第92話:だいしょ~り! の、ひ!
初戦を余裕で勝ち、更に奥へと進む。
森の密度は更に増して、木々の隙間が狭くなり、重なり合った枝が太陽の日差しを遮り、薄暗くなる。
「見通しが悪いな。ベル、最後方に移動して、バックアタックの警戒と後衛組みの護衛を」
「ああ。フェルドも横からの奇襲を警戒してくれよ」
「了解」
素早く陣形を組みなおす。
この子達、本当に12歳かしら?
「あいあい! あたちは、あたちは?」
「あ~、ソラちゃんは、アヤネちゃんに抱かれたまま中衛待機で」
「あい!」
うん。ソラちゃんは見たまま4歳児だね。
――ろくしゃいだもん!
あ、うん。そうでしたね。(いや、精神年齢が4さ……黙っとこう)
いやね、戦闘で部類無き強さを見せるソラちゃんだけど、素の身体能力は4歳なんですよ。
てことは、体力がなくて歩き疲れちゃうわけでね? 本当は護衛として付いて来てくれているアヤネちゃんは、よほどの危機がじゃない限り手助け出来ないんだけど、特例としてソラちゃんを抱いてるわけでして。
「ソラちゃん。モンスターが出てきたら、戦闘に参加しないとダメだよ」
「あい、がんばる」
それまでは抱かれていよう。
「ストップ!」
先頭を歩いていたフェルド君が立ち止まり、剣を抜いて構えた。
アヤネちゃんの耳もピクピクと動いて、周囲の音を聞き分けている。
「ソラちゃん……ウルフが3匹」
「えうぅ!」
びくっと体が跳ねて、アヤネちゃんにしがみつく。
頑張るんじゃなかったのかな?
――こわいもん……。
この時点で、最高戦力が脱落決定。
アヤネちゃんも、ソラちゃんにしがみつかれて動けないだろうし。
『ガウゥ!』
「うわ!」
横の茂みからグレーウルフがフェルド君に爪を立てて襲いかかり、フェルド君はその爪を剣で弾いて防御した。
爪を防がれたウルフは、そのまま反対方向の木の陰へと消えていく。
「ぐあ!」
「ベル!」
「大丈夫だ! かすり傷だ!」
どうやら、後方でも同じ戦法で襲い掛かられたらしい。
「こんなに動き回られたら、魔法も使えませんわ!」
これが、森の中でのウルフの戦術か。
『ガウゥ!』
「おっと」
『キャイン!』
アヤネちゃんに襲い掛かったウルフは、右手に持った剣で弾き飛ばされたけど。アヤネちゃんはそれだけで手一杯だろう。なんせ、ソラちゃんを装備しちゃってるんだから。
「きゃぁぁ!」
悲鳴が聞こえ、アヤネちゃんに押し付けていた顔を向けると、地に倒れ、ウルフに組み敷かれたアリアちゃんが見えた。
辛うじて噛み付きは杖で防いでいるけど、力負けするのは時間の問題だ!
ソラちゃん! 怖がってちゃダメだ! パパみたいに皆を守らないと!
――あ……あい! 怖くないもん!
うん! いくよ! 因子開放!
「おねえちゃん!」
アヤネちゃんから飛び降りて、着地した瞬間に一気に踏み込む。
踏み込んだ地が爆ぜて、ウルフと交差した瞬間に世界樹の剣を一閃。ウルフの首を切断した。
「みんな、まもるもん!」
――ソラしゃん!
うん。心を1つに!
「『あいぎす! りじぇね! ほーりーふぃーるど!』」
アイギスが、攻撃に対して絶対防御の光の盾を展開して、リジェネが、みんなが負った傷を回復し、その後も継続して回復し続ける。
そして、ホーリーフィールド。聖なる領域を作り出し、モンスターを弱体化する。
『がルル!』
「おしょい!」
正面から飛び掛ってきたウルフを、剣を振り下ろして頭から尻尾まで真っ二つに両断した。
「しょこ!」
手から魔法の何かを撃った。うん、多分、光の弾丸。
『キャイィィィン!』
これで、3匹全て討伐完了……なんだけど、あれでしょ? ソラちゃんって幼児言葉? ちゃんとサ行が発音できないじゃん? これだけの激闘でも緊迫感が薄れちゃうっていうか……。
「ソラちゃん凄いですわ!」
「ほんとすげ~! 聖女の魔法だよね! 助かったよ!」
「えへへ」
皆から褒められてデレデレだね。
「よし。皆、ここまでにして帰ろうか」
アヤネちゃんがそう言った時、不意にそれは現れた。
森の木々を薙ぎ倒し、高さが3メートルはある、棍棒代わりの丸太を掴んだ巨人のモンスター。
「「「トロル!!」」」
「パパ!」
違うからぁぁぁ! 皆はトロルって言ってたでしょぉぉぉ!
「がんばったから、だっこ!」
因子開放したまま胸に向かって大ジャンプ!
『グア!?』
どっごぉぉぉん!
どこかへ吹き飛んでいきましたよ。
――ありぇ? パパとちがう?
そうだよ~。
ソラちゃんの、因子解放だっこちて! を受け止められるパパの強さを改めて知ったよ。
そしてトロルよ。お前はなぜ、このタイミングで出てきたんだ……。
人違いで吹き飛ばされる哀れな奴よ……。