39 夜空の鳥は、何を思う
2話目。
コドク視点スタート。
この町に住むつもりが無さそうなので、どこに行く?と、カナンに聞いてみた。
すると、こんな返答が。
「……首都から離れられれば、それでいい。」
僅かに顔をしかめながら、そう言うカナン。
そういえば、確認した事はないけど、カナンって、この国のお姫様っぽいんだよね。それで、父親である皇帝を嫌っている、と。
母親はどうしたんだとか、聞いてみたいけど……明らかに、聞いてはいけない事だよな、これ。
こういう事をきちんと考えられるようになったあたり、俺って、成長したのではないだろうか?
とまぁ、そんなうぬぼれはどうでもいいとして。
「じゃあ、鍛練がてら、ぶらぶらと旅でもするか?その内、精霊界や魔界なんかにも行ってみるのもいいだろうし。」
俺がそう言うと、カナンとユーナは、顔を見合わせ、頷いた。
「うん。それでいいと思う。」
「私も、それでいいわ。ただ、精霊界はいいけど、魔界は遠慮したいわね。」
どうやら、二人も賛成のようだ。
さて、どうやって二人を鍛えるかな……と俺が考えていると、地面の中から、プルプルの気配が近づいてきた。
結構気配の消し方が上手いな……と俺が感心していると、地面の中から大きな花が生え、その花の中からプルプルが出てきた。
プルプルは現れるやいなや、俺に、寂しそうな雰囲気で身体を震わせた。
「お父さん、行っちゃうんだね。」
「ああ、そうだな。」
そう言うプルプルに、俺は苦笑した。
「そんな寂しそうにするなよ、プルプル。生きていれば、またいつか会える日が来るだろうさ。その日まで、しっかりとあの子を守るんだぞ?
この町にも、影鼠を置いておく。何かあったら、影鼠に言えば、俺に伝わる筈だ。」
俺は、そう言いながら、プルプルの身体に、そっと指を置いた。
「俺の子、プルプルよ。お前も世界なんかに囚われるなよ。お前の運命も、生き方も、その力も……全て、お前のものだ。
今は、あの子のお守りという役割が、お前を縛っているだろうが……その後は、好きに生きるといい。この町を守るも良し、旅に出るのでもいい。
愚かな者は、お前を利用しようとするだろう。もしかしたら、排斥する奴も、現れるかもしれない。だけど、そんなものは蹴散らしてしまえ。お前なら、俺の子であるお前なら、それができる筈だ。
だから、何があっても、自分の信念だけは曲げるなよ。諦めてしまったら、後はもう、落ちるだけなのだから……。」
俺が指を離すと、プルプルは、身体に付いている口を笑みの形にした。
「うん!ありがとう、お父さん!
ぷるっ、それとね!あの豚が住んでいた屋敷なんだけど、潰して大きな大樹を生やしたんだー!それとねそれとね、もう一人のお父さんを参考にして、いっぱい目が付いている蔦を、監視代わりに壁に生やさせたんだよー!」
プルプルのその言葉を聞いて、思わず俺は、あの、町を覆っている筈の、高い壁がある方を見てしまった。
壁は、蔦で一面緑色に染まっており、その所々にある、ギョロっと生えている目玉の一つと、不意に目が合った。
俺は、思わず目を逸らし、乾いた笑い声をあげた。
どうやら、プルプルは心配なさそうである。現に、今も常識に囚われていないという証拠を、この目で見てしまった事だし。ハハハハハ……。
すると、プルプルの言葉を聞いたユーナが、首を傾げた。
「豚?そういえば、コドクが気にしていたわよね。結局、どうしたの?」
「ああ、あれね。死んだよ。」
「ふぅん。
……って、殺したの?」
「俺が直接殺した訳ではないけど……まあ、そんな所かな。」
そりゃあ、俺が殺す訳がない。あんなもの、食べたくないしね。
にしても、あの豚を、俺の眷属である影鼠達が食べた訳だが……お腹、壊さなかったのだろうか?少し心配だな。後で星花にでも聞いて、確かめてさせておこう。
そんな事を思っていたら、ユーナが俺の事を、じっと見ているのに気が付いた。
「なんだ?」
俺がそう聞くと、ユーナは「え?ええっと……」と少しためらい、遠慮がちに口を開いた。
「その……あの豚の事を聞いた時のコドク、少し変だったじゃない?だから、何かあったのかな、って思ったのよ。」
その言葉に、俺は苦笑交じりに頷いた。
「ああ、それか。
俺が、カナンと契約する前、あの結界の中で、ずっと殺し合いをしていたのは知っているだろう?」
俺の言葉に、無言で頷くユーナ。
気が付けば、カナンやプルプルも、俺の言葉に耳を傾けていた。
俺は、ゆっくりと瞼を下ろしながら、次第に細まっていく目に、苦い笑みを浮かべた。
「あの、殺し合いをする原因となった結界を張ったのが、あの豚だったんだよ。あの豚のせいで、俺達は、望まぬ殺し合いを強要された。
……なのに、俺は、怒りも、悲しみも湧いてこないんだよな。あいつのせいで、俺は死にかけたっていうのにね。」
俺は、瞼の裏に潜む闇を見つめながら、そう言った。
あの、蠱毒。
全ての魔物が、本気で殺し合っていたのなら……俺は、多分死んでいたのではないだろうか?
俺が生き残れたのは、生き残ってきた魔物達が、皆、死に惹かれていたから、というのがあった。
ずっと同じ場所に閉じ込められ、何時殺されるか分からない状況にいた魔物達は、力を付ければ精霊に近付き、知性が宿っていくのも助けとなって、精神にとてつもない爆弾を抱えていた。
時間が経てば経つほど、その爆弾は増えていく。だけども、身体がなまじ強靱にできてしまっているのと、荒れ狂う魔力を完全に制御下に置けないせいで、体を自由に動かせない為、争いをやめたくともやめられず、傷付いてもすぐに治り、また望まぬ争いへと身を投じる事となってしまう。
その末に、魔物達が望んだもの。それが、死、であったのだ。
闇の中に隠れていた俺には、闇の中に溶け出たその心の声が、痛い程に聞こえていた。
その頃、結界を破っての逃走を図っていた俺だったが……その声を聞いて、俺は、蠱毒を終わらせる事を決意したのだ。
そんな事が、あったというのに。皆、苦しんで、俺の糧となっていったというのに。
俺の心には、虚しさしか、無かったのだ。
こんな、ろくでもない奴しか生き残れないから。俺は、世界が嫌いなんだ。
カナンを背に乗せ、ついでにユーナも乗せて、俺は青空に舞い上がった。
眼下に、プルプルが身体を変形させて作った、ひも状の腕を振って、俺達を見送っているのが見えた。
プルプルが蕾の中に戻り、町に戻ったのを見て、町の上空を旋回する。
俺が、もう一度この町に来る事はあるのだろうか。プルプルもそんなやわではないし、何より、この町は俺を歓迎しないだろう。まぁ、誰がどう思った所で、俺には関係ないが。
カナンが、行き先を指で示すのを見ながら、思った。
この数日間に、様々な事を感じ、知る事ができた。
この世界の事、カナンとユーナの事、俺自身の事……。
特に、この世界の闇は深そうだ。
この先、どんなものが待ち受けているのか。いったい、どんな運命が、悪意が降りかかってくるのか。それは、俺には分からない。
だけど、何もできなかった、無力で無気力だった前世の俺とは、もう違う。世界が敵になろうが、神が敵になろうが、それがカナンとユーナの邪魔となるのならば、この牙で食い殺してやろう。
その日、その町の空に、太陽を覆い尽くさんとする、夜空が広がった。
いや、夜空では無い。それは、巨大な鳥であった。
巨大な影が差し、驚いた町民が空を仰ぐと、その鳥は二つの金色の残光を残しながら、あっという間にどこかへと消えてしまった。
人々が呆然とする中、緑色の丸い魔物にちょこんと座った幼子が、ただ一人、「まっくろしゃん、ばいばーい!」と笑顔で手を振っていたという。
次は人物紹介となっています。
ちなみにですが、まだ終わりません。




