賑やかな兄妹
「エマ、ローウェル。少しいいか」
それからリーフさんは件の兄妹に声をかけます。
妹の方がエマさん、兄の方がローウェルさんですね。頭の中でメモを貼りつつ見ていると、二人はこちらへ振り向きました。
リーフさんを見るとローウェルさんはパッと笑顔になり、エマさんの方は明らかにまずいという顔になります。
「リーフ様! 見ていてくださいましたか、僕達の浄化の力!」
「お、お兄ちゃん、ダメだってば!」
こちらへ駆け寄るローウェルさん。エマさんはお兄さんの服を掴んで止めようとしますが、彼は見た目より力が強いようで引き摺られる形でやって来ます。
「いいえ、今来たばかりなので見ていません」
しかしリーフさんは首を横に振りました。なかなかバッサリといきましたね。
リーフさんは軽くショックを受けた顔をしましたが、直ぐに気を取り直して今度は私の方を見ます。
「リーフ様、そちらの方は?」
「ミモザ姫様だ。ヴェルデ領の瘴気の浄化に来てくださっている」
リーフさんがそう説明します。
すると二人は目を丸くして、ついでに周囲の人達も驚いたように、
「ミモザ姫様……!?」
「溶け込んでいて気付かなかった……」
「お姉ちゃんかわいー」
なんて感想を述べています。
そうでしょう、そうでしょう。姫様っぽい恰好はしていませんから分からないでしょう。
あと最後に褒めてくれた方、どなたですか。嬉しい。飴玉あげたい。
……なんて事を考えている場合ではありませんね!
「あなたがあの……」
エマさんとローウェルさんが私を見てそう呟きます。
「お初にお目にかかります、ミモザ様。僕はローウェル、こちらは妹のエマと申します」
「初めまして、ミモザです。お二人のお話を断片的にお伺いしたのですが、浄化の力をお持ちだとか」
「ええ!」
ローウェルさんはにこっと笑顔になります。
「つい今しがた、この辺り一帯に現れた瘴気を私達が浄化したんです! 周りの皆さんに訊いていただけば本当だと分かりますよ!」
そして元気にそう言いました。
話を振られた周りの人達は、
「確かに消えたのは見ました……」
「でも瘴気と言ってもだいぶ薄い色で……」
とそれぞれ答えてくれています。
なるほど、薄い色。それなら触れてもそこまで具合が悪くならないかもしれませんね。
ですが念のため、この場にいる人達の体調に異常はないか確認をしておいた方が良いかも。
ふんふん、と頷きながら話を聞いていると、
「そういうわけですので、ヴェルデ領はもう大丈夫ですよ!」
「大丈夫とは?」
「後の浄化は私達が引き継ぎます。だってミモザ様……ご兄弟の皆様のような浄化は出来ないでしょう? 僕達ならそれに近い事ができますから。きっと早く済みますよ。ですのでね、姫様はご無理せずに、どうぞお城へお帰りを」
リーフさんはバシッとそう言い切りました。
口を挟む隙を与えない見事な発言。
陰口ではなく真正面から言ってきたので逆に好感を覚えました。
まぁ、でもね。帰れと言われて帰るような私じゃありません。
私の仕事はヴェルデ領の瘴気の浄化。
ですがただ浄化するだけではなく、再発生していないか確認する仕事もあるのです。
「いやー! お兄ちゃんの馬鹿ー! 何言ってるの、本当に!?」
「何だい、エマ。お前だって言っていただろう」
「ちがっ! あっ違わないけど、あの……っ」
エマさんは悲鳴を上げて首を横に振ります。
これはお兄さんの暴走と考えて良さそうですね。
今にも泣き出しそうなエマさんを見ているとかわいそうになってきました。
とりあえず落ち着かせようと私は口を開きます。
「お二人の言い分は良く分かりました。ですがね……」
私がそれを言おうとした時、
「…………お前達、よくも」
――隣から、地を這うような声が聞こえました。
えっ、と思って声の方へ顔を向けると、悪鬼のような形相を浮かべたリーフさんが、腰に提げていた剣をすらりと抜いたところでした。




