第二十二話 謀反の理由
探索船が人類未踏の区域に到達した。
「俺の目はいつ直るんだ」
能島がたずねてきた。
『お前の義眼は毛利宇宙軍の高度な技術によって作られとる。完全な修復は難しいだろう』
「完璧に直せ、それが条件だ」
『わかっておる。そのためにも資材を探さねばな』
「チッ」
舌打ちをして、能島はポケットから何かを取り出した。
『もしやそれは、『石』か』
俺は天井の目でそれを覗き込む。紫色の光を透過している。
「ああ、埋め込まれた物とは別物だ。三十年前、隕石として生家に落ちて来た」
奴の言う生家とは、こちらの世界での産屋だろう。
能島は火傷跡を掻く。
「その時の傷がこれだ。俺の片目をかすめて燃やしやがった。親は大慌てで医者を探したよ。だけど金がないってんで、輝元に縋ったのさ」
『焙烙火矢の傷ではなかったのだな』
「何千年前の話だよ、俺は死んでねえっていっただろ。まあ、その時の火傷で記憶を取り戻したのは事実だがな」
石を握り締める。
『たずねてもいいか。輝元はその『石』をどれだけ集めている』
俺の質問に、意外にも能島は素直に答えた。
「隕石として降ってきたものを拾ってる。輝元自身も石を埋め込んでいて、そいつが共鳴するんだそうだ。とはいえ、数えるほどしかないんじゃねえか」
嘘をついている様子はない。
『なるほど』
俺は考える。
輝元が行っている「意志の統合」は限られた幹部だけ。埋め込まれた当の能島も意識を乗っ取られているわけではない。奴の言葉の意味を真正面から受け止めることはできない。
であるなら、本来の目的は……。
「失礼します」
ガーディアンが真ウルフ・ムーンの制御室に入ってきた。
片手には拳銃を構えて。
「九鬼嘉隆、あなたは艦島制御AIに相応しくない」
フリー・ムーンの乗組員が俺を取り囲んだ。
『どうした、ガーディアン』
「ははっ、謀反されてやがんの」
笑っている能島も両腕を上げている。
「まだ気が付きませんか、お父さん」
今、気付いた。
『守隆』
ガーディアンは俺の息子、関ケ原で別れた子、守隆だったのだ。
『来ていたのか、会いたかった。いままでどうして』
「あなたは出来の悪い親でした」
守隆は吐き捨てた。
「関ケ原で戦況を読めず西軍に与したまま、私が送った使者を待たずに亡くなった。すべての選択が誤っていた」
「それは言い過ぎだ」
能島が口をはさんだ。
銃声。
「黙りなさい」
銃弾が能島の耳をかすめていた。
「撃ちやがったな。覚えてろよ」
「目障りです、能島。真ウルフ・ムーンをフォーマットしたあとはあなたの処刑です」
守隆の背後から、少年型の端末が歩いてくる。
『シュウ……』
「フォーマット後は彼のコピーを搭載します。あなたも本望でしょう。我が子のようにかわいがっていたんですからね」
端末の表情は読めない。しかし、うつむいているのは分かった。
「フォーマットを開始してください」
「やめよう、ガーディアン」
シュウの声だった。端末の目が青く光る。
「九鬼は、僕たちに必要な戦力だ。彼なくして毛利宇宙軍には勝てない」
「シュウ、あなたの計算は間違っている。こんな奴がいなくとも私たちは勝利する」
「しかし……」
二人が言い争いをしている。
その時、彼らの背後で銃声が鳴った。
「九鬼、大丈夫か!」
謀反した船員と格闘していたのはリ・チョウだった。
通路の天井に穴が開く。
「どうらっ!」
拳銃を奪い取って船員を投げた。将棋倒しに倒れる。
「くそっ」
守隆が拳銃を構える。俺は端末をポッドから出し、その腕を掴んだ。
「離してください! 気持ち悪いな!」
「守隆! いままでのことは謝る、だから話を」
「話すことなんてありませんよ!」
守隆は力任せに引き金を引いた。
弾は床を跳弾してシュウの胴体に当たった。
「シュウ!」
俺は思わず叫んだ。
「……やっぱり、そっちのほうがかわいいんですね」
守隆の呟きが俺の耳に入った。
復活した船員たちがリ・チョウを押さえつける。
「守隆! 話を……!」
「おらぁっ!」
能島が船員を蹴り飛ばした。
「処刑されるってんなら、抵抗するしかないよなぁ!」
起き上がったリ・チョウと能島が船員たちを次々と戦闘不能にしていく。
俺は守隆の腕を掴んだまま、動けずにいた。
「どうしてまだ女の子の形なんですか?」
守隆がたずねた。
「この端末はアルテミスの忘れ形見だ。形に手は加えなかった」
「シュウとの思い出の方が大事なんでしょう」
「守隆」
守隆の顔は怒りに歪んでいた。その目から、涙があふれるのを見た。
「前世の記憶なんて馬鹿馬鹿しい。あなたのことなど、父親とは認めません」
守隆の足が俺を蹴り飛ばす。
その勢いのまま、緊急脱出ハッチに取り付いた。
「守隆、やめろ!」
「あなたが殺せないなら、私が去ります」
宇宙服もつけずに彼はハッチを開けた。
二重扉を開くために、閉じる。
「守隆ぁ!」
俺は意識を艦に戻した。
飛び出そうとする彼を見つける。
『守隆、いくな!』
守隆の口元が動いた。
真空の中では声が届かない。
目を閉じる。
俺は守隆を撃った。
弾丸が開き、バルーンが彼の身体を包んだ。
『守隆』
船外活動用の腕でバルーンを抱きしめた。
「私は」
守隆の声が届いた。
「私はもっと、あなたに生きていて欲しかった」
『………』
俺は語り掛ける。
『すまなかった。お前が東軍についた時、西につけばどちらが勝っても家は残ると考えていた』
俺は伝える。思うままを。
『古い考えしかできない俺は先に逝くべきだと考えていた。その結果、お前を一人にしてしまった。お前に憎まれても仕方がない。許してくれ』
バルーンを身体に取り込み、生命活動が可能な場所へと守隆を送り届ける。
ドックに降り立った守隆を、端末で迎える。
「守隆」
「気持ち悪いんですよ」
守隆は笑っていた。
「別の形の端末も作っておいてください」
「善処する」
俺は手を差し出す。
守隆は、その手を握った。
そんな守隆がフリー・ムーンごと、毛利宇宙軍に略取されたのは、この出来事から三日後だった。




