第53話:しょんなしゅぐには、かわらないもん! の、ひ!
フェニックスにより、訓練場が半壊した翌日、朝食を食べ終えた王国の一行は、帰路につくため並んだ馬車に次々と乗り込んでいた。
「うわぁぁぁん! アリアおねえちゃ……ヒック……いっちゃやだ! びぇぇぇん!」
アリアちゃんと一緒に居た時間が、アヤネちゃんのときと違って濃密すぎた。
たった1日だったけど、一緒に遊んで、一緒に学んで、一緒にご飯食べて、昨夜なんかは一緒のベッドで寝たしね。
「ソラちゃん、これが最後のお別れというわけじゃないのよ」
アリアちゃんが抱き締めて背中を撫でてくれる。
「だって……だって、じゅっといっちょ……ヒック」
うん。ずっと一緒に居られると思っちゃったんだよね。
「お父様! 決めましたわ! 8歳になるまでなんて待ってられません! 来年、わたくしも学園に入学します!」
「うむ。おそらく、ソラリス殿は魔法科で特待クラスになるじゃろ。もちろん、アリアもな。そこで再び一緒になり、共に学べばいい」
「だから、ソラちゃん。来年、また必ず会いましょう! 今は、笑顔で見送ってほしいな」
「あい……ぐす……」
ジェノさんがそっと近寄って、ハンカチで涙を拭いてくれた。
「またね、おねえちゃん」
「またね、ソラちゃん!」
最後は、笑顔で、手を振り合ってアリアちゃんを見送った。
――ソラしゃん。
うん?
――つよくなる! べんきょうも、てつだって。
もちろん。一緒に強くなろうね!
それから8ヶ月後。
「ソラ様! 今日は計算のお勉強って言ったじゃないですか!」
「やなの! けんのれんちゅう、しゅるの!」
お城の中で追いかけっこしてますよっと。
「捕まえた――」
「くいっく!」
背後からのジェノさんの手を、急加速で回避。
「もう! グランゾ様の因子って本当にやっかいなんですから!」
「つかまらないもんね!」
全身に馴染んじゃったパパの因子を、感情の昂ぶりで能力開放。それに加えて素早さアップのクイックっていう魔法。
勉強から逃げたいっていう感情で、魔王の因子を開放。
うん、凄く無駄遣いですね。
「おや? ソラリスや」
「パパ!」
廊下を逃げてると、パパが円卓の部屋から出てきて、ソラちゃんが急停止。
「この時間は勉強じゃなかったかの?」
「いまから、しゅるとこ!」
「そうかそうか」
頭を撫でてもらえてご機嫌モードになる。
本当に今からするの? 逃げてたよね?
――しぃぃぃ!
いや、わたしにそんなこと言っても。
「グランゾ様、聞いてください!」
「もぉぉぉ! いまから、しゅるって、いってるのに!」
「ははは! 2人共、落ち着くんじゃ。俺も今からソラリスの勉強を手伝うからの」
「パパといっしょ!」
「もう、ソラ様は……」
お互い、ソラちゃんには苦労しますね。
「ジェノや、一緒に頑張ろうな」
「はい」
わたしも、感情に負けないように頑張る!
と、まあ、こんなわけで。学園入学まであと少しだけど、ソラちゃんは変わってません。
……このままでいいのかなぁ?