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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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3/63

目覚め 

第3話です。

ここからアルフレッドとしての新しい人生が本格的に始まります。

楽しんでいただけましたら幸いです。

 目を覚ました瞬間だった。

 まるで堰を切った濁流のように、膨大な情報が脳内へ流れ込んできた。

「――っ!?」

 頭を抱える。

 痛みはない。

 だが情報量が多すぎた。

 知らない記憶。

 知っている記憶。

 二つの人生が激しくぶつかり合う。

 白い世界。

 創造主。

 転生。

 研究室。

 病室。

 大学。

 論文。

 数式。

 そして――死。

「そうか……」

 しばらくして整理が終わる。

 神崎悠真。

 それが前世の名前。

 そして今の自分は。

 アルフレッド・フォン・ヴァルクレイン。

 五歳。

 アストリア王国北部を治めるヴァルクレイン辺境伯家の次男。

 今までの五年間の記憶も鮮明に存在していた。

 父。

 母。

 使用人たち。

 屋敷。

 領地。

 全て覚えている。

 前世の人格が上書きされた感覚ではない。

 二つの人生が融合した。

 そんな感覚だった。

 ふと窓から朝日が差し込む。

 広い寝室。

 高価そうな家具。

 天蓋付きのベッド。

「……異世界か」

 前世なら興奮していただろう。

 だが研究者だった悠真は、まず状況確認を優先した。

 ベッドから降りる。

 そこで。

 違和感に気付いた。

「軽い」

 思わず呟く。

 信じられないほど身体が軽い。

 歩く。

 走る。

 跳ねる。

 呼吸を繰り返す。

 苦しくない。

 胸が痛まない。

 息切れもしない。

 それだけで感動しそうになる。

 前世では当たり前ではなかった。

 数歩歩くだけで疲れた。

 階段を上るだけで息が切れた。

 運動会を羨ましく眺めていた。

 だが今は違う。

「これが……健康な身体」

 思わず笑みが零れた。

 ただ生きている。

 それだけで嬉しい。


 その時だった。

 コンコン。

 扉がノックされた。

「アル坊ちゃま? 起きていらっしゃいますか?」

 聞き慣れた声だった。

「うん。起きてるよ」

 扉が開く。

 入ってきたのは、栗色の髪を後頭部でお団子にまとめ、いわゆるメイド服を身にまとった女性だった。

 マリア・ローゼンベルク。

 乳母兼専属メイド。

 五年間、自分を育ててくれた女性だ。

「おはようございます。アル坊ちゃま」

「おはよう、マリア」

 返事をした瞬間。

 マリアが固まった。

「……坊ちゃま?」

「うん? なに?」

「えっと……なんだか急に大人びたような……」

 鋭い。

 さすがは乳母だ。

 だが説明できる話ではない。

「今日で五歳だからね」

「それだけじゃ説明になりませんよ?」

 首を傾げるマリア。

 前世なら苦笑していただろう。

 その時だった。

 後ろから元気な声が飛んできた。

「アルさま。おはようございます!」

 マリアの半分ほどの背丈で、栗色の髪を後ろに束ね、こちらもメイド服に身を包んだ元気な少女だった。

 リリア・ローゼンベルク。

 マリアの娘。

 十歳。

 自分の遊び相手であり、幼馴染でもある。

「お誕生日おめでとうございます!」

「今日から五歳ですね!」

「ありがとう」

「なんか反応薄くないですか?」

「そうかな?」

「いつもならもっと喜びますよ!」

 そうだった。

 五歳のアルフレッドなら、きっとそうだっただろう。

 だが中身は三十代の研究者である。

「喜んでるよ」

「ならいいんです!」

 鋭い。

 この娘も侮れない。

 マリアが苦笑した。

「こらこら、リリア。お坊ちゃまに失礼ですよ」

「メイドらしく慎ましやかになさい」

「はぁーい」

 この親子のやり取りも、とても心地よかった。

 リリアは、将来僕の専属メイドになる予定らしい。

 もっとも実際には、本当の姉のような存在だった。

「さあ、朝食にいたしましょう」

「リリア、お坊ちゃまのお着替えを手伝って差し上げて」

「はーい!」

「頼むよ、リリア」

「はい。今日はこちらをお召しください」

 マリアから渡された服をリリアが受け取り、着替えを手伝ってくれた。

 前世では考えられないことだが、この世界では毎日の日課らしい。

 身体も自然に動く。

 着替えを済ませ、三人は部屋を出た。


 廊下を歩く。

 広大な屋敷。

 磨き上げられた床。

 高い天井。

 等間隔に並ぶ柱。

 前世の知識から見ても、相当な資産を有していることが分かる。

 改めて、辺境伯家の格式の高さを実感した。

 三人は食堂へ入る。

 そこには二人の人物が待っていた。

「おはよう、アルフレッド」

 穏やかな微笑みを浮かべる女性。

 長い金髪に深い青の瞳。

 前世で言うなら、まるで中世ヨーロッパの貴婦人を思わせるような美しさだった。

 母、セレナ・フォン・ヴァルクレイン。

 名門魔法貴族の出身であり、優しく聡明な女性だ。

「おはようございます、母上」

 そしてもう一人。

 巨大な体格の男性。

「誕生日おめでとう」

 低く重厚な声が響く。

 父、エルディオン・フォン・ヴァルクレイン。

 王国屈指の将軍にしてヴァルクレイン辺境伯。

 アストリア王国北方を治める領主である。

 一見すると威圧感のある人物だが、実際は誰よりも家族思いの優しい父だった。

「ありがとうございます、父上」

 席に着く。

 ほどなくして、メイドたちが朝食を運んできた。

 前世ほど柔らかくはないが、いわゆるハードパン。

 野菜がたっぷり入った優しい味わいのスープ。

 バターを惜しみなく使った濃厚な卵料理。

 朝採りのみずみずしいサラダ。

 前世では、こんな豪華な朝食を食べたことはなかった。

 そして何より――

「美味しい……」

 思わず言葉が漏れた。

 病院食ではない。

 普通の食事を、普通に食べられる。

 それだけで幸福だった。

 両親が不思議そうな表情を浮かべる。

「どうした?」

「食事が、とても美味しくて」

 母が優しく微笑んだ。

「よかったわね。たくさん食べなさい」

「はい」

 思わず頬が緩む。

 パンを口に運ぶ。

 噛む。

 飲み込む。

 何の苦しさもない。

 前世では、食事一つですら体調に左右された。

 好きな物を好きなだけ食べることなど、ほとんど叶わなかった。

 だが今は違う。

 健康な身体がある。

 それだけで、世界はこんなにも違って見えた。


 朝食後。

 父は執務へ向かった。

 母も教育係との打ち合わせがあるらしい。

 自由時間になった。

 アルフレッドは一人、庭へ出る。

 庭園には色とりどりの花が咲き、噴水の水音だけが静かに響いていた。

 あたりを見回し、誰もいないことを確認する。

 まずは確認だ。

 創造主との契約。

 あれが本当だったのか。

「鑑定」

 そう呟いた瞬間。

 左目の視界いっぱいに、半透明の文字が浮かび上がった。

 なるほど……。

 左目が鑑定眼として機能しているらしい。

【アルフレッド・フォン・ヴァルクレイン】

年齢:五歳

種族:人族

状態:健康

称号:異世界からの転生者・創造主の権能保持者

 表示された。

「本当にあるのか……」

 興奮が込み上げる。

 さらに視線を下へ向ける。

【魔力量:測定不能】

 思考が止まった。

「は?」

 測定不能?

 いや、待て。

 普通なら数値が表示されるはずだ。

 それなのに、表示はたった一言。

 つまり――。

「やりやがったな、あの創造主……」

 規格外という話は、本当だったらしい。

 胸が高鳴る。

 前世では、才能は努力では覆せない壁だった。

 病弱な身体もそうだ。

 どれだけ努力しても、肉体は応えてくれなかった。

 だが、この身体は違う。

 健康。

 莫大な魔力。

 そして――。

 研究できる環境がある。

 さらに五年間の記憶をたどる。

 この世界の常識。

 魔法。

 人々は魔力を使い、火を生み、風を起こし、水を操る。

 それが、この世界では当たり前の光景だった。

 だが――。

「現象理解」

 創造主から与えられた権能。

 前世の知識。

 科学。

 物理学。

 熱力学。

 電磁気学。

 量子力学。

 そして魔法。

 もし。

 もし本当に。

 魔法が法則に従っているのなら。

 研究できる。

 解析できる。

 再現できる。

 体系化できる。

 前世で夢見た未知の学問が、ここにはある。

「面白い……」

 思わず呟く。

「面白いぞ……!」

 胸の奥から興奮が込み上げる。

 止まらない。

 病室で科学雑誌を読んだ時。

 初めて宇宙論に触れた時。

 ブラックホールという存在を知った時。

 あの胸が震えるような感覚と同じだった。

 未知がある。

 解明されていない世界がある。

 知りたい。

 理解したい。

 解き明かしたい。

 その時だった。

「アルさまー!」

 リリアが小走りで駆け寄ってくる。

「また変な顔してますよ?」

「変な顔?」

「難しいこと考えてるような……学者さんみたいな顔です!」

 学者か……。

 いや、研究者だ。

 中身は。

 思わず苦笑が漏れる。

 もちろん説明したところで理解される話ではない。

「そうかもしれないね」

「何ですか、それ!」

 リリアが頬を膨らませる。

 その表情があまりにも愛らしく、アルフレッドは思わず笑ってしまった。

「ふふっ」

「もう! 笑うところじゃありません!」

 リリアが抗議する。

 その様子を見て、さらに笑みが深くなる。

 こんな何気ない時間。

 こんな平穏な日常。

 前世では決して長く味わえなかったものだ。

 だからこそ。

 守りたいと思った。

 そして心の中で誓う。

 前世では途中で終わった。

 病が全てを奪った。

 だが今度は違う。

 健康な身体がある。

 有り余るほどの時間がある。

 魔法がある。

 未知の世界がある。

 ならば――。

 この世界の全てを解き明かしてみせよう。

 魔法とは何か。

 魔力とは何か。

 現象とは何か。

 法則とは何か。

 誰も知らない答えへ。

 誰も踏み込んだことのない領域へ。

 研究者として。

 一人の人間として。

 必ずたどり着いてみせる。

 そうして少年は、まだ知らない。

 その純粋な知識欲が。

 やがて王国を。

 世界を。

 そして魔法そのものの歴史を。

 大きく変えていくことになるとは。

 ただ今は。

 人生で初めて手に入れた健康な身体と。

 未知に満ちた世界に。

 心の底から歓喜していた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この話から、アルフレッドの研究者としての物語が本格的に動き始まります。

次回からは、この世界の魔法や常識に少しずつ踏み込みながら、「魔法を現象として理解する」というテーマを描いていきます。

「続きが気になる」「面白い」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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