86 皇国学習院の特待生制度
私は本当に強くなったのだと実感した。
数人がかりの人さらいの集団を、何事も無かったかのように撃退したからだ。
そしてその日私は少し帰りが遅かったことで、レーダ母さんに怒られた。
でもレーダ母さんは私を心配していて、怒った後、抱きしめてくれた。
その日、私は久しぶりにレーダ母さんと同じベッドで休んだ。
レーダ母さんの温かさは私を安心して眠らせてくれた。
翌日、私がパン屋に向かおうとすると、河の近くに黒山の人だかりができていた。
「一体何があったんですか?」
「子供は見ない方が良い、溺死体だよ。どうやら全員酔っぱらって橋から落ちたらしい」
私は溺死体を見て、ビックリしてしまった。
その死体は全員……私を襲った誘拐犯達のものだったのだ。
私はコレが事故ではなく、レイブンさんのやったことだとすぐにわかった。
だが、私はそれを人に言うつもりはなかった。
レイブンさんのやったことは正しいことだ。
法律では犯罪かもしれないが、この連中のやっていたことは法に触れる子供の誘拐だ。
それも下手すれば警備隊とグルだったのかもしれない。
「まあコイツら街でも有名な貴族のドラ息子とその取り巻きだろ。まあ自業自得だね」
よく見ると溺死体の一人は、私が前の人生でも見た事のある顔だった。
『サウストライアングル男爵』
彼はその息子だった。
何度となく捜査線上には上がるものの、なぜか逮捕に至らない。
そうだったのか、やはり彼が子供誘拐の実行犯だったのだ。
しかしこれでもうこの辺りで子供が誘拐されることは無くなるのかもしれない。
レイブンさんが奴隷売買の元締めベレニケ男爵はもう再起不能だとも言っていた。
これでこの辺りの治安も良くなるのか。
私はその場を離れ、パン屋に向かった。
パン屋の仕事を終わらせ、次に風呂屋の受付の仕事に向かった私はある集団の子供達を受け付けた。
そして私は驚いてしまった。
その子供達は、スピカと一緒にケプラーの屋敷に捕らわれていた子供達だったのだ。
奴隷にされるはずだったこの子供達は、どうやらカストリアが連れてきたらしい。
これで私は確信した。
今のカストリアは、奴隷にされた子供達を自分の仕事に使っているのだ。
しかしこの子供達の表情には暗い影が見えない。
前にガリガリだった子供達や肌に傷のあった子供達は、何度も来るたびにどんどん肌の色も良く、身体も健康になっているようだ。
ひょっとしてこの辺りで物乞いの子供達が姿を見せなくなったのも、カストリアが保護したと考えていいのかもしれない。
今のカストリアは、カストルだった時のような人を妬む事も無い。
そして貴族の地位というものも利用できる立場だ。
私と同じように、カストリアは立ち位置が変わったことで、人生が大きく変わったのかもしれない。
私はいつか彼女と出会う時があるような気がした。
しかし今の私にもやるべき事がある。
私は大好きなこの街の人達を守る力を手に入れたい。
レイブンさんの所で格闘術や剣術を習っているのもそのためだ。
だがそろそろ学力も身に着けて、この街の人達が幸せになるようにしてあげたい。
そのためには学校に行く必要がある。
この国で一番の学校といえば皇国学習院である。
前の人生で馬鹿にしていた存在だったが、この国には優秀な子供に無料で学校に行ける特待生制度が存在する。
私はこの特待生になって、この街の人達のためにその力を使いたい。
そう考えたが……特待生になるには貴族の推薦状が必要だった。
仕方ない、学校はあきらめるしかないのか。
「ポル、どうしたの?」
「な。何でもないよ……」
「悩みがあるなら、お師匠様に聞いてみたらどうかな?」
そう言えば、シリウス爺さんは元男爵だ。
「うん、今度シリウス爺さんに話してみる」
私は皇国の学習院特待生になるために、シリウス爺さんを頼ることにしてみた。




