレの王族達が戻った後。
王城では各領地の代表者を招待しての慰労会が開かれています。
顔ぶれは最初のパーティーとほぼほぼ一緒ですね。よほどの理由がない限りは、精霊の年を迎える前のパーティーに来ていた領主達が参加するのがいつもの事なので。
ただ最初の頃と違って元気のない方々もいらっしゃいます。
ま、色々あったんでしょうね、彼らも。
私が知っているのはセッピア領とジャッロ領の件だけですが、他の領地でも何かしらあったらしいと兄弟から話を聞きました。
そんな事を考えながらぐるりと会場を眺めていると、リーフさんの姿を見つけました。
目が合うとにこっと笑ってくれたので、私も笑って手を軽く振ってみます。
それを見て、セッピア領とジャッロ領の領主の顔色がぐっと悪くなりました。
「うーん、効いているねぇ」
すると近くに来ていたキルシュお兄様がそんな事を言いました。
「お兄様、何を言ったんです?」
「ん~? 最後に瘴気の様子を確認に行った時、ちょっとね。対応したのがミモザで良かったね、他の弟妹達だったらどうなっていただろう……って言っただけ」
キルシュお兄様はすうと目を細めてそう言いました。
「あらまぁ。誰が対応しても大体一緒でしょう?」
「まぁね。でも、内容を聞いた時に一番怖いのはミモザだったって思ったよ」
「私ですか?」
おや、と私は目を瞬きます。
そんなに怖い事を言った覚えはないのですが……。
「私は『謝罪は結構です』と伝えただけですよ」
「それが一番怖いんだよ」
「そうなんです?」
「そうなんです」
キルシュお兄様はこくりと頷きました。
うーん。私個人への謝罪に関しては、特に必要性を感じなかったのでそう言っただけなんですよね。
私が良く分からずに首を傾げていると、
「謝罪はいらないという言葉はね、受け取る側からすると『謝罪する場すら設けてもらえない』と感じるんだよ」
えっ、まことに?
私はぎょっと目を剥きました。
「私、とんでもなく性格が悪い感じになりましたね!?」
「あっはっは。ま、普段から陰口を言っていた連中だし、その事も含めて良い薬になったんじゃない?」
キルシュお兄様は楽しそうに笑います。笑い事ではありません。
いえ、まぁ、性格が悪いというのは間違っていないと思うのですが、今回の件に限っては解せないと言う気持ちがあります。
私が「ぐぬぬ……」と唸っていると、
「ミモザ様! キルシュ様!」
リーフさんがこちらへやって来ました。
「こんにちは、リーフさん」
「こんにちは。また会えて嬉しいよ」
「光栄です!」
キルシュお兄様がにこっと笑いかけると、リーフさんの明るい声が返ってきました。
すると近くにいた領主達からざわめきが聞こえます。
でしょうねぇ、と思いました。
あまり接点のなさそうな相手に対して、キルシュお兄様が「会えて嬉しい」なんて親し気に接するのは珍しい事なのです。
立場上、相手を信頼するまでに時間がかかるから、とも言えるかもしれません。
お茶会に誘った事も含めて、よほどリーフさんの事を気に入っているようですね。
「いいなぁ、ミモザは。リーフ君に忠誠を誓ってもらえて」
「んっふふ。いいでしょう。私のリーフさんですよ」
「っ」
胸を張ってそう言うと、リーフさんの顔が赤くなりました。
最近、わりとこうなる事が多いのですが、どうしたんでしょう。照れの沸点が低くなったんですかね?
私がそう思っていると、キルシュお兄様が「へーえ?」と顎に手を当てて面白そうに呟きます。
「なるほど、こういう感じになるのもアリ……」
「何がです?」
「独り言、独り言」
ずいぶん大きな独り言だった気がするのですが。
私がそう思っていると、その時、楽団が演奏を始めました。
今回の慰労会にはダンスの時間もあるのですよね。
ただ、私は毎年眺めているか、兄弟の誰かが誘ってくれるかなんですが……。
どうしようかなとリーフさんの方を見上げると、彼も私を見ていたようで目が合いました。
……よし。せっかくの機会ですものね。
私はリーフさんの方へ向き直ると、
「踊っていただけますか?」
と手を差し出して、自分で誘ってみました。
「喜んで」
リーフさんはパッと笑顔になって、手を取ってくれます。
――その時です。
私とリーフさんの手が触れた瞬間、私達の周りにキラキラした光が現れました。
精霊結晶から放たれていた、あの光です。
「これは驚いた……精霊の祝福だ。ミモザ、何かしたの?」
驚いた様子のキルシュお兄様からそう訊かれました。
精霊の祝福――噂だけは聞いた事があります。精霊達からとても感謝されると「良い事がありますように!」と、お礼の意味を込めて祝福を与えてくれるのだとか。
けれども、そこまで感謝されるような事は何かありましたっけ。
「特別な事は何も……普通に浄化をしていただけですし」
心当たりがなくて私が首を傾げていると、キラキラした光の中に一瞬、紫色の光が混ざった気がしました。
「あ」
それを見て、ある事を思い出します。
あの穴の底で見た瘴気結晶。そう言えば、あれも精霊結晶と同じ光を放っていました。
「……瘴気からありがとうって言われた気がします」
聞き間違いだったかもしれませんし。どうしてお礼を言われたのかも分かりません。
けれども、何となくあの時の事が関係しているような気がして、私はそう答えました。
キルシュお兄様は「え? 瘴気?」と目を瞬きます。
ま、でも、その話をするのは後で良いですよね。
だって、祝福をしてくれているのならば、それに応えなければ失礼というものですから!
「まずは踊りましょうか、リーフさん」
「はい、ミモザ様」
私とリーフさんがダンスを始めると、光も同じようにふわりと動き始めます。
その光の中心に私とリーフさんがいました。
何とも不思議で、楽しい気持ちになりながらダンスを続けます。
「綺麗ですねぇ」
「はい。とても綺麗です」
キラキラと輝く光の中で、笑顔で、そんな話をしながら。




