第38話:こちょこちょ、ちてやる! の、ひ!
成長速度で大騒ぎになっていた場は、アヤネちゃんの登場で収まることになった。
「え? 一晩で見ただけで分かるほど背が伸びるって、どんな化け物なの?」
泣くばっかりで主導権を渡してもらえないわたしに代わって、代弁してもらえた。
「確かにそうじゃの」
「獣人族は7年に1回ある繁殖期にしか子を身ごもらんからな。嬢ちゃんと同世代の子が居ないから比較できないのが問題か」
あ、だから8歳のアヤネちゃんが最年少なのか。
今この街には、周期的に妊婦さんが沢山いるらしい。
「食糧問題が深刻でも、年中無休でポンポン子が生まれる人間が変なんですよね」
「だから食料を巡って、同じ人族同士で戦争もするらしいぞ」
「馬鹿じゃね?」
人間、酷い言われようである。
ここにそうやって生まれたわたしが居るんですけど。
「そうれはそうと、ソラちゃん達はお昼に帰っちゃうんですよね?」
「しょれまで、あしょぶ!」
こら! アヤネちゃんも予定があるでしょ?
――ぷぅぅぅ!
「あしょ~ぼ! あしょ~ぼ!」
「あ、ちょ! 尻尾を掴んで振らないで!」
ふさふさ尻尾が気持ちいい~!
は!? わたしの精神までソラちゃんに引っ張られた!
「ははは。遊びたいか。森のほうはどうなってる?」
「森の妖精の話では、あれ以降は人間の森への侵攻はないようですけど」
「外も一応は安全か。昼食を食べたら帰るから、その時間まで遊んでやってくれ」
「はい! 喜んで!」
「やった!」
やった~!
てことで、アヤネちゃんと手を繋いで外出。
森のほうは危険ということで、森とは反対側に向かって歩く。
街の郊外には、畑が広がっていた。
キャベツやトマトなど、種類豊富に実っている。
「しゅご~い!」
城の周囲に畑なんてないから、初めて見る光景にソラちゃんの興奮度は爆上がりだ。
ダッと駆け出して。
「きゃふ!」
ビチャン! と、水溜りで滑ってこけて、顔から泥水に突っ込んだ。
長く白銀に輝く髪も泥まみれだ。もちろん、ジェノさんが選んで着せてくれたドレスも。
「ソラちゃん! 大丈夫?」
「えへへ。こけちゃった」
お、泣かなかったな。
「ぶにゅにゅ~。やわらかいね」
水溜りの底に出来た泥を両手で掴み上げて、ぐにゅぎゅむっと揉みこむ。
「くしゃくないね?」
こら! 何をイメージしたんだ! 色は茶色で柔らかめのあれだけど!
だめだ。わたしがしっかりと教育しないと!
「あはは! それは泥だから、あれとは違うよ~」
「どろどろ~。ぽい!」
あ! ぽい、じゃないでしょ! アヤネちゃんに泥を投げちゃダメ!
あ~あ。アヤネちゃんのふさふさキツネ尻尾が、泥だらけでしんなりと細くなっちゃった。
「ふふふ……。尻尾って、洗うのも乾すも大変なんだよね……泥だし、かぴかぴになっちゃうしで……」
ごめんなさい! すみませんでした!
ソラちゃんも謝りなさい!
「ご、ごめしゃい」
「ゆるさな~い! こちょぐりの刑だ~!」
「きゃぁぁ!」
大きい水溜りの中で追いかけっこが始まって、結局は全身びしょびしょの泥だらけ。
うん。結構楽しかったよ。
楽しい思い出ができたね、ソラちゃん。
いい時間になったので帰ると、鬼の形相のジェノさんが迎えてくれたよ。
「全身泥だらけって、どういう遊びをしたんですか! 早くお湯浴びをしてください! あ~、もう! ドレスも洗わないと~!」
「うわぁぁぁん!」
こうやって、怒られて、泣いて、成長していこうね、ソラちゃん。
別れの時間がやってきた。
馬車に乗り込む前に、アヤネちゃんと挨拶をかわす。
「また会おうねソラちゃん」
「うぅ……ぐす……」
これが最後ってわけじゃないんだから、泣いちゃダメだよ。
「ふふ、次に会うときは凄く強くなってるんだろうね」
「あい……。アヤネちゃんをこちょこちょ、ちてやるもん!」
うん! 今度会うときは、絶対、こちょこちょ仕返し……て、小さい目標だ! やられっぱなしで悔しいのは分かるけどね!
「楽しみにしておくね! またね!」
「ま……たね!」
今度会えるのはいつになるか分からないけど、強くなろうね、ソラちゃん!
――あい!