ご無事で何より
その後、私はいったん部屋へと戻って、身支度を整えてからダイニングへと向かいました。
部屋の中にはリーフさんと領主ご夫妻、ソイルさん、それからパメラさんにジェナさんの姿があります。皆さん勢揃いですね。
先に向かったリーフさんが皆を集めてくれたのでしょう。
いえ、でも、こんなに集まらなくても良かったのでは?
……なんて一瞬思いましたが、これはヴェルデ領内で起きた事件です。
結果だけを見ても、擁護出来ないくらい領地間の問題になってしまいました。
なのでパメラさん達の監視や、どのような会話をするのかの把握は領主一族にとって必要な事ですね。
領主ご夫妻とソイルさんはいつもの穏やかな雰囲気ではなく、少しピリッとした真面目な表情をしています。
パメラさんとジェナさんは暗い顔で俯いていました。
なるほど、たぶん私が寝ている間ずっと、こんな雰囲気だったのでしょう。
「ご心配をおかけしました」
ひとまずそう言って、私は彼らに近付きます。
「とんでもございません。ミモザ様がお目覚めになられて、本当に安心しました」
「いやぁ、情けないお話で……。もう少し体力をつけないといけませんね」
ピリピリとした空気を出来るだけ和らげようと、なるべくいつも通りの明るい調子で私はそう返します。
すると意図を察してくれたのか、領主ご夫妻とソイルさんの纏う雰囲気がほんの少しだけ柔らかくなりました。
感謝の気持ちを込めてにこっと笑うと、私はパメラさんとジェナさんの方へ顔を向けます。
パメラさんは泣き腫らした目をしていました。
「パメラさん。痛いところとかないですか? 大丈夫ですか?」
「……っ、リーフが守ってくれたから、もうどこも痛く、ないです」
パメラさんは震える声で答えてくれました。
だいぶ堪えているようですね。口を閉じるとカタカタと小刻みに歯のぶつかる音が聞こえます。
「それは良かった」
まずはそう微笑んでから、私は少しだけ屈んで彼女と視線を合わせます。
「ごめ、ごめんなさい……ごめんなさい……」
すると大きな瞳に涙がせり上がって来ました。
そんな彼女の目を真っ直ぐに見ながら、私は話します。
「痛い思いをしたと思いますので、私からは特に罰する事はありません。ですが、ご自分の行動がどのような影響をもたらしたのか、目を逸らさずにちゃんと考えてください。護衛の方も、ここにはいらっしゃいませんが、ご家族の方もです」
パメラさんの行動は理由も含めて自分勝手なものでした。
けれども彼女がそこまで追い詰められている事に気付けなかった周囲の人間にも、原因の一端があります。
何せ彼女はまだ十三歳です。大人がしっかりと守り、導くべき年齢なのですから。
「パメラさん。禁止されたものや止められた事柄には、必ず何かしらの意味があります。それを軽んじてはなりません。でないと人というものは、意外と簡単に死んでしまいますよ」
私はそこでいったん言葉を区切り、
「ご無事で何より」
そしてそう言いました。
するとパメラさんは、ひっく、としゃくりを上げます。
「ごめんなさ……ごめんなさぁいぃぃ……!」
「はい。私への謝罪はね、ちゃんと受け取りました」
にこっと笑って見せた後、私はジェナさんの方へ顔を向けます。
「ハンカチ、お持ちです?」
そうと訊くと、彼女は「はい!」と頷いてハンカチを取り出すと、パメラさんの涙をそっと拭いました。もう片方の手で彼女の背中を優しくさすっています。
ジェナさんは護衛ではありますが、もしかしたらパメラさんにとってお姉様みたいな感じでもあるのかもしれませんね。
「――というわけで、コローレ王家からの咎めは特にありません。後はヴェルデ領とジャッロ領の間でお話をお願いしますね。状況説明が必要でしたら同席いたしますので」
王族が関係者の一人である以上、ジャッロ領側で変にごねる事はないとは思いますが、これまでに圧力や嫌がらせの話を聞いているので念のためそう伝えます。
するとリーフさんや領主ご夫妻は少しだけホッとした顔になりました。
うーん、これは、私があまり怒っている様子がなかったからでしょうね。
王族が赦せと命じれば、命じられた側は赦さざるをえない。たぶん、それを心配されていたのだと思います。
信用されていたとしても、そういう部分はちゃんと警戒する。
いいですね。親しくなったとしても、こういう緊張感は大事です。
無条件に好意を持たれたり、信用される事があり得ないのは、身に覚えがあり過ぎますからね!
そんな事を思いつつ、とりあえずパメラさん関係はひと段落かしら……なーんて思っていたら、とたんに私のお腹の虫が元気に主張をし始めました。
結構、長い鳴き声です。私は思わず両手でお腹を押さえました。
一拍置いて、自分の顔に熱が集まってくるのを感じます。
「……ま、丸一日……寝ていたので……」
ひと安心なんて思ったら、身体が思い出したかのように空腹を訴え出したのです。
穴があったら入りたい。もうしばらく穴は遠慮したかったのに。
「ふふ、ふ……! お食事、直ぐにご用意しますね」
「よ、よろしくお願いします……」
噴き出すようにくすくすと聞こえ出した笑い声。
しばらくすると、パメラさんとジェナさんもつられたように、控えめに笑っていました。
「ううう……」
せっかく何か良い感じの雰囲気で締められたと思ったのに、これですよ。
お腹から離した手で、今度は自分の顔を包んで私は呻いていたのでした。




