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瘴気の沙汰も浄化次第  作者: 石動なつめ
第三章 コローレ王家は口が悪い

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リーフの叔父


 ヴェルデ領の文官でリーフさんの叔父、ソイル・ヴェルデ。

 騒動の発端が彼にあると聞いた私とリーフさんは、街へ戻って直ぐに彼の家へと向かいました。

 領主の屋敷から少し離れた先の門のある広いお屋敷が、彼が住んでいる場所なのだそう。


 敷地内へ足を踏み入れると、建物まで白い石畳が続き、その左右には綺麗に手入れされた花が咲き誇っていました。

 綺麗でかわいらしい雰囲気が素敵ですね。まるで絵本の中から出て来たような雰囲気です。


 そんな事を考えながら歩いていると、ふわりと柔らかく風が吹いて、香茶の匂いを感じました。

 そちらの方へ顔を向けるとガゼボが見えます。

 そこにリーフさんのお父様と良く似た顔立ちの男性が、優雅にお茶を飲んでいました。


「ミモザ様。あれが叔父のソイルです」


 やや強張った声のリーフさん。


「なるほど。では、行きましょう」


 私は軽く頷くと、並んでソイルさんの方へと向かいます。


「……ん?」


 近付くと靴音が届いたようで、ソイルさんがこちらを見ました。

 私とリーフさんの姿を確認した彼は「ああ」と小さく呟きます。

 それから口の端を上げて、


「あら、何だ。意外と早いね、バレちゃうの」


 なんて悪びれずに言いました。


「何故私達がここへ来たのか、ご理解いただいているようで」

「そうですね。ミモザ様が滞在中に、いつ気付いて来てくれるかな~って思っていたので、心構えは十分出来ていましたよ」


 ソイルさんは手に持っていたティーカップをテーブルに置くと立ち上がり、胸に手を当てて恭しく頭を下げます。


「お初にお目にかかります、ミモザ様。ソイル・ヴェルデと申します」

「ミモザ・コローレです。出来れば今とは違う状況で、最初のご挨拶をしたかったですねぇ」

「僕もです」


 ソイルさんがそう言うとリーフさんの目が吊り上がります。


「叔父さん――どうしてエマとローウェルを利用して、こんな事をしたのですか?」


 怒りを抑えた声でリーフさんが問います。

 ソイルさんの目が少しだけ細くなりました。


「ヴェルデ領を守るために、浄化の力が優秀な王族の方に来ていただきたかったからさ」


 そしてソイルさんはそう答えました。

 彼はちらりと私の方へ目を向けます。


「ミモザ様の浄化の力がそう強くないのは、誰もが知っている事だからね。出来るだけ早く瘴気の浄化が終わらなければ収穫量に影響が出る。私だってね、精霊の年より前に相談が出来ていればこんな事はしなかったんだけどねぇ」


 途中、少しだけ間を空けてソイルさんは言います。

 リーフさんの顔が強張りました。

 

 確かジャッロ領とセッピア領の領主の子から、足並みを揃えろと圧力をかけられていたんですよね。

 だから精霊の年が来るまで浄化を待つしかなかった。


「リーフ、お前が見くびられているからだよ」


 ソイルさんはそうも続けました。

 

 リーフさんの今の立場は領主代行――私達からすれば他の領主の立場と何の遜色もありません。

 しかし、これまで聞いた話から察するに、恐らくリーフさんは周辺の領地から()に見られている。


 お前は領主ではなく、あくまで領主代行だ。だから勘違いするなよ、という事でしょう。

 大変ふざけた話ですが。


「…………」


 リーフさんはぐっと両手の拳を握りました。


「で、あれば、支えるのが周囲の役目ですよ、ソイルさん」


 私は一歩前に出てそう言うと、ソイルさんは数回頷きました。


「その通りです。だから僕はエマとローウェルを利用したんですよ」

「それが悪い事でも?」

「悪い事でも構いません。僕にとっては何よりもヴェルデが第一ですから」


 ソイルさんはこちらから目を逸らさずに言い切りました。実にご立派な言い分です。

 ですが、それはかっこいい理由ではまったくありません。

 私はゆるく首を横に振って、


「他人を利用した時点で、あなたは悪でも何でもないただの弱虫ですよ」


 と返します。


「はは。なかなか言いますね、ミモザ様」


 ソイルさんは楽しげに笑います。


「私の家族、人前じゃなければ結構口が悪いんですよ」

「それは知りませんでした。……さて、それでどうします? 僕を捕まえますか?」

「いえ。別に被害を被ったわけではないので捕まえたりはしません。今回は事情聴取のために伺っただけです。ですがエマさんとローウェルさんへ謝罪はしていただきますよ」

「え?」


 ソイルさんはポカンとした顔になります。

 それから彼は少し焦った様子で、


「つ、捕まえない……? どうしてですか?」


 と聞いてきました。

 うん? 何でしょうか、この反応は。軽く首を傾げていると、


「僕はあなたの事を侮辱したのですよ?」


 ソイルさんはそう続けました。


「他人の口を介してですけれどね。ま、あの程度の言葉なんて言われ慣れていますから、よほどの状況じゃなければ別にどうとも」


 そう言って私は肩をすくめました。

 不敬だと判断するたび捕まえて裁いていたらキリがありません。

 そんな事をして萎縮されて、もっと陰湿な事になっても面倒ですし。


「それにリーフさんのご両親の体調がせっかく良くなって来たのに、今度は心労で寝込むような事になっては大変です」

「えっ?」


 するとソイルさんは目を見開きました。


「兄さん達の体調って……」

「ミモザ様が浄化の力で、二人の身体の中から瘴気を浄化してくださったのです。支えられれば歩けるくらいまで回復しています」

「…………っ!」


 リーフさんの言葉にソイルさんは衝撃を受けた顔になります。


「馬鹿な」

「事実です。疑うなら、これから一緒に父さん達のところへ行きましょう」

「…………そんな、まさか、本当に?」


 ソイルさんはふらふらと数歩後ずさりました。


「そんな、事が……」


 そしてがくりと膝から地面に崩れ落ちます。

 身体を震わせている彼を見ていたら、少しして、ガゼボの床に涙の粒がぽたぽたと落ちました。


「良かった……良かった……ああ……」


 先ほどの飄々とした雰囲気は消え、心の底からホッとした声が聞こえます。


「ミモザ様……、ありがとう、ございます……っ」


 そしてお礼まで言われてしまいました。

 

「えっ、ええっと……?」


 今までの態度とあまりにも違い過ぎやしないでしょうか。

 困惑しながらリーフさんを見ると、彼もどう反応すれば良いか悩んでいるようで困ったように首を傾げていました。


「……とりあえず、会いに行ってみます?」


 どうにも事態が飲み込めない。

 なのでひとまずはと提案すると、ソイルさんは「はい」と頷いたのでした。


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