第45話:かんしゃつにっき! の、ひ!
勇者達の騒動から1ヶ月がたった。
何か変わったことがあったのか? て言われたら、答えはこうだ。
何も変わってない。
「ジェノしゃん、こんどは、こっちのえほん」
「はい。ソラ様」
女子座りをして、目の前に開かれた絵本。
その絵本を、隣りに座って、なぜか頬がくっつくほど密着して読むジェノさん。
……あ、変わったとこあったわ。
ジェノさんのスキンシップが激しくなった。
「あ! パパ!」
ゴス!
急に立ち上がったソラちゃんの肩がジェノさんの顎に突き刺さる。
もんどりうって転げまわるジェノさん。
普段は並みの5歳児以下の身体能力だけど、興奮したときに大幅に身体能力が跳ね上がっちゃうんだよね。
うん。ジェノさん、痛そうだけど同情はしないよ。
ソラちゃん、ジェノさんを無視して、窓から見えたパパを追いかける。
絵本はどうした? 相変わらずの集中力の無さだ。
部屋を飛び出し、城の門を抜け、表参道へ。
パパに追いついて、更にダッシュ。
「パパ!」
「おお! ソラリス!」
両手を上げて、抱っこしてポーズでそのままジャンプ!
ドスン! ズザザー!
抱き締めるように受け止めたパパの体が30センチほど後方に滑っていった。
「ソラリスや。もうちょっと落ち着こうかの」
「えへへ」
パパだからよかったけど、他の人だったら大怪我しちゃってるよ?
――かってになっちゃうよ?
そうなんだけどね……。
「心配せずとも、あと数日すれば因子は落ち着くじゃろ。今は全身に馴染んだ因子が暴走しておるだけじゃ」
「あい!」
その暴走している原因がソラちゃんだと思うんですが?
花畑に来た。
その一区画に、耕したばかりの茶色の土が見える。
「ここは昨日、耕したばかりでの、一緒に種を植えようかの」
「いっちょ、うえる!」
パパから数粒の種を手の平に受け取って、初めて見た種をツンツンする。
――これ、おはなになるの?
うん。すぐ横で咲いてるような綺麗な花になるよ。
――たのちみ!
だね~。
「ここに指で穴を開けて、種を一粒入れたら、優しく土を被せるんじゃぞ」
「えっと……つんってちて、いれて、つち……」
間隔はバラバラだけど、全部の種を植え終わったよ!
「ソラリス。観察ノートを作ってきたから、一緒に成長日記をつけような」
「つける~!」
お! 勉強嫌いなソラちゃんに、文字を覚えさせる作戦だな。考えたねパパ!
「じゃ~今日はお水をやって終わりじゃな。このノートに、種を植えて、水をやりました、って書くんじゃよ」
「たね……みじゅ……かけた!」
「う……ん。なんて書いてるか読めんけど、まあいいじゃろ」
いいのかよ!
「水をやろうかの」
「あたち、やる!」
と、ソラちゃんが、魔力コントロールの練習のときみたいに、手と手の間で水玉を作り出して、それを花畑にぶちまけた。
水は土に染み込んでいき、芽が出て、葉をつけ、茎が伸びて、蕾がなって、花が咲いた。
……10秒で、コスモスみたいな花が咲きました!
「……この花、ソラリスっていうんじゃよ。さて、日記に、水をやったら花が咲きましたって追加しようかの……」
観察日記、1日で、1ページで、1行で終了……。
「パパ……」
「いいんじゃよ……うん。これでいいんじゃ」
あ、もちろん、次の日から普通の水を使って、新しい区画でパパと一緒に観察日記を付け始めたよ!
パパを悲しませたくないからね!