29 守りたいという意思
3話連続投稿。1話目。
コドク視点スタート。
闇から、カナンの影の中に入った俺は、精霊の姿に戻ると、そのままカナンの影から頭だけを出した。
「ただいまー。」
「お帰り。でも、遅い。」
頬を膨らませて、ぷんぷんと怒るカナン。
ありゃ。どうやら、カナンにとっては、不満であったらしい。
そんなカナンに、ユーナが苦笑した。
「まぁ、確かに、数秒じゃなくて数十秒だったわね。」
「判定厳しいな……。で、何十秒だった?」
俺が冗談交じりにそう聞くと、カナンが即答した。
「43秒。」
あ、数えていたのか。って、細かいな!
「まぁ、1分以内に帰ってきたという事で……」
「だめ。お布団決定。」
言い終わらぬ内に、俺の背に飛び乗るカナン。本当に、カナンはその位置が好きだな。
カナンが、俺の背で落ち着くと、ユーナは諦めたような溜息を吐いた。
「本当は、1分以内に終わらせてくるコドクがおかしいのだけど……なんか、もう違和感すらなくなってきたわ…。」
「あの身体が、十分に操れたのなら、ほぼ一瞬で片づけられたんだけどね。
まだ、青い魔石自体が試作段階だからさ。もうちょっと調整しないと、神としての真価は発揮できないかな?」
俺がそう言うと、ユーナが半眼になって俺を見つめてきた。
「そう言えば、なっていたわね、神。すごーく、ムカつくくらいにあっさりと。
あんなに、簡単になれるものなの?」
カナンのその問いに、俺は首を横に振った。
「精霊までなら、魔力さえあれば、強引にやってどうにでもなるけどな。神は、それ以上に、魂の力が必要みたいだ。」
「魂の力?」
「そう。例えば、決意とか、強い感情だとか……そういった意思の力だな。」
俺がそう言うと、カナンが俺の背で寝そべりながら、俺に問いかけた。
「コドクは、どんなの?」
「俺?俺は、カナンとユーナを守りたいって思ったら、青い魔石が勝手に、予備に取っておいてあった魔石を吸収して、核にできる状態の魔石に変化したが。」
そう言いながら、思い出した。
そうだ!あの青い魔石、結構の数の魔石を持っていきやがったんだ!
まったく、あれだけの質と数を揃えるのに、何年もかかったというのに。しかも、それでできた神の身体は、今の精霊でできる事とさして変わらないという始末。
ただ、身体の内部に仕組める機能は、今の身体よりも数倍多いから、少しずつ調整していけば凄い身体になるかもしれない。
パソコンで例えるならば、スペックはあんまり変わらないけど、容量が倍になり、アプリが沢山インストールできるようになった、という所だろうか。
そんな事を思っていたら、背中から、もぞもぞとした感触が伝わってきた。
疑問に思って、背中を見てみると。
「えへへ……」
頬を赤く染め、俺の背という限られた範囲で、ゴロゴロするカナンがいた。
………? なんで、そんなに嬉しそうなんだろうか。
首を傾げながら、ふと、視線を感じ、ユーナの方を見ると、そこには、カナンと同じく頬を赤く染め、俺を睨み付けるユーナが。
「……ふんっ!このロリコン!」
「いや、だから何故……あ。」
そっぽを向いたユーナの仕草で、何故カナンが照れていたのかが分かった。
守りたいだなんて真っ正面から言われたら、多分照れるだろう。告白か、っていう話である。まぁ、俺は一度も言われた事が無いから、よく分からないが。
だが、その事に関しては、俺は反省も後悔もしていない。
あの、守りたいという決意は本物だし、何より、俺には隠す理由も無ければ、そのつもりもないのだ。
そんな風に、俺が開き直っていると、覚えのある気配が近寄ってくるのが分かった。
またか、と思って、その気配の方へ向くと。
「いた!まっくろしゃん!」
俺の羽根をしっかりと持った幼子が、また俺の方へと走り寄っていた。その幼子の後ろには、幼子を慌てて追いかける母親らしき人が見える。
とりあえず、俺の翼にダイビングしてきた幼子に、俺は話しかける事にした。
「またお前か。帰れと言った筈なんだがな?」
「ふわふわ~!」
「聞いてないな、お前……。」
俺が幼子にそう言っていると、ユーナが呆れたように俺を見ながら言った。
「当たり前でしょう。足元もおぼつかないような、こんな幼い子供に、何を言った所で聞きやしないわよ。」
「そうなのか?」
「あなた、本当に、そういう事は何も知らないのね……。」
憐れむような目で、俺を見るユーナ。
それは仕方がないだろう。こんな小さい子供と触れ合ったのは、この子が初めてなのだから。
と、そんな事はいいとして。いつまで経ってもあの母親らしき人間が来ないなあ、と思っていたら、俺を見つめたまま固まっていたので、俺から話しかける事にした。
「おい、そこのお前。」
「ひ、ひぃ!お、お許しください、精霊様!私はどうなってもいいです、だからポナムだけは……!」
話しかけたら、いきなり土下座した挙句、自分の子の命乞いって。自分の命より、子供の命を優先するその在り方は、母親として大したものだと思うが、いきなり悪役扱いはやめてほしい。
というか、凄い既視感あるんだけど、これ。
とりあえず、怒ってないと言っても、結局恐れられるだけなのは明白なので、こうしてみた。
「そうだね。なら、代わりに情報を貰おうか。」
「え?情報、ですか?」
「そう。さっきから、ちょこちょこ聞こえてくるんだけどさ。ギルドとか、魔界探索者とか、いったい何?」
多分、もっと恐ろしい事を聞かれると思っていたのだろう。俺の問いに、唖然とした様子で口を開き、瞬きする女性。
……そんなに驚かなくてもいいのではなかろうか。避けられたり、罵声を浴びせられたりする事には慣れているが、こんなに恐れられるのは慣れていないのだ。正直に言うと、ちょっと落ち込むものがある。どよーん。
ユーナは、俺が落ち込んでいるのが分かるのか、「ぷくく……」と笑っているし。
やっぱり、この黒い身体が駄目なのか。結構気に入っているんだけどね、この身体。
俺は、また固まってしまった女性を見て、密かに溜息を吐いた。




