44 激怒の炎
三人称視点スタート。
残酷な表現があります。
グロ注意!
ある冬の日、人間界のとある場所で、兎の姿をした雪の精霊が、青年に恋をした。
その青年は、崖から落ちて怪我をした雪の精霊を、精霊と知りながら―――その国、ルリィドユアー国は、精霊を見つけたら、捕まえて国に献上しなくてはならない―――誰にも知られないように保護しながら、治療したのだ。
冬が終わり、人間界にいられなくなって、青年に見送られながら精霊界に戻っても、その雪の精霊は、青年を忘れる事ができなかった。
雪の精霊は、ただひたすらに願った。
人間になりたい。
人間になれば、その青年と共に生きられるかも知れない。それは、きっと幸せな事だろう。
雪の精霊が、そう強く思ったその時、空から、金色の石が落ちてきて、なんと、雪の精霊の中に入ってしまった。
そして、金色の石……魔石は、雪の精霊の核となり、精霊の願いを叶えた。
完全な人間ではないが、人型になる事ができたのだ。しかも、人間界の夏の時にいても、平気になった。
雪の精霊は、その事実に喜び、仲間の精霊の制止を振り切って、人間界の青年に告白した。
青年は、その告白に、喜んで頷いた。
それから、人から隠れながらの生活だったが、雪の精霊と青年は、睦まじく幸せに日々を過ごした。
二人の間に子供もでき、その子供に、シャウランと名付けた。
しかし、このまま続くかと思われた幸せな生活は、唐突に終わりを告げた。
森の奥の、薄汚い小屋に、その女性がいた。
虐められ、犯され抜かれたその身体は既にボロボロで、辺りには、赤い液体と白い液体が散乱し、酷い異臭を放っていた。
女性は、薄れゆく視界の中、微かな意識で、我が子の事を思った。
神聖なる教徒と名乗った人間達は、女性の子供を乱暴に連れ去り、そして女性を慰み者にしたのだ。
愛した夫は殺され、子供は連れ去られた。きっと、酷い目に合うのだろう……。
女性の瞳から、涙が溢れだした。
その時、その小屋の扉を乱暴に開け放ち、人間達が入ってきた。
「おーう、まだ生きているかぁ?」
「死んでても構わねぇよ、穴さえあればな!ひひっ。」
「本当、この国は最高だぜ。ユアー神に信仰してさえいれば、何をしても許されるんだからな!」
げひた笑い声をあげながら、自分に迫ってくる男達を見て、女性は目を閉じながら、思った。
(ああ、誰か……私のこの身がどうなってもいい、だから、我が子……シャウランだけは、お助けください……!)
目を閉じた女性の前で、男がズボンに手を掛けた。
―――バチバチバチィィッッ!!!!
気付けば、その男の上半身と小屋の壁が、そんな音と共に消え去っていた。
ズボンに手を掛けていたせいで、残った手が、床に、ベチャッと落ちた。
傍にいた男の頬に、温かい何かが落ちてきた。男が、思わずそれをつまんで目の前持ってきて見ると、それは、目玉だった。
男が震えながら、天井を見上げると…そこには。
男のものと思われる上半身が、千切れた赤い内蔵をゆらゆらと揺らしながら、天井に突き刺さっていた。
誰も、何も言えなかった。唐突に起こった出来事に、誰もついていく事ができなかったのだ。
しかし、それは、まだ始まりでしかなかった。
バチバチッ!!という音と共に、今度は小屋の天井が消えた。
「ひ……ひいいぃぃっ!!」
その光景に、一人の男が、悲鳴を上げながら逃げようとした。
その男が逃げようと、後ろに振り返った途端、その男の顔面に火炎弾が炸裂した。あまりの高熱に、その男の頭が中から爆発四散する。
頭の無い男の上に、ごうごうと燃え盛る小鳥がとまった。
「逃げられるだなんて、思わない事ね。この、ゴミクズ共がっ!!」
思わず後ずさる男達の後ろに、二本の角の間に紫電が走っている真っ黒で巨大な狼と、赤い髪の少女が現れた。
「うわぁ……思わず消し飛ばしちゃったけど、こいつら食いたくないな……。
よし、後で影鼠達のお土産にしよう、そうしよう。」
「大丈夫。肉体も、痕跡も、残すつもりは無いから。……全部、焼き払ってやる……!
コドクは、そっちの女性をお願い。」
「分かった。
ああそうだ、一応、手加減してやれよ。一瞬で終わっちゃうだろうからさ。」
コドクの苦笑交じりのその言葉に、カナンとユーナは、同時に、怒りを露わにして答えた。
「「無理!」」
規格外なコドクに鍛えられ、無自覚に強くなった、二人の少女。
その少女が、本気で怒り狂い、その激情に任せて、力を振るったら、いったいどうなるか。
二人の、あまりの気迫に動けない男達に、ユーナは頭上に、カナンは振り上げた手のひらに、真っ白な球体を浮かべた。
どんどん大きくなっていくそれは、超高温の、小さな太陽。
行き過ぎた火の魔術でできた、全てを燃やし尽くす、激憤の暴力。
前門の虎、後門の狼。前と後ろを挟まれ、死の恐怖に竦んでしまった男達が、何もできる訳がなく。
「「死ね、クズ共!!」」
カナンとユーナの、吐き捨てるようなその言葉と共に、真っ白な激怒の炎が、振り下ろされた。
その日、とある森の奥で。
真っ白な光の柱が、天に向かって昇っていったという。




