ちょっと問題が起きますね
パメラさんの言葉に私とリーフさんは目を丸くしました。
「魔術具ですか?」
「はい!」
パメラさんは元気に頷きます。
確かジャッロ領は魔術具の開発に精力的な領地だったはず。
瘴気の対処をするための魔術具を研究していても不思議ではありません。
実際に、定期的に国に報告書も上げてくれているんですよね。
しかし……。
「パメラさん。その魔術具を他領で使用する許可を、ジャッロ領の領主は出していますか? もしくは、ダリアお姉様に見せていますか?」
私は彼女にそう質問します。
ジャッロ領の領主の許可について確認をしたのはパメラさんが領主一族だからです。
もしもパメラさんが一般市民だったのなら何か起こっても本人の責任。他領に迷惑をかけたという事で、領主から謝罪はあるかもしれませんが、そこまで大事にはなりません。
もちろん裏で糸を引いている人がいない前提でもありますが。
しかし彼女は領主の子。もしもその魔術具を使用してヴェルデ領の領民に被害が出た場合には、領地間の問題になります。
例えそれが親切心での事でも、何の企みがなかったとしても、問題が起きると大変面倒な話になってしまうのです。
だから領主一族が他領で何かしようとするならば、必ず領主の許可がいるのです。
ジャッロ領がヴェルデ領へ圧力や嫌がらせをして、パメラさんの行動が計画の一つだったとしても、何か起きた場合にここまで分かりやすく証拠を残す事はしないでしょう。
それからダリアお姉様に魔術具を見せたかどうかを質問した件ですが、こちらは安全性の確認のためですね。
領主の許可を得ているかどうかについては、正直なところ直ぐに確認が出来ないためパメラさんの言葉を信じるしかありませんが、嘘を吐くという可能性も考慮して訊いたのです。
ダリアお姉様は、私達兄弟の中でキルシュお兄様と並んで浄化の力が強い人です。
魔術具を利用せずとも問題なく瘴気を浄化出来ますが、瘴気対策に有用な魔術具の開発はコローレ王国も推奨しています。
なので使用を提案されて、どういう魔術具なのか説明を聞いた上で問題ないと判断すれば、お姉様であれば許可するでしょう。
そういった理由でパメラさんに確認したのですが、
「お父様達やダリア様には、えっと……必要ないと思って見せていませんの!」
返答はそういうものでした。
少し間があったのは気になりますが、領主やダリアお姉様も判断が出来ていないという事ですね。
「そうなりますと、せっかくのご厚意ですが、その魔術具の使用を許可するわけにはいきません。お気持ちだけいただいてお断りします」
「えっ!? ど、どうして!?」
私が首を横に振ると、パメラさんは目を大きく見開きました。
「え、えっと、これ、とっても便利なんですの! 大丈夫ですの、問題ありませんわ!」
「例えそうであっても、その魔術具はジャッロ領の領主一族である、パメラさんが開発したものなのでしょう? 許可を得ていない上でその魔術具を使用し、事故が発生した場合には、領地同士のかなり複雑な問題になりますよ」
出来るだけゆっくりと私は彼女に伝えます。
私個人としてはパメラさんのその魔術具は興味を惹かれます。浄化の力が弱い私にとって、瘴気の対策が出来る魔術具は、浄化の仕事に役立ちそうですから。
けれども、先ほど言った理由もそうですし、何よりヴェルデ領とジャッロ領は微妙な関係となっています。
関係がより拗れるような物事は持ち込まない方が無難。なのでお断りした方が良いと判断したんです。
「それにヴェルデ領の浄化は順調に進んでおりますので大丈夫ですよ」
「で、でもでも! ミモザ様は無理をしてらっしゃるんでしょう?」
「いえ、特に無理はしていませんよ?」
「だって、まだ浄化が終わっていませんもの! ミモザ様の力が弱いからですよね。だから私の魔術具を使えば、ぐっと楽に……」
「パメラ!」
「パメラ様!」
パメラさんがそう言ったとたんに、リーフさんから鋭い声が、ジェナさんから大慌てで止める声が聞こえました。
パメラさんはびくっと肩を跳ねさせて目を丸くします。
「お、お二人共、大丈夫ですよ。お気になさらず」
表情に怒りを滲ませるリーフさんと、青褪めた顔のジェナさんを見て、私は慌ててそう声をかけます。
パメラさんの言葉に他意がないのは何となく伝わりましたし、私の浄化の力が弱い事もまた周知の事実です。
彼女はそれを素直に口にしただけでしょう。
「だ、だって……このまま時間がかかるとリーフが困るでしょう? 王族の方をもてなすのは大変だって、うちの使用人も言っていたわ」
うっ、そ、それはなかなか耳が痛いお話……と同時に、ダリアお姉様もかなりしっかりした接待を受けていたらしい事が分かりました。
ダリアお姉様も過度な接待は好まないタイプなので、大変そうですね……。
「だからお手伝いがしたいのですわ!」
私が若干遠い目になっていると、パメラさんはそう続けました。
すると今度はリーフさんが口を開きます。
「ヴェルデ領はミモザ様がとても丁寧に浄化してくださっている。だからパメラの手助けは必要ないよ。魔術具を使って手伝いがしたいならば自領でやると良い。今はまだ瘴気が活性化する期間だ。領主の子として、君はジャッロ領へ戻って瘴気の発生に備えるべきだ」
リーフさんが静かにそう言いました。
おお……今回は堪えてらっしゃる……!
エマさん達やネイサンさんの時は、まるで悪鬼のような形相になっておりましたが、今回は踏みとどまっています。
先ほどの一瞬で、ちょっと心配だったんですが大丈夫そうですね。
私がそう安堵していると、
「……だって、お父様もお母様も、私の魔術具を使わせてくれないもの」
パメラさんが口を尖らせてそう言いました。
「使わせてくれない?」
リーフさんが怪訝そうに聞き返します。
他領どころか自領でもとなると少し話が違ってきますね。
「そうよ。お父様とお母様が、パメラの魔術具は十分にテスト出来ていないから、まだ使っちゃダメだって言うんだもの。でもそれは瘴気が発生した場所に連れて行ってもらえないからなのよ。理論上は大丈夫なの! なのに……皆の役に立ちたいと思って頑張って作ったのに、ちっとも認めてくれないの」
「パメラ様……それは安全性のテストに合格していないからで、皆様は別にパメラ様の事を認めていないわけでは……」
「嘘よ! だって、お兄様と違って出来が悪いって、皆思っているでしょう?」
宥めるジェナさんに向かって、パメラさんはきっと強い眼差しを向けました。
「そんな事はありません!」
ジェナさんは即座にそう否定して、首を何度も横に振ります。
それは……ちょっと許可以前の話になってきますね。
ジャッロ領に対しては思うところはありますが、かの領地は魔術具に関しては一定の信用があります。
領主ご夫妻もそれぞれに魔術具作りを好んでいるとも聞きますので、今パメラさんが言った理由で許可を出していないのならば、彼女の魔術具には恐らく改善しなければならない点がある。
「……パメラ。まさかと思うが、昔やっていたように、うちでこっそりと魔術具の実験をしようとしていないか?」
すると頬を引きつらせたリーフさんがそんな事を言いました。




