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彼女は意外に意地悪だ

 厚かましいおばちゃんと、おしゃべりな小学生の組み合わせなら初対面から賑やかだろうが、困ったことにキレイなおねえさんと、シャイな小学生の組み合わせだ。なかなか会話は弾まず、静かな食卓となった。

 そんなふたりをつなぐのはボクの役目なのだが、こういうシチュエーションには慣れていない。甥っ子がまだ産まれたばかりの乳飲み子なら、ブブブゥとか、おじちゃんでチュよぉ〜、とか言っておけば間も持ちそうだが、小学三年生となるとそんな訳にもいかない。だからどうしても甥っ子を質問攻めにしてしまう。学校はどう? 友達とは仲良し? 妹は元気? 勉強してる? こんな質問に意味もないのは、おそらく答える小学生にも伝わるのか、段々返事もお座なりになる。

 彼女も慣れない子供相手に、唐揚げ好き? コーラ飲む? サッカーしてるの? などと同じように質問し始めるが、どれもイマイチピントがズレてるようで、これも会話にまでは広がらない。

 こんな時はテレビゲームで一緒に遊ぶか、バラエティ番組でも観ながら大笑いすればいいんだろうけど、妹からゲームとテレビを厳しく禁止されているようで、甥っ子の方が頑なにそれを断る。で結局、盛り上がりに欠ける食卓となったわけだ。


「あの子大人しいね。ペキちゃんに似てる?」

「甥っ子だからね。何かしらは似るかもしれないけど」

「ペキちゃんもしたいこととか言わないもんね」

「そこ? ボクはそうでもないと思うけどなぁ…… 」


 でも、そうかもしれないとは思う。人混みを掻き分けて前に出るのは性分じゃない。


「与えられる世界で満足? 自分から世界を変えたいとは思わないの?」

「世界? 大袈裟過ぎだろ。ボクは半径5メートルの世界で満足するタイプです。奈々も意外にそうなんじやないの?」

「うん、そうだよ。でも、私は快適な半径5メートルを求めて動くから」

「う〜ん…… 納得」


 おそらく、今、ボクの半径5メートルと彼女のそれは幾分か重なり合っている。ボクには相当の部分が重なっているように思えるのだが、彼女がどう感じているかはわからない。それを聞いてみようかと思うが、切り出しの言葉を探しあぐねている間に会話は前に進む。


「ねぇ、あの調子だと彼は蓼科に来るの嫌がらない?」

「もし、あいつがボクに似てるとすると、あんな顔しててもホントは奈々に興味津々だと思うよ」

「そうなの? ムッツリ系?」

「そう、ムッツリ系…… って、悪かったな!」

「大丈夫、知ってるから。 ねぇ〜、タックン。二段ベッドのお家に来る?」


 ひとり用の簡易テントに入ったり出たりして遊んでいた甥っ子がパッと顔を上げた。その表情だけで答えは聞くまでもない。


「おねえちゃんちは丸太小屋だよ。アルプスの少女ハイジのお家」

「アルプスの??? ハイ??」

「ゲッ! 伝わってないわ…… ショック」


 ガックリうなだれる奈々の様子が可笑しかったのか、タクトがテーブルに戻ってきて椅子に座り直す。


「大きな丸太のお家なの? 二段ベッドも大きい?」

「大っきいよぉ〜 おねえちゃんと一緒に寝てもまだ余る感じ」

「…… ひとりで寝てもいいですか?…… 」

「な〜んだ、タックン、おねえちゃんと寝ないつもり? じゃあ連れて行くの、やめよっかなぁ〜」


 奈々は意外に意地悪だ。


「…… じゃあ…… いいよ」


 その答えを聞いて、奈々はキャ〜っと声を出してタクトに抱きついた。タクトもまんざらでもなさそうな顔で照れている。馴染むまで時間はかかるが、子供は結局子供だ。大人が受け入れれば大抵は心を開く。ボクもふたりの気持ちが解れてホッとした。


「このテント使える場所もある?」

「あ〜、あるある。おねえちゃんちはお庭が広いから、そこで使うといいよ。でも…… 」

「でも? なに?」

「さあ、それは行ってからのお楽しみ」


 きっと奈々はオバケが出る、とでも言って怖がらせようとしたのだろう。だが、疑うことを知らない子供の瞳をみて、言うのを思い留まったようだ。


 それから甥っ子はふたたび簡易テントで遊び始めた。ベランダに持ち出せと煩い。仕方なくベランダにすのこを敷いて、その上にテントを載せてやる。だが、ベランダはエアコンの吐き出す熱気で死ぬほど暑い。さすがの甥っ子もたまらんと観念したのか、ものの三十分もすると汗びっしょりで部屋に戻ってきた。


「おじちゃん、テントはまた今度にする……」

 そういうと、甥っ子はガリガリ君ソーダを食べた後、コトンと寝落ちした。面白い小動物だよ、まったく。。

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『もし、それが真実ならボクは……』

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