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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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真実へつながる手掛かり

第119話「真実へつながる手掛かり」をお届けします。

森の奥に残されていた施設で起きた、突然の爆発。

報告を受けたアルたちは、現場へ向かい、何が起きたのかを確かめることにします。

そこで見つけたのは、黒魔石に関する記録と、思いがけない組織の痕跡でした。

少しずつ、これまでの謎がつながり始めます。

今回も楽しんでいただければ幸いです。


 爆発の報告が届いたのは、夜も深まった頃だった。

 王都にあるアルの屋敷。

 イザベラは、届けられた報告書に目を通していた。

「……建物が爆発した?」

「はい。監視を続けていた冒険者から、メッセンジャーホークで急報が届きました」

 報告を持ってきた者が答える。

「爆発の直前、建物から強い光が漏れ出し、その後、大きな爆発が起きたそうです」

「周囲の状況は?」

「詳しくは分かりません。爆発直後は危険と判断し、冒険者たちは距離を取っています」

「そう……」

 イザベラは報告書を机に置いた。

 あの施設で何が行われていたのか。

 そして、爆発は事故だったのか、それとも何者かによるものなのか。

 今の情報だけでは判断できない。

「アルに知らせましょう」

 フィオナが言った。

「そうね。すぐに話をしないと」

 イザベラは頷き、アルの部屋へ向かった。

     

「爆発した?」

 報告を聞いたアルは、思わず聞き返した。

「ええ。偵察中の冒険者から連絡があったわ」

 イザベラが説明する。

「建物から強い光が出た後、大きな爆発が起きたらしいの。まだ現場の詳しい状況は分かっていない」

「……何が起きたんだろう」

 アルは考え込んだ。

 黒ローブたちが活動していた施設。

 そこには、何かを運び込んでいた痕跡があった。

 さらに、星環教の関係者らしき人物まで姿を見せていた。

 その場所で爆発が起きた。

 偶然とは思えない。

「すぐに現場へ行きたい」

「私もそう思うわ」

 イザベラが頷く。

「ただし、全員で一緒に向かうのは避けた方がいいわね」

「爆発の原因も、現場に誰が残っているかも分からない。黒ローブたちが戻ってくる可能性もあるわ」

「それに……」

 フィオナが続けた。

「アルは今、人質として王都にいる立場だよ。屋敷を急に空ければ、余計な疑いを招くかもしれない」

 アルは黙って頷いた。

 表立って監視されているわけではない。

 しかし、どこに目があるか分からない以上、慎重に行動する必要がある。

「だったら、どう動く?」

 エルシアが尋ねた。

 イザベラは少し考えてから口を開いた。

「私が現場へ向かうわ。冒険者たちを集めて、周囲の警戒と調査を始める」

 その時、エルシアが口を開いた。

「それなら、私が獣化してアルを運ぶよ」

「エルシアが?」

「うん。狼の姿なら、普通の馬車よりずっと速く走れる。アルが風の魔法で補助してくれれば、もっと速く移動できると思う」

 エルシアはアルを見た。

「それなら、夜のうちに現場まで行って、調査を終えて戻ってこられるよ」

「……確かに」

 アルは少し考えた。

 エルシアの体力に負担をかけることは避けたい。

 だが、精霊たちの助力も得られれば、風の抵抗を抑え、彼女の走りを補助することはできるかもしれない。

「途中で休憩を入れる必要はあると思う。無理に走り続けるのは危険だから」

「分かってる。私も無茶をするつもりはないよ」

「それなら、お願いしたい」

 アルは頷いた。

「それから、フィオナには屋敷に残ってほしい」

「私が?」

「ええ。アルが普段どおり屋敷にいるように見せてほしいの。何か聞かれたら、体調が優れず部屋で休んでいるとでも伝えて」

「なるほど。アルの代わりをするわけね」

「そういうこと」

 フィオナは少し考え、それから頷いた。

「分かった。任せて」

「ありがとう」

 アルは全員を見渡した。

「現場では、無理をしないで。爆発の原因が分からない以上、建物の中も危険だと思う」

「もちろんよ」

 イザベラが答える。

「まずは周囲の安全を確認して、見つけたものを記録する。危険があれば深入りしないわ」

「俺たちが着くまで、証拠を不用意に動かさないようにもしてほしい」

「分かった」

 短い打ち合わせを終えると、イザベラたちは出発の準備を始めた。

 そして、夜が明ける頃。

 イザベラは冒険者たちを率いて、屋敷を後にした。

     

 爆発翌日の午前。

 アルとエルシアは、屋敷の一室で現場へ向かう準備を進めていた。

 必要な道具。

 記録用の紙と筆記具。

 簡単な食料と水。

 それから、現場で使う魔道具。

 アルは一つずつ確認していく。

「これで大丈夫かな」

「忘れ物はなさそう?」

「うん。あとは移動のことだね」

 アルは窓の外へ視線を向けた。

「屋敷を出るところを見られたくはないけど、監視されているかどうかも分からない。必要以上に警戒して動きを不自然にするのも避けたい」

「だから、暗くなってから出るんだね」

「うん。人目が少なくなってから、できるだけ目立たないように出発しよう」

 アルは準備していた荷物をもう一度確認した。

「現場に着いたら、まずは爆発の痕跡を調べたい。魔力の残滓や、魔法陣の構造が残っていれば、何が起きたのか分かるかもしれない」

「資料も見つかるといいね」

「そうだね。黒ローブたちが何をしていたのか、少しでも分かればいいんだけど」

 アルはノートを開いた。

 爆発の規模。

 魔力の残滓。

 魔法陣の有無。

 黒魔石に関係する反応。

 そして、黒ローブたちが残した資料。

 何か一つでも手掛かりが見つかれば、これまでの調査が大きく進むかもしれない。

     

 同日の午後。

 イザベラたちは、爆発現場へ到着していた。

 森の中にあった古い教会は、見る影もないほど崩れていた。

 壁の一部は吹き飛び、屋根は大きく崩落している。

 周囲の木々も爆風に巻き込まれ、幹が折れたり、枝が散乱したりしていた。

「……これはひどいわね」

 イザベラが周囲を見渡す。

「爆発の規模が大きかったみたいです」

 冒険者の一人が答えた。

「ただ、森全体に被害が広がったわけではありません。爆発の中心に近い場所ほど損傷が激しいようです」

「分かった。まずは周囲を確認して。建物の中へ入るのは、崩落の危険がないと判断してからよ」

「了解です」

 冒険者たちは手分けして動き始めた。

 周辺の足跡を調べる者。

 森の中に不審な人影がないか警戒する者。

 崩れた建物の外側から、残された物を確認する者。

 イザベラも、爆発の中心付近を慎重に調べていた。

 焼け焦げた石材。

 砕けた床。

 そして、地面に残る不自然な魔力の痕跡。

「……魔法陣があったのかしら」

 床の一部には、円形に削られたような跡が残っていた。

 爆発によって大部分が失われているが、何かの術式が描かれていた可能性はある。

「イザベラさん。こちらを見てください」

 別の冒険者が呼んだ。

 崩れた壁の近くに、焼け残った紙束が落ちていた。

「これは……」

 イザベラは手袋をはめ、慎重に紙を拾い上げる。

 文字の一部は焦げて読めない。

 それでも、いくつかの単語は確認できた。

 黒魔石。

 生成。

 精製。

 そして、出荷先らしき記載。

「……持ち帰って確認する必要があるわね」

 イザベラは紙を保護用の袋へ入れた。

 その後も調査を続けると、別の場所から金属製の箱が見つかった。

 中には複数の書類が残されている。

 その一枚には、王宮の関係部署を示す印が押されていた。

 さらに別の書類には、星環教の紋章が確認できる。

「これも保管して」

 イザベラは冒険者へ指示した。

 まだ内容を詳しく確認できていない。

 印があるからといって、すぐに組織全体の関与を断定することもできない。

 それでも、重要な手掛かりである可能性は高かった。

 イザベラたちは、見つけた資料を整理しながら、引き続き周辺の調査を進めた。

     

 その日の夜。

 王都の屋敷では、アルが窓の外を確認していた。

 空は暗くなり、通りを行き交う人影も少なくなっている。

「そろそろ行こう」

 アルが言った。

 エルシアは頷き、静かに狼の姿へと変わる。

 大きな銀色の狼。

 アルは必要な荷物を背負い、彼女の背に乗った。

「準備はいい?」

「うん」

 アルは周囲の風を感じる。

 魔力を流し、精霊たちの気配を探った。

 小さな光が、いくつか周囲に集まる。

「道案内をお願いできる?」

 アルが心の中で呼びかける。

 風がわずかに揺れた。

 まるで応えるように、進むべき方向へ空気が流れていく。

「ありがとう」

 アルはエルシアの背にしっかりとつかまった。

「行こう」

 エルシアが地面を蹴る。

 銀色の影が、夜の森へと駆け出した。

 アルは風の魔法で空気抵抗を抑え、エルシアの走りを補助する。

 ただし、彼女の体力を無視できるわけではない。

 一定の距離を進んだところで休憩を取り、水を飲ませる。

 周囲の安全を確認しながら、再び走り出す。

 その繰り返しだった。

 やがて、遠くに森の切れ目が見えてきた。

「……もうすぐだね」

 アルが呟く。

 エルシアは短く鳴き、さらに速度を上げた。

     

 しばらくして、アルとエルシアは爆発現場へ到着した。

 崩れた教会の周囲には、すでに冒険者たちの姿があった。

「アル!」

 イザベラが駆け寄ってくる。

「無事に着いたね」

「うん。現場の様子は?」

「建物はほとんど崩壊しているわ。ただ、いくつか資料を見つけた」

 イザベラは保護用の袋を取り出した。

「黒魔石の生成や精製に関する記録。それから、王宮と教会の紋章がある書類もあった」

「……本当に?」

 アルは袋の中を覗き込んだ。

 焦げた紙の端に、確かに見覚えのある紋章が残っている。

 星環教。

 そして、王宮の印。

「中身は確認した?」

「一部だけ。焼けているものも多いし、ここで無理に読もうとするより、持ち帰って調べた方がいいと思う」

「そうだね」

 アルは頷いた。

 資料を一枚ずつ確認していく。

 黒魔石の生成工程。

 精製の記録。

 複数の種族から集められた素材の管理番号。

 そして、出荷に関する記載。

 その中に、王宮の関係部署を示す名前があった。

 さらに別の書類には、教会の上層部を思わせる署名が残っている。

「……これ」

 アルの指が止まった。

 書類の一部に記された名前。

 そこには、ルシウスの名があった。

 別の紙には、教皇アルベリク十三世の名も見える。

 アルの胸が強く高鳴った。

 父と母を奪ったクーデター。

 その背後にいたかもしれない人物たち。

 これまで疑いながらも、確かな証拠をつかめなかった相手。

 その名前が、目の前にある。

「アル?」

 エルシアが心配そうに声をかけた。

「……大丈夫」

 アルは一度、深く息を吸った。

「まだ、これだけで決めつけることはできない。書類の意味も、署名が本物かどうかも確認する必要がある」

 そう言いながらも、声にはわずかな震えがあった。

 ようやく、手掛かりに届いたのかもしれない。

 その時だった。

「イザベラさん!」

 見張りの冒険者が駆け込んできた。

「森の入口に、複数の人影が現れました。白と金の衣服を着た者もいます!」

「来たわね……」

 イザベラはすぐに判断した。

「調査はここまでよ。資料をまとめて撤退する」

「まだ確認できていないものがある」

 アルが言う。

「分かってる。でも、ここで捕まるわけにはいかないわ」

 イザベラはアルを見た。

「持ち帰れば、続きを調べられる。ここで失えば、何も残らない」

 アルは一瞬だけ迷い、それから頷いた。

「……分かった」

 冒険者たちは資料をまとめ、現場から離れる準備を整えた。

 エルシアも狼の姿に戻る。

「アル、乗って」

「うん」

 アルは荷物を背負い直し、エルシアの背に乗った。

 イザベラたちは別の経路を使い、森の中へと散っていく。

 背後からは、教会関係者らしき者たちの声が聞こえ始めていた。

 だが、彼らが現場へ到着した頃には、アルたちの姿はすでになかった。

     

 王都へ戻る道中。

 アルはエルシアの背に揺られながら、先ほど見た書類のことを考えていた。

 黒魔石の生成。

 精製。

 出荷記録。

 そして、王と教皇の名前。

 まだ証明できたわけではない。

 書類の真偽を確かめなければならない。

 記録の前後関係も調べる必要がある。

 それでも。

 これまで断片的だった情報が、初めて一つの形を持ち始めていた。

(もしかしたら……)

 アルは、無意識に拳を握った。

 両親が殺されたあの日。

 何が起きていたのか。

 誰が関わっていたのか。

 なぜ、ヴァルクレイン家が狙われたのか。

 その答えに、ようやく近づけるかもしれない。

 胸の奥から、期待が込み上げてくる。

 同時に、怒りもあった。

 もし本当に、あの二人が関わっているのなら。

 今まで信じてきたものが、すべて裏返ることになる。

 それでも、確かめたい。

 自分の目で。

 自分の手で。

 証拠を積み重ねて、真実を明らかにしたい。

「……アル」

 エルシアの声が聞こえた。

「大丈夫?」

「うん」

 アルは小さく笑った。

「少し、興奮してるだけ」

「無理はしないでね」

「分かってる」

 アルは夜空を見上げた。

 まだ何も確定していない。

 けれど、今夜手に入れたものは、これまでの調査とは違う。

 ようやく、真実へつながる糸をつかんだのかもしれない。

 その期待を胸に、アルたちは王都への帰路を急いだ。


第119話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、爆発した施設の調査を通じて、アルたちが重要な手掛かりを手にする回でした。

これまで断片的だった情報が、少しずつ一つの形を見せ始めています。

ただし、見つかった資料が何を意味するのかは、まだ確認が必要です。

次回は、持ち帰った資料を詳しく調べていきます。

今後ともよろしくお願いいたします。


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