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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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118/121

森に隠された施設

王都周辺の調査を続ける冒険者たち。

その中で見つかったのは、森の奥にひっそりと残る古い教会でした。

そこでは、黒ローブたちが何かを運び込み、秘密裏に活動しているようです。

さらに、現場には星環教の関係者らしき人物の姿も……。

少しずつ明らかになる黒ローブたちの動き。

そして、森の奥で起きた異変とは――。

 王都から少し離れた森の中。

 そこには、長い間人の手が入っていない古い建物があった。

 かつては教会として使われていたのだろう。

尖塔は崩れ、壁には蔦が絡みつき、正面の扉も朽ちて半ば開いたままになっている。

 周囲には人の気配がない。

 近くにあった村も、ずいぶん昔に廃村となっていた。

「……本当に、こんな場所にあるのか?」

 木陰から建物を眺めながら、一人の冒険者が呟いた。

 その隣には、別の冒険者がいる。

「地図に載っていた場所はここで間違いない。だが、普通なら誰も近づかない場所だな」

「だからこそ、隠れるには都合がいいんだろう」

 二人は、王都周辺の異変を調べるために集められた冒険者だった。

 イザベラたちから依頼を受け、魔物の動きや黒ローブの目撃情報を追っていた。

 今回の調査も、その一環だった。

「……少し待て」

 先を歩いていた男が、突然足を止める。

「どうした?」

「音がする」

 二人は耳を澄ませた。

 建物の奥から、何かを引きずるような音が聞こえてくる。

 続いて、低い話し声。

「誰かいるな」

「近づきすぎるなよ」

 二人は木々の陰に身を隠し、建物の様子をうかがった。

 しばらくすると、裏手の扉が開く。

 そこから出てきたのは、黒いローブをまとった数人の人物だった。

 そのうち二人は、大きな荷車を押している。

 荷車には布がかけられていた。

 だが、その隙間から人の手らしきものが見えた。

「……人か?」

「声を出すな」

 冒険者たちは息を潜めた。

 黒ローブたちは荷車を建物の脇へ運び、近くの岩場にある洞窟へ入っていった。

 その後も、何度か同じような出入りが繰り返された。

 荷車に載せられていたのは、人間だけではなかった。

 布の隙間からは、魔人族らしき者の姿も確認できた。

 さらに、魔獣や獣の死骸まで運び込まれている。

「……これは、ただの隠れ家じゃないな」

「一度戻ろう。ここで無理をするのは危険だ」

 二人は周囲の地形と建物の位置を記憶し、慎重に森を離れた。

     

 その日の夜。

 王都にある一室で、イザベラは冒険者からの報告を受けていた。

「古い教会に黒ローブ。洞窟には人や魔獣が運び込まれている……」

「はい。少なくとも、普通の活動ではないと思います」

 報告した冒険者が答える。

「建物の中までは確認できたの?」

「いいえ。警戒している様子だったので、深入りは避けました」

「それでいいわ。無理をして相手に気づかれたら意味がないもの」

 イザベラは地図を広げた。

 報告された場所は、王都からそれほど遠くない森の奥だった。

「……この位置なら、王都からも人を送り込める距離ね」

 彼女は地図に印をつけた。

「引き続き周辺の監視をお願い。黒ローブの人数、出入りする荷車、ほかに誰か訪れるか。できるだけ詳しく調べて」

「分かりました」

「ただし、相手に気づかれないことを優先して。危険を感じたらすぐに引き返していいわ」

 冒険者は頷き、部屋を出ていった。

 イザベラはすぐに別の連絡を手配した。

 この情報は、アルにも伝える必要がある。

     

 翌日。

 アルの屋敷に、イザベラからの報告が届いた。

「古い教会……?」

 アルは報告書を読み返した。

 黒ローブたちが出入りしている建物。

 近くの洞窟へ運び込まれる人や魔獣。

 そして、周辺で確認された不自然な気配。

「何かの施設なのかな」

 エルシアが隣から尋ねる。

「その可能性は高いと思う」

 アルは地図を広げた。

「人や魔獣を運び込んでいるなら、何かを保管しているか、あるいは何らかの作業を行っている場所なのかもしれない」

「黒魔石と関係がある?」

「まだ分からない。でも、無関係とは考えにくいね」

 アルは報告書に目を落とした。

「イザベラたちは、引き続き周辺を調べているみたいだ」

「私たちはどうする?」

「今は、向こうの報告を待とう。現地の様子が分からないまま動くのは危険だから」

 アルはそう答えた。

 焦って行動するより、まずは情報を集める。

 それが今の状況で取るべき判断だった。

     

 それから数週間。

 冒険者たちが交代で監視を続けるうちに、古い教会の様子が少しずつ明らかになっていった。

 黒ローブたちは、昼夜を問わず建物へ出入りしている。

 洞窟へ運び込まれた荷物が、再び建物へ戻されることもあった。

 そして、ある日の夕方。

「……あれは、神官か?」

 監視を続けていた冒険者が、小さく呟いた。

 森の奥から、数人の人物が現れた。

 その服装は、黒ローブとは明らかに違う。

 白と金を基調とした衣服。

 胸元には、星環教の紋章があった。

 その一団の中央には、ひときわ立派な衣服をまとった人物がいた。

 周囲の者たちは、その人物に道を譲り、深く頭を下げていた。

「……教会の人間か」

 冒険者は目を細める。

 その人物が建物へ入ると、黒ローブたちは一斉に頭を下げた。

 しばらくして、一団は建物から出てきた。

 そのまま森の奥へと姿を消していく。

「これは……報告しないと」

     

 同じ頃。

 アルは屋敷でイザベラから直接報告を受けていた。

「教会の人間も出入りしている?」

 報告書を読むアルの表情が変わる。

「しかも、かなり高い立場の人物らしいわ」

 イザベラの声には、いつになく緊張が感じられた。

「黒ローブたちが頭を下げていたなら、少なくとも無関係ではなさそうだね」

「そうね。ただ、まだ断定はできないわ」

「うん。引き続き確認してほしい」

 アルは報告書を机に置いた。

 黒ローブ。

 魔人族や魔獣を運び込む荷車。

 そして、教会の上層部と思われる人物。

 少しずつ、情報がつながり始めている。

「……やっぱり、教会が関係しているのかな」

 エルシアが呟く。

「可能性は高くなった。でも、まだ証拠が足りない」

 アルは窓の外を見た。

「何をしている場所なのか、確かめる必要があるね」


 その日の夜。

 古い教会の建物は、森の闇に包まれていた。

 周囲に人影はない。

 だが、建物の奥からは、かすかな光が漏れている。

 青白い光だった。

 それは一定の間隔で明滅し、窓の隙間から森の中へ漏れ出していた。

「……また光っているな」

 監視を続けていた冒険者が呟く。

「魔法陣の光か?」

「分からない。少なくとも、ランタンの灯りじゃないことは確かだな」

 光が強まる。

 その瞬間、周囲の空気が僅かに揺れた。

 森の木々が、不自然にざわめく。

 近くにいた鳥たちが一斉に飛び立った。

「……何か起きている」

 監視の冒険者たちは、危険を感じてさらに建物から離れた。

 近くの岩陰まで移動し、様子をうかがう。

 青白い光は、さらに強くなっていく。

 建物の窓から漏れる光が、森の地面まで白く照らし出した。

「おい、あれは……」

 次の瞬間。

 轟音が森を揺らした。

 古い教会の内部から、強烈な光が噴き出す。

 建物の壁が内側から弾け、屋根が大きく持ち上がった。

 爆発だった。

 衝撃波が木々を揺らし、地面を震わせる。

 冒険者たちは咄嗟に身を伏せた。

 その頭上を、木片や石の破片が飛んでいく。

 やがて轟音が止んだ。

 残されたのは、崩れ落ちた建物と、夜空へ立ち上る黒煙。

「……今のは」

 一人が呆然と呟く。

 もう一人は、すぐに立ち上がった。

「急いで連絡を! 現場で何が起きたのか、すぐに知らせに行け!」

 もう一人は、崩れ落ちた建物から目を離さず、周囲の様子を警戒した。

 森の奥では、まだ小さな火の手が上がっていた。

 そして、その異変を知ったのは、彼らだけではなかった。

 古い教会で何が行われていたのか。

 爆発によって何が失われ、何が残されたのか。

 その答えは、まだ誰にも分からなかった。


第118話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、王都周辺の調査から、黒ローブたちが関わる謎の施設が明らかになりました。

これまで別々に見えていた黒ローブと教会の動きが、少しずつつながり始めています。

しかし、施設で何が行われていたのか、そして突然の爆発は何を意味するのか。

次回もぜひお付き合いいただければ幸いです。

今後ともよろしくお願いいたします。


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