望んだ来客、望まぬ来客
あれから一週間ほどの時間が経ちました。
ヴェルデ領の瘴気の浄化は順調に進み、すでに三分の一が完了しています。
想定していたよりもだいぶ早いんですよ。
ここまで順調なのはリーフさんとエマさん、ローウェルさんのおかげです。
まずはエマさんとローウェルさんの二人が使える力。
瘴気を固めて石にするあの魔術ですね。
あれを上手く利用出来ないか、浄化のついでに色々と試行錯誤してみたんです。
すると、なんと!
石の状態だと瘴気がぎゅっと小さくまとまっているため、浄化が効きやすい事が判明したのです。
そこへさらにリーフさんの騎竜の羽ばたきで、毒の無い瘴気を吹き飛ばしてもらい、発生地点の瘴気とその場に残った毒のある瘴気を浄化する。
この二つの連携で、浄化時間をだいぶ短縮する事が出来るようになったのです。
念のため吹き飛ばした瘴気がどうなるか観察しましたが、一時間ほどで空気に溶けるように消えていき、その後も発生する事はありませんでした。
これは画期的な発見です。
三人と一匹のお名前をお借りしてまとめ、国へ報告したいと考えています。
そんなウキウキした気持ちも湧きつつ浄化を進めていると――とある来客がありました。
コローレ王国の次期国王で一番上の兄キルシュと、セッピア領の領主のご子息ネイサンさんです。
「やあ、ミモザ。お手紙をありがとう。リーフ君、この間ぶりだね」
「いらっしゃいませ、お兄様」
「ご足労いただきありがとうございます、キルシュ様」
私とリーフさんは、まずお兄様に挨拶をしました。
それからネイサンさんの方へ顔を向けて、
「ネイサンさん、こんにちは。今日はどうなさったんですか?」
挨拶がてら質問します。
キルシュお兄様は私が手紙で呼びましたが、ネイサンさんは別です。
どうして彼が一緒に来たのかと思っていると、
「キルシュ様の尊い御身に何かあってはいけませんので、護衛としてお供をさせていただきました」
ネイサンさんは胸に手を当ててそう言いました。
なるほど、護衛ですか。
キルシュ兄様の顔を見ると笑顔を浮かべてはいますが……いえ、これは浮かべているのではなく貼り付けているだけですね。あまり機嫌が良くなさそうです。
「断ったのだけど、どうしてもと言われてね。強引に私の騎竜に乗り込んで来られてしまったんだ」
「しょ……あらまぁ」
思わず口から「正気?」と出かけてしまいました。
私の隣にいるリーフさんも「えっ」と軽く引いています。
基本的に騎竜は信頼している乗り手が許可した相手しか乗せません。
飼いならされているとは言え、あの子達は誇り高い竜種。
乗り手が許可をしていないのに無理に乗ろうとしようものなら、振り落とされて死んでも文句は言えません。
……お兄様の機嫌が悪いのはこれが原因ですね。
「キルシュ様の騎竜は大変良く躾られておりましたが……私を認めてくださったからか、とても穏やかに乗せていただけました」
ネイサンさんは誇らしげに言います。
そして目だけリーフさんに向けて、勝ち誇ったような笑みを浮かべました。
これはちょっと、騎竜関係のアレコレを理解していないような気配を感じます。
「なるほど。それはキルシュお兄様のおかげですね」
「ええ! 信頼していただいて光栄です!」
お兄様が騎竜を宥めたから乗れたんですね、という意味で言ったのですが、違う風に解釈されてしまいました。やはり先ほど考えていた通りのようです。
ポジティブなのは良い事でもありますが……。
「…………」
……どうしましょうかね。キルシュお兄様の機嫌がどんどん悪くなっています。
心の内を他人に知らせないのも社交という事で、キルシュお兄様もそこはだいぶ上手いのですが……身近な人間には分かってしまうんですよねぇ。
「そんな事よりミモザ、手紙を読んだよ」
ネイサンさんの語りにうんざりしたようで、お兄様は強引に話を変えました。
これ以上機嫌が悪くなってしまうと困るので私もそれに乗ります。
「はい。お願い出来ますか?」
「うん、いいよ。リーフ君、案内してもらって良いかな?」
「はい、もちろんです!」
少し緊張した様子でリーフさんは軽く会釈をすると歩き出します。
私とお兄様がそれに続いて歩き出すと、ネイサンさんもついて来ようとしました。
「ネイサン君、君は待っていて。招待されていない者が、他所の家の中をずかずかと歩くものではないよ」
「えっ! ですが私は護衛役で……」
「君はヴェルデの領主の家で護衛が必要だと言うのかい?」
「それは……」
ネイサンさんはちらちらと私やリーフさんを見ながら口籠ります。
あっ、まずい。キルシュお兄様の機嫌がまた一段分下がりました。
「では待っている間、僕がお相手を務めましょう」
そうしていると近くの部屋からソイルさんが顔を出しました。
この後予定している用事の関係で来てもらっていたのですが、ナイスアシストです。
「お兄様。ヴェルデ領領主の弟さんで、ソイルさんです」
「そっか。初めまして。それでは申し訳ないのだけど、頼んで良いかな?」
「もちろんです」
ソイルさんは恭しくお辞儀をし、ネイサンさんへ顔を向けました。
「良い茶葉が手に入ったのですよ。こちらへどうぞ、ネイサン君」
そして彼の腕をがしっと掴むと、有無を言わさず歩き出します。
ソイルさんは体形が痩躯に見えましたが、なかなか力がありますね。もしかしたら細マッチョという奴なのかもしれません。
「えっ、まっ」
「さー、行きましょう、ハハハ」
ネイサンさんは大慌てでしたが、ソイルさんには敵わずそのまま連行されて行きました。
「あー、すっきりした」
その後ろ姿を見てお兄様がぼそっと呟いていました。
相当鬱憤が溜まっていたようです。
「さ、それじゃあ行こうか」
そして爽やかな笑顔を浮かべてそう言ったのでした。




