いわゆる評判のあれです
想定外の事は起きましたが、ソイルさんが対応してくれたおかげで、その後はスムーズに事が運びました。
お兄様にリーフさんのご両親の容体を診てもらうと、問題なく瘴気が消えているとの事。あとは体力さえ取り戻す事ができれば、普段通りの生活に戻れるはずだよとお兄様は言っていました。
それを聞いたリーフさんとご両親が安堵の表情を浮かべ微笑み合っている姿を見て、私も嬉しくなりました。
それから部屋を出て私達は執務室へと移動します。
本当は一階の応接間で、ソイルさんも一緒に色々と相談をする予定だったんですが、ネイサンさんの登場でそうもいかなくなってしまったんですよね。
後でリーフさんにネイサンさんの相手を任せてソイルさんを呼ぼうかどうしようか……という感じですが、その辺りは様子を見つつですね。
「それにしても、人の身体の瘴気を浄化出来るのは良いね。私達の浄化は力押しになっちゃっているから、ミモザみたいに使えるよう訓練しないといけないなと思ったよ。ねぇ、ミモザ。今度教えてくれる?」
「んっふふ。先生役ですね。もちろんですとも!」
いつもは私が手伝ってもらってばかりだったので逆の立場になるのは新鮮です。
にこにこ笑って頷くと、お兄様に頭を撫でられました。
「お兄様、私はもう十六ですよ」
さすがに恥ずかしくなって頭を横にずらしますが、お兄様の手が追いかけてきて、再び撫でられました。
「そうだねぇ、かわいいねぇ」
しかも話を聞いていません。どうにも兄姉達からは、私はまだまだ小さい子供のようなイメージを持たれている気がします。
そりゃあ身長だってそこまで伸びていませんけれど……。
若干、解せない気持ちになっていると、
「コローレの皆様は本当に仲良しですね」
リーフさんがしみじみとそう言いました。
「うん、そうだよ~。君達も仲が良いよね」
「はい!」
お兄様の言葉にリーフさんは元気に頷きます。
迷いのない答えに好ましさを覚えていると、お兄様も同じ事を思ったのか、ふふっと楽しそうに笑いました。
「あーあ、私もこっちが良かったな~」
そしてお兄様は深くため息を吐きました。
「ヴェルデは元々評判が良かったれど、ミモザを希望してくれた時に絶対居心地良さそうって思ったもん」
「いいでしょう!」
えっへん、と胸を張って見せると、お兄様は苦笑します。
「いいなあ。……ま、だからこそ、もしも私を希望してもらっても選べなかったんだけどさ」
「え?」
お兄様が肩をすくめてそう言うと、リーフさんがきょとんとした顔で首を傾げました。
「リーフさん、どうしました?」
「あ、いえ、その……。ネイサンから、自分達の領地は期待されているから選ばれたのだと聞いていたので」
「ははーん」
たぶんこの辺りの話をパーティーの後にされたのでしょう。
同時に、先ほどのネイサンさんがあのような態度を取っていた理由を、理解する事が出来ました。
「それは逆ですね。要注意領地だから、お兄様達が行ったんですよ」
「要注意領地……ですか?」
「ストレートな表現をすると、評判が悪い領地の事ですね」
精霊の年における王族の派遣。瘴気の浄化が主な目的ですが、実はサブ目標的なものもあるんです。
それが領地の視察です。
視察なら普段もしているって思うじゃないですか。
でもね、いつもは護衛やお付きの人が一緒で「ザ・視察」って感じの雰囲気なんです。
そうすると事前に念入りな準備をされたり、私達に見られたくないものを隠されてしまったりするんですよ。ま、それはそうでしょうね。
けれどね、彼らと離れて王族が一人でいると、そっと近づいて取り入ろうとするんです。分かりやすいですよね。
だから精霊の年に王族が派遣される時は、護衛をつけずに単身向かう形が取られています。
ちなみに王族は護身術を叩き込まれているのでそこそこ強く、一人で放って置かれてもわりと何とかなるんですよ。
かく言う私もそうです。まったく見えないって言われますけどね!
「自分を希望する領地の中で、評判が悪い方から順番に選ぶ。これが選定基準なんだ。私を含めて上から四番目くらいまでの妹弟はそうなっているね」
「あの……そのお話を私が聞いても大丈夫なのでしょうか?」
「隠しているわけじゃないから平気。気付いている領地もあるからね。言い触らされると困るけど、君はそうしないでしょう?」
キルシュお兄様はにこっと笑ってリーフさんにそう言います。
言葉の裏に「話したら分かっているよね?」というほんのり脅迫めいたものが見えました。
こういう時のお兄様の笑顔を見ると、常に一緒にいる私でもぶるりと身体が震えます。そして怒らせたら一番怖いのがキルシュお兄様です。
「はい。誰にも話さない事をお約束します」
リーフさんは神妙な顔で頷きました。
その方が良いですよ、と私もこっそり頷いておきました。




