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俺は、ずっとひとりぼっちだった…。
高校3年の春。俺に転機が訪れる…。
深雪瞬、17歳。
黒の天パ頭にメガネ…。どっからどう見ても地味でダサい高校生。
勉強の成績は中の下。運動神経は人並み。これといって特技もない…。
前髪が伸びてきて、目にかかってきたから床屋に行った俺は、ここで俺の人生を変える人物に出会う…。
床屋で顔剃りをしてもらっていた時…。
「君、綺麗な顔してるね?」
俺の隣に座っていたスーツ姿のおっさんが話しかけてきた…。
男の顔見て、綺麗って…。
「おっさん、誰?」
「おっさんは、やめろ。俺は、一応20代だぞ!」
「……。」
「まっちゃん、瞬君イケメンでしょう?」
床屋の店主アイちゃん(オネエ)が、会話に加わる…。このおっさん、まっちゃんっていうのか。
「君、瞬って名前なのか…。俺は松田秀一。」
松田だから、まっちゃんか…。
「ねえ、瞬君。今日もいつも通りでいいの?アタシに全て任せてくれれば、校則規定内でイケメンヘアスタイルにしてあげるわよ?」
「いつも通りでいいよ!全体的に量を減らしてもらって、前髪は目に入らないくらいで!」
「瞬、やってもらえよ。アイちゃんの腕は確かだぞ?」
「俺、ここ行きつけだから、アイちゃんの実力は知ってるよ…。」
アイちゃん、若いころは美容の本場ニューヨークで修行して、世界規模のヘアデザインのコンテストで何度も優勝しているんだ…。
「瞬君、元がいいんだから!ダサい髪型とダサいメガネやめれば、絶対、女の子にモテモテになれるのに…!」
「俺、別に女の子にモテたくないよ…。」
俺は、目立たず地味に生きたいんだよ…。
「瞬。お前、友達いないだろ?」
な…!?なんで、分かったんだ!?
「…そうだけど。悪いかよ?俺は、別にひとりが好きなだけだよ…!」
俺は、ずっとひとりだったから、他人とどう接したらいいのかわからない…。
人との間に距離を置いてしまう…。
「嘘だな。お前、本当はさみしいんだろ?」
「さみしくねえよ…!」
「お前の瞳は、さみしいって言ってるぞ…。瞬、お前、誰かに愛されたことがないんだろ?」
愛されたことがない…?
そうかもしれない…。
俺が生まれたときに父親はいなかった。
母親は、いつも家にいなかった…。
俺は、4歳の時に児童相談所に保護されて、それからずっと施設で育った。
施設には、馴染めなくて…俺はいつもひとりぼっちだった…。
「瞬、アイドルにならないか?」
「はあ?」
「アイドルになれば、みんなから愛されるぞ!」
何、言ってんだ!?
「瞬君、まっちゃんは、超大手芸能プロダクションのスカウトマンなのよ!」
「えええー!?」
「瞬、俺がお前をアイドルにしてやる!」
「俺、アイドルになんかなりたくねえーよ!!」
「いいから、騙されたと思って。アイちゃん、瞬を超イケメンヘアスタイルにしてくれ!」
「はーい!アタシに任せて!!」
「やめろー!!俺は、いつものでいいって…!」
抵抗しようとする俺の鳩尾を松田が殴った…!
俺の意識が途絶える…。
目を覚ました俺…。
「なんじゃこりゃー!?」
鏡に映る俺は、天パを生かしたイケメンヘアスタイルに、しかもキラッキラッの金髪…!!
「瞬君、超かっこいいわよー!!…アタシ、自分の才能が怖いわ!」
「瞬は、瞳の色が真っ黒じゃないから、金髪でも違和感がないな。親のどちらかに外人の血があるんじゃないか?」
「おい!こんな、校則アウトな髪型じゃあ学校行けねえじゃねーか!!」
「心配するな、今通ってる学校は辞めてもらった。」
「はあ!?」
「お前が眠っている間にいろいろ手続きをさせてもらった!」
「松田ァ!!ふざけるなあああああ!!」
「瞬。お前は、アイドルになるんだよ!」
「だから、俺はアイドルになりたくねえよ…!!」
「瞬。お前、誰かに愛されたくはないのか?」
愛される…。
「俺は…。」
「瞬。俺が、お前を誰からも愛されるトップアイドルにしてやる!」