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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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想像を魔法に

第50話を読んでいただき、ありがとうございます。

今回は、エルフの里へ向かう旅の途中で、アルが魔法について新たな気づきを得るお話です。

魔法を「形にする」だけではなく、その後の動きまで想像する。

少しずつですが、アルの魔法への向き合い方も変わり始めています。

エルフの里では、これまでとはまた違った「未知」が待っています。

今回も楽しんでいただけましたら幸いです。

 森の中には、薄い霧が残っていた。

 朝露に濡れた草を踏みながら、一行は北へ向かって進んでいく。

 獣人族の領域を離れてから二日目。

 エルフの里までは、まだ距離がある。

「この辺りから、少し道が悪くなる」

 先頭を歩くカインが振り返った。

「森の奥へ進むほど、人が通る道は少なくなる」

「エルフの里へ続く道も、普通の街道とは違います」

 リシェルが補足する。

「森そのものが道になるので」

「なるほど……」

 アルは周囲を見渡した。

 木々。

 岩。

 土。

 流れる小川。

 どれもこれまで見てきたものと大きくは変わらない。

 だが、エルフにとっては、この森そのものが生活の一部なのだろう。

「よし、ここらでいったん休憩を取ろう」

「この先は道が険しくなる」

「その前に休んでおこう」

 ガレスが言うと、皆はそれぞれ座れる場所を探して休憩を取った。

「アル」

 後ろからエルシアの声がした。

「アル。休憩中に鍛錬してみない?」

「いいね」

 アルは頷いた。

 周囲を確認してから、道の脇にある開けた場所へ移動する。

「今日は炎?」

 エルシアが尋ねる。

「ううん」

 アルは少し考えた。

「水をやってみたい」

「分かった」

 アルは右手を前へ伸ばした。

 目を閉じる。

 水。

 冷たさ。

 透明感。

 重さ。

 流れる感覚。

 そして――。

 鋭く飛んでいく水。

「ウォーターバレット」

 魔力が集まり、水の塊が生まれる。

 次の瞬間。

 水が弾丸の形となって飛び出した。

 ドンッ!

 木の標的に命中する。

 昨日と同じように、水が弾けた。

「……やっぱり」

 アルは眉を寄せた。

「広がる」

「そうね」

 エルシアが頷く。

「どうしたいの?」

「もっと貫通させたい」

「なら、どうすればいい?」

 アルは標的を見つめる。

「圧力を上げる……?」

「それだけ?」

「水の形をもっと細くする」

「うん」

 アルは再び魔力を集めた。

 今度は水の量を減らす。

 細く。

 鋭く。

 まっすぐに。

 水が一本の細い線へと変わる。

 そして――。

 シュッ!

 水の槍のようなものが飛び出した。

 標的に浅い傷を刻む。

「……少し変わった」

「でも、まだ不安定ね」

「うん」

 アルは頷いた。

「水を固くするイメージが足りない」

「固くする?」

「いや……」

 アルは考え込む。

「水を固体にするなら……凍らせる方が早い」

 その言葉に、エルシアが目を細めた。

「試してみる?」

「できるかな」

「やってみないと分からないでしょう?」

「だね」

 アルは笑った。

 水。

 冷却。

 温度が下がる。

 液体から固体へ。

 一本の氷。

 鋭い先端。

「……アイシクルランス」

 魔力が一気に高まる。

 水が生まれ――。

 瞬間的に形を変えた。

 透明な氷の槍。

「できた……!」

 アルが目を輝かせる。

 だが、氷の槍は数秒もしないうちに表面へ亀裂が走った。

 パキッ。

 そして地面へ落ちる。

「……失敗?」

「半分成功かな」

 エルシアが笑った。

「形にはできた」

「でも、維持できなかった」

 アルは落ちた氷の槍を拾い上げる。

「……イメージが足りない」

「そういうこと」

 そのときだった。

「なるほど」

 少し離れた場所から声がした。

 イザベラだった。

「魔法を形にするだけなら、アルはもうかなり自由にできる」

「でも、形を維持するためのイメージがまだ粗い」

 アルは頷く。

「うん」

「だから、もっと詳しく理解しないといけない」

 イザベラは少し笑った。

「だったら、私も手伝えるかもしれないわね」

「いいの?」

「ええ」

 イザベラは右手を軽く掲げた。

 指先に小さな雷が走る。

「私は雷魔法を長く使ってきたから」

「雷をどう扱えば安定するのか、多少は分かるわ」

 アルの目が輝く。

「どうするの?」

「その顔を見ると、断れなくなるのよね」

 イザベラは苦笑した。

「まずは雷を出してみて」

「うん!」

 アルはすぐに構える。

 魔力を集める。

 雷。

 光。

 熱。

 空気を焼く感覚。

 そして、一直線に伸びる槍。

「ライトニングランス」

 バチィッ!

 青白い雷が伸びる。

 標的へ命中した。

 だが――。

 雷の槍は途中で大きく揺らぎ、狙いから少し外れた。

「……まだズレる」

 アルが呟く。

「今のは雷を槍にするところまではできている」

 イザベラが言った。

「でも、飛ばした後のことまで考えている?」

「飛ばした後……?」

「そう」

「雷の槍が、空中をどう進むのか」

 アルは目を見開いた。

「……!」

 イザベラは続ける。

「形だけを想像しているから、動き始めた瞬間にイメージが崩れる」

 アルは黙り込んだ。

 確かにそうだった。

 炎の槍。

 水の弾丸。

 雷の槍。

 どれも「形」は思い描いていた。

 だが、それが動いている状態まで、明確には想像していない。

「魔法は、作った瞬間に終わるものじゃない」

 イザベラが言う。

「飛ばすなら、飛んでいるところまで」

「燃やすなら、燃え続けているところまで」

「切るなら、切った瞬間まで」

 アルはゆっくり頷いた。

「……イメージを途中で切らない」

「そういうこと」

 エルシアも頷いた。

「少しずつ分かってきたね」

 アルは両手を見つめる。

 魔法は、まだ分からないことだらけだ。

 だが――。

 昨日より今日。

 今日より明日。

 少しずつ、思い描いたものに近づいている。

「もう一回、やってみたい」

 アルが顔を上げた。

 イザベラとエルシアが顔を見合わせる。

「ほどほどにね」

「うん!」

 アルは再び魔力を集めた。

 今度は、雷の槍だけではない。

 その槍が生まれ。

 飛び。

 空気を裂き。

 標的へ向かって進んでいく。

 そこまでを、一つのイメージとして思い描く。

 バチィッ!

 先ほどよりも真っ直ぐな雷が走った。

 標的の中心を貫く。

「……できた」

 アルが呟く。

 イザベラは目を細めた。

「今のは、かなり良かったわ」

 エルシアも微笑む。

「うん」

 アルは嬉しそうに笑った。

 しかし、その直後。

 森の奥から、鳥の鳴き声が響いた。

 全員が一斉にそちらを見る。

 カインが目を細める。

「……休憩は終わりだ」

「先へ進もう」

 アルは頷いた。

 魔法の鍛錬は、まだ終わらない。

 けれど今は、それ以上に気になる場所がある。

 エルフの里。

 そして――。

 黒魔石と、謎の精霊石。

 黒ローブたちは、いったい何をしようとしているのか。

 その答えを求めて、一行は再び森の奥へ進んでいった。


第50話、最後まで読んでいただきありがとうございました。

今回は水魔法から氷魔法への発想、そしてイザベラとの雷魔法の鍛錬を描きました。

アルにとって魔法は、まだまだ研究途中です。

「どう作るか」だけではなく、「作ったものがどう動くのか」まで考える。

そんな小さな変化が、これからのアルの魔法にどう繋がっていくのか。

引き続き見守っていただければ嬉しいです。

次回もよろしくお願いいたします。

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