パメラの真意
う、うーん……何だか雲行きが怪しくなってきましたね?
確かに彼女、瘴気が発生した現場に連れ行ってもらえないと言っていましたが……。
「ち、違うわ! お手伝いがしたいのは本当よ! ……や、役に立ったら、お父様達にも報告出来るなって、ちょっと思ったけれど……」
「パメラ……」
リーフさんが再び頭を抱えてしまいました。き、気持ちは分かりますよ……。
ですが、彼は直ぐに顔を上げて、
「ヴェルデ領の領主代行として、君の手伝いを今後一切拒否する。直ぐに帰ってくれ」
今度はきっぱりとそう言い放ちました。
今後一切、というところにリーフさんの怒りと呆れが感じられます。
自分の守る大切な領地を実験場扱いされれば、こういう対応になっても仕方ありません。
「や、やだ! やだやだ、せっかく来たのに! ミモザ様、ミモザ様なら分かってくれますよね!?」
パメラさんは今度は私にそう訴えかけてきます。
彼女の気持ちも分かります。私も浄化の力が弱いから、なかなか浄化の仕事に参加出来ずに歯がゆい思いをしてきましたから。
自分の力を認めて欲しい。皆の役に立ちたい。
その気持ちを否定するつもりはありませんし、何なら応援だってしたい。
――けれどパメラさんは状況と思惑が悪かった。
「ダメですよ、パメラさん。ここはヴェルデ領です。領主代行のリーフさんがお断りしたのならば、それに従うのが道理です」
「で、でも……ミモザ様は王族だから……」
「王族の身分ってね、便利な許可証ではないのです」
それに関しては私もはっきり「出来ません」と告げます。
身分を振りかざして物事を自分の思い通りにしようというのは、やってはならない事ですから。
「パメラ様、お二人の仰る通りですよ。もう帰りましょう」
項垂れたパメラさんにジェナさんが声をかけます。
「その方が良いですよ。お二人は騎竜でいらっしゃったのですか? 日帰りのおつもりですかね?」
「は、はい」
「では、早めに出発する事をおすすめします。夕方には嵐がくると思いますので」
私がそう言うとリーフさんとジェナさんが目を瞬きました。
二人は窓の外へ目を遣って首を傾げます。
「こんなに天気が良いのに嵐ですか?」
「ええ。私の天気予報はね、結構当たるんですよ」
瘴気がある時限定ではあるんですけどね。特に天候が悪くなる時は当たります。
ジェナさんは半信半疑のご様子でした。しかし、ジャッロ領へ帰る理由としては十分だと思ったのでしょう。
彼女は頷いて、パメラさんの方へ手を差し出しました。
「さあ、パメラ様。きっと、旦那様や奥様が心配なさっていますよ」
「……いや」
しかし、パメラさんは小さい声でそう言いました。
「パメラ様?」
「いや。絶対にいや! お手伝いするの! リーフの役に立って、お父様やお母様に認めてもらうの! そうしたら、そうしたら……誰も、私を落ちこぼれなんて言わないわっ!」
パメラさんはそう叫ぶと、屋敷を飛び出して行ってしまいました。
「パメラ様!? お待ちください!」
ジェナさんが顔色を変えて彼女を追いかけて行きます。
開け放たれたドアの向こうで、あっという間に遠ざかって行く二人。
それを見て、少し遅れて自分の顔から血の気がサーッと引くのを感じました。
「し、しまった……言葉選びが下手だった……かも……」
「大丈夫です、ミモザ様。それならば私の方に責があります」
そう言うとリーフさんは一歩前へと踏み出して、
「申し訳ありません。私も連れ戻しに行きます!」
「よろしくお願いします!」
「はい!」
私が頷くとリーフさんもそう言って飛び出して行きました。
本当は私も追いかけた方が良いのかもしれませんが、会ったばかりの私が行けば、言いたい事も言えなくなってしまうかもしれません。
ここはリーフさんにお任せしましょう。
しかし、とは言え……。
「……落ちこぼれなんて言わない、かぁ」
悲痛なあの叫びは、結構、心にぐさりときました。
パメラさんがどんな環境で暮らしているか私は知りませんが、家族関係はそんなに悪くなさそうだなという印象は受けました。
けれども劣等感や悔しさを抱いている事は、何となく理解出来ます。
「結局それは、自分で折り合いをつけるしかないですからねぇ……」
そんな事をぽつりと呟きながら、ドアの向こうの空を見上げます。
青空の端には、薄っすらと黒く染まった雲が浮かんでいました。
――それからしばらくして。
残りの瘴気が発生している場所を確認していると、ドォン、と何かが爆発するよ大きな音が聞こえてきました。
「っ!?」
屋敷を飛び出して周りを見回すと、北の方から白い煙と瘴気の靄が入り混じったものが立ち昇っているのが見えます。
先ほどまであんな煙は出ていませんでした。
「何事!?」
と、思わず叫んでしまいましたが、その時パメラさんの言葉が浮かびました。
瘴気の対処が出来る魔術具。彼女はそれを使って瘴気の浄化を手伝いたいと言っていました。
もしかしてあの煙は、それを使ったものなのでは……?
――嫌な予感がします。
空も、黒色の雲がだんだん広がって来ましたし。
私は厩舎から馬を借りて、煙が立ち上っている場所へと向かったのでした。




