そうは問屋が卸しません
その後直ぐにリーフさんのご両親に会いに行ったのですが……。
二人の姿を見たソイルさんは号泣。収拾がつかなくなってしまいました。
ひとまずソイルさんをアーヴィンさん達にお任せして、私とリーフさんはダイニングで香茶をいただいて待つ事にしました。
……そう言えば色々あって忘れていましたが、結構お腹が空いていたんですよね。
香茶と一緒に用意してくれたクッキーを美味しくいただいていると、しばらくしてアーヴィンさんとメリダさんがやって来ました。
頭に大きなタンコブを作ったソイルさんを連れて。
初めて見ました、あんなタンコブ……。
私とリーフさんがぎょっと目を剥いていると、
「ああ、良かった。二人の体調が本当に良くなっていて……」
ソイルさんはまったく気にした様子もなく、にこにこ笑顔でそう言いました。
そんな彼を見てアーヴィンさんは頭の痛そうな顔をしながら、
「良かったじゃない、まったく。……ミモザ様、ソイルからすべて話を聞きました。この度は私の弟が、ご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした」
と言って頭を下げました。
……何だかこの光景にデジャブを感じます。
思わず目だけでリーフさんを見てしまいました。血筋?
「えーっと、すべてと言いますと……理由とか動機とかその辺りも?」
「はい。ソイル、ミモザ様にお話しても構わないな?」
「……ああ」
ソイルさんはほんの少しだけ視線を彷徨わせた後、頷きました。
「実はヴェルデ領は、これまでに周辺領地から色々と、ちょっかいをかけられていたのです」
アーヴィンさんはそう話し始めました。
周辺領地と言って領地名を濁していましたが、以前に聞いた話から推測するとジャッロ領とセッピア領でしょうね。
それらの領地からのちょっかいをアーヴィンさんとメリダさんは上手くいなしていたのですが、二人が倒れ、リーフさんが領主代行となったとたんに、強気な態度を取るようになったそうです。
ヴェルデ領と各領地間の取り決めを自分達に有利な内容へ変更させようとしたり、ヴェルデ領への輸出品の急激な値上げ、輸入品の値下げの要求したり。
技術者や文官、武官を強引に引き抜こうとした事もあったそうです。
それ以外にも細かなものがあるらしいですが、そこまで聞いて、うへぇ、となりました。
ジャッロ領とセッピア領は元々、土地の実りが豊かでコローレ王家からも評判の良いヴェルデ領をライバル視していました。
ライバル視とか、そういう気持ちを否定するつもりはありません。競争心もまた領地の力を向上させる一つですから。
けれども実力で競うのではなく、姑息なやり方を取るというのはいただけないですね。
「領主としてはまだリーフは未熟です。だから好き勝手出来ると思ったのでしょうが……それをソイルが防波堤になって防いでくれていたのです」
「叔父さんが?」
「ああ」
「…………」
リーフさんが目を見開いてソイルさんの方へ目を向けると、彼は困った顔で微笑みました。
アーヴィンさん曰く、ソイルさんは外交や交渉事が得意なのだそうです。
そしてリーフさんへの悪意を彼が間に立って守っていた。
まだ経験の浅いリーフさんであれば、簡単に思うように出来ると思っていた各領地は、目論見が外れてさぞがっかりした事でしょう。
だから彼らはやり方を変えた。
子供を通じてリーフさんに圧力をかけたのです。
あまりにも陰湿!
聞いていて頭が痛くなってきました。
すると今度はソイルさんが口を開きます。
「コローレ王家の皆様は家族仲が大変良いと聞きました。だからこそ、ミモザ様に失礼な態度を取ればヴェルデ領は王族から目をつけられる。どのような感情であれ、王族の目が向けられていれば周辺領地はうちに手を出し辛くなる……と考えました」
「なるほど……」
ソイルさんの意図がだんだん読めて来ました。
彼は王家から睨まれてでも他領からの嫌がらせ……いえ、ほぼ侵略のようなものですね。
それらを防ぎたかったのでしょう。
そのせいで向けられる目が冷たくなり諸々で不利な状況になったとしても、農業や酪農で栄えるヴェルデ領は、食糧の自給自足率がとても高い。
瘴気さえどうにかできれば領民が食べて行くには困らないのです。
ソイルさんは最初から逃げるつもりはまったくなかったそうです。
自分が私へ失礼な態度を取るようエマさんとローウェルさんを仕向けたと、黒幕として捕まる計画だったそうですが……。
だから彼は私が「捕まえるつもりはない」という態度を取った時に困惑していたのですね。
「今回の件はヴェルデ領とは無関係――しかし、そうは言っても信用されない。きっとコローレ王家はヴェルデ領の行いを見るための試しの期間を設けるはず。タイミングを考えると次の精霊の年までの四年間。それまでに信用を取り戻す事が出来れば、瘴気の浄化も問題なく行っていただける。……これが僕の計画です」
「……コローレ王家を良く理解してくださっていますね。驚きました」
これには正直感心しました。
彼が言った計画の内容……特にコローレ王家の考え方に関しては、ほぼ当たっています。
先ほどアーヴィンさんがソイルさんの事を、外交や交渉が得意と言っていましたが、本当に良い目を持っている方です。
「弱虫と言った事を謝罪し、訂正します」
「……そんな」
「あなたは馬鹿です」
「こんなに悪化する訂正ってあります?」
思わずといった様子でソイルさんはポカンと口を開けました。
「んっふふ。ですね。こういう返しをされるとは思わなかったでしょう」
私はそう言うと、緩んだ表情を真面目なものに戻して話を続けます。
「コローレ王家は国民の話を聞きます。そして聞いたままを信じる事はしません。訴えを聞いて、調べて、対応する。それをずっと続けてきました。信用していただけなかったのは我々に落ち度があります。そこに関して謝罪いたします。申し訳ありません」
謝罪と同時に頭を下げます。
するとその場にいた全員が息を呑む声が聞こえました。
「み、ミモザ様、おやめください!」
「お顔をお上げください!」
リーフさんやメリダさんの焦った声が聞こえます。
私はその声を聞きながらゆっくり身体を戻し、ソイルさんへ目を向けます。
「ですが、ソイルさん。飲み込んだ言葉では、私達は察する事も動く事もできません。そして真剣な言葉を、私達は決して無下にはいたしません。……リーフさんはそうでした」
「っ」
「精霊の年を迎えるためのパーティーで、リーフさんは真っ直ぐに、私を希望してくださいました。正直ね、私は誰にも選ばれないと思っていたからびっくりしたんですよ、本当に。同じくらい嬉しかったですけどね」
胸に手を当てて私は話を続けます。
「精霊の年を迎えるあのパーティーで、浄化の力が弱い私を選んだリーフさんはきっと、からかいの目を向けられた事でしょう。パーティーの後で、何かしら心無い言葉を投げかけられたかもしれません」
ジャッロ領やセッピア領の話を聞いた今ならば、恐らくその二つから悪意あるからかいを受けた可能性があるかもしれない。
私がそう言うとリーフさんの目が僅かに揺れました。
「リーフさんはそんな事、一度だって言いませんでした。ずっとヴェルデ領のために頑張っていました。素晴らしい方です。だからソイルさんが、彼を必死に支えようとした気持ちが分かります。……ですが、ですがですよ。あなたは自分を勘定に入れていない。だから馬鹿だと言いました。あなたが捕まれば悲しみますよ、絶対に」
「……っ、はい……」
ソイルさんはくしゃりと顔を歪めて、泣きそうな顔になりました。
……こういうところ、リーフさんとも似ていますね。
きっと彼らも仲の良い家族なんだろうなというのが伝わってきます。
ソイルさんのした事を全部肯定する事は出来ませんけれど、でも――彼がこの方法を選んだ原因に関して思うところがあります。とっても。
悪い事でもやった者勝ちなんて事をコローレ王国は認めません。
ちゃんと責任を取ってもらいます。
「という事で……ここからは反撃のターンと行きましょう!」
私がポンッと手を叩いてにこっと笑うと、リーフさん達は「反撃?」と目を瞬いて首を傾げたのでした。




