第94話:せいれいしゃん、やりちゅぎた? の、ひ!
馬車を爆走させて、翌日には魔王国の手前の森に着いた。
隣国だけあって、移動距離はそんなになかったかな?
「森に入る前に昼食休憩じゃ」
「パパ、しょとで、あしょんできてもいい?」
「いいよ。じゃが、森に入っちゃいけないぞ」
「あい! みんないこ~!」
わ~! と、孤児院の子達と馬車の外へ駆け出していく。
「何して遊ぶんだ?」
年長のマグア君が、ソラちゃんよりもまだ小さい、3歳のソフィアちゃんの手を引きながら言う。
「ん~、どちよ?」
森の周辺を見わたす。
この森は、さすがトレンティーさんが作っただけあって、王都周辺の痩せた森よりも木が太く、その密度も濃いね。
実戦研修した森は奥まで行かないと木が密集してなかったしね。
――もりは、ようせいしゃん、いっぱいいるのに、こっちにはじぇんじぇんいないね?
うん。草原っていうほど草も生えてないし、草の元気もないね。精霊さんたちを怒らせた結果だね。
「ソラおねえちゃん、おはな、さいてるよ」
「お、ソフィア、よく見つけたね」
「え~、どこ~?」
と、マリーちゃんとケリー君も駆け寄ってくる。
「ほら、ここ、さいてる」
ソフィアちゃんが指差したところに、花が一輪だけ咲いていた。
さて、気付いただろうか? 3歳のソフィアちゃんが、さ行の発音がしっかり出来ていたことを?
――もぉぉぉ! しょれ、いまいうことちがうでちょ!
そ、そうだね。ごめん。
「おはな、きれい」
「むふふ~。おちろのちかくに、いっぱいしゃいてるよ」
「ここは、これだけ?」
――どちて?
いや、わたしに聞かないで。
「ひとりぼっちは、かなしいよ」
「えう!!」
おお!? ソラちゃんがソフィアちゃんの言葉に衝撃をうけましたよ?
まあ、ジェノさん達は抜きにして、アヤネちゃんと出会うまでは、1人だったしね。
学園でみんなと一緒に学んで遊んで、その楽しさを知ったからね。
孤児院の子達も、その楽しさを知ってもらいたいよね。
「パパー! トレンティーしゃん!」
ソラちゃんが呼ぶと、2人が走り寄ってきた。
「どうしたんじゃ?」
「何かあったの?」
「あはなの、たね、だちて!」
パパとトレンティーさんの前で飛び跳ねておねだり。
それでスカートが捲れてオムツが見えようが気にしない。だって、ソラちゃんだもん。
「うむ。トレンティーよ、出せるかの?」
「ふっふっふ。愚問ね。みんな集まって、手の平を向けてね」
「「「は~い!」」」
「あい」
両手の手の平を上に向けると、光が手の平に落ちてきて、それが山盛りの種に変わった。
みんなの手にも、山盛りの種がある。
「ソラおねえちゃん、これ、どうしたらいいの?」
「撒いたらいいの?」
と、ソフィアちゃんとマリーちゃんが、どうしたらいいか分からずに首を傾げる。
――どうちたらいいの?
て、だからどうしてわたしに聞くのかな?
――もぉぉぉ!
あ~うん。えっとね、これから1つ1つ種を植えても時間がかかっちゃうから、空に向かって撒いて、後は精霊さんにお願いしようか?
――あい!
「えっちょね~、こうやって~、おしょらに、ばってまくの」
飛び跳ねながら、両手で持った種を着地してから腕を空に向かって振り上げて、種を周囲に撒きちらかす。
着地してからだから、飛び跳ねた意味は特にない模様。
「いくよ~、それ~!」
みんなが空に向かって放った種が、1つ1つ輝いて地に散っていく。
――せいれいしゃん、おねがいちましゅ!
あ、言葉が浮かんできたよ!
――あい!
「『せいちょうのしゅくふく! ぐろす・ぶれ~しんぐ!』」
『風は種を運びて』
『火は命の活力を』
『土は肥沃になりて』
『水は命を育む』
緑、赤、黄、青の光り輝く玉が上空に現れて、大地に光の玉が舞い踊る。
妖精の舞だね。
ソラちゃんを中心に、花が咲き誇り、色とりどりの花びらが空を舞う。
精霊さん達、ちょっとやり過ぎではないですか? これ、多分、枯れない花畑になってると思うんですよ。
元から咲いていた一輪の花なんて、嬉しそうに光ってますよ。
「おねえちゃん、すごい!」
「でちょ!」
うん。ソラちゃんも嬉しそうだからいいか。
誤字報告、ありがとうございます!
――ちゃんと、みなおしゃなきゃ、だめでちょ!
うん……そうだね……。