第39話:かんたん、いちばんつよい! の、ひ!
お城に帰ってから1週間がたった。
アヤネちゃんとの約束、強くなるという目標に向かって、ソラちゃんは頑張っている。
「では、よん、たす、はち、は?」
自室の床に向き合って座っているジェノさんが、ゆっくりと聞き取りやすいように問題を言ってくれる。
それに対して、ソラちゃんの答えは。
「いっぱい!」
努力に成果が伴うなんてことは、ないのである。
なんせ、両手の指は10本しかない。それ以上は数えられない。
10を超えたら、答えは全て、いっぱい、になる。
「ソラ様、私、ちょっとトレンティー様とお話してきますね」
「あい」
深刻な顔をして部屋を出て行くジェノさん。
お手数をおかけして申し訳ない。
――かんたんだね。
そりゃ、いっぱいって答えるだけなら簡単でしょうね。
――ちがうの?
答えは12だよ。
――え~?
なぜ疑問系なのかな?
でも、まあ、まだ5歳にもなってないし、算数に関しては焦らなくてもいいじゃないかな。
いまやるべきことは、身体能力の向上だよね。
ここの人達、過保護すぎて走り回ることもあまり出来ないし。そうなると、筋力はもとより、体力面で不安が出てくるよね。
――むむむ~。
お? ソラちゃんも今後の対策を考えてるの?
――あい! どうやたら、ソラしゃんがうるしゃくなくなるか。
ふふふ。そんなこと言う子にはこうだ!
右手だけ主導権を奪って、左脇をこちょこちょ!
「きゃは……あふぅ! きゃふふ! あうぅ!」
身をよじって逃げ出そうとするけど、残念。同じ体だから、逃げれないよ!
アヤネちゃんのくすぐり地獄で、自分自身で弱点も分かってるからね!
「ソラ様! えっと……1人でそういう行為はまだ早いっていうか……大人になってから……」
「ソラちゃん、ちょっとゆっくりお話しましょうか?」
タイミング悪く部屋に入ってきたトレンティーさんとジェノさんに、盛大に勘違いされちゃった。
幼児というものは集中力が長続きしないよね。
特大な駄々をこねた結果、外で魔法の訓練をすることになった。
勉強よりも、やっぱり外で動き回ったほうがいいよね。
ソラちゃん専用魔法訓練場。
四隅に防壁が出る魔道具が設置され、並みの魔法では破壊されない壁に包まれた訓練場だ。
わたしが中から制御しているかぎりは暴発しない……はず。
等間隔に並べられた的が4つ。
いつでもいいよ~。
――あい!
で、返事と共に、ソラちゃんが使いたい属性の色が意識下に流れ込んでくる。
火は赤、水は青、風は緑、土は黄。
でもね、それが同時に流れ込んできて焦ったよ。必死に魔力を練り上げたよ。
「ぽい!」
たったその一言で、周りに火の矢、水玉、風の刃、土の槍が出現して、それぞれの的に向かって飛んでいく。
ボン! バッキャン! シュバ! ドゴォン!
全ての的が吹き飛んだ。
「ソラちゃん……無詠唱四属性同時発動って……」
「しかも、ぽいって! 魔法名を言わずに発動って凄くないですか!?」
「しょのほうが、かんたん」
いや、簡単って、裏で一生懸命に魔力を練ってるのはわたしだよ!
ていうか、ぽい、で発動できるなんて、初めて知ったよ!
たしかに、練りさえ終われば、発動待機状態だけどね、もうちょっとこう、常識をさ……。
――あたち、つよい。
やだ、この聖女、攻撃的すぎる!
……聖女って、なんだっけ?