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ジョブ:ゴブリン王

あぁ。


大きく口を開けて、あくびをする。

昨日は唸っているうちに眠ってしまったらしい。


窓を開け放つと、上半分には昨日と同じ抜けるような青空が、下半分には有象無象のモンスター達が行き交う街並が広がっている。


うん。夢じゃないね。


目を開けた瞬間から、部屋の中の景色で確認するまでも無く分かっていた事だ。

これからどうしよう。


そう思ったものの、何も考えは浮かんでこなかった。

ベッドの上であぐらをかいて、ぼんやりとする。


ぐー。


お腹が鳴った。


そういえば昨日は何も食べていない。


ぐーぐー。


何かよこせ、と文句を言われているようだ。

仕方ない、ベッドから立ち上がると、のそのそと鎧を着込む事にした。


ギルドに行ったり、宿を探したりと、昨日夕方から街で行動した感じでは、モンスターとは言っても過激な性格の者は街の中にはいないようだった。


そうは思っていても周りはモンスターだらけには違いない。

不意のトラブルが起こらないとも限らない。


さんざん、誇りならぬ、埃、それも血なまぐさい埃にまみれた鎧で食卓に着くのにはかなりの抵抗感があったが仕方ない。

そう思いつつ、一軒の食堂に入った。


食堂の中はにぎわっている。


勿論、人間の姿は無い。


様子をうかがっていると、カウンターで注文して受け取り、それを席で食べるシステムのようだ。

メニューは壁に張り出されている。


そこに書かれているのは日本語だ。

さっと店内の様子を確認する。


オークが朝からラーメンを食べていた。

豚骨じゃないですよね?

興味深く観察する。

いや、あの色はしょう油だろう。


別の席ではグールが何かしらのステーキを食べていた。

人肉じゃないですよね?

興味深く観察する。

いや、人間からあれだけの分厚い肉の塊を取ろうと思ったら、相当なおデブさんになるはずだ。

昨日のオークならと考える。

いやいや、そんなはずはないだろう。

ないですよね?

直接聞く勇気はない。


他の席の様子を見るも、普通の食堂のメニューを普通に食べているようだった。

ひとまずは安心してカウンターに向かう。


「いらっしゃい。なんにするの?」


オークのおばちゃんだった。

間違ってもお姉さんでは無さそうだ。

あ、注文まだ決めてなかった。

そう素直に言って怒られたくは無い。


「今日のおすすめは?」


おばちゃんのチョイスに掛けてみる。


「そうだねぇ。お前さんを煮込んでスープにしたら美味そうだねぇ!」


そう言って、にたりと笑うおばちゃん。


やっぱりモンスターか!


思わずホルダに手を伸ばしかける。

と、おばちゃんは、ぱっと表情を変えて人のいいおばちゃんスマイルを浮かべた。


「やあねぇお兄さん、怖い顔しちゃって。冗談はお嫌い?今日は白身魚のフライのサンドイッチがおすすめだよ」


どうやらモンスターズジョーク、あるいはオークズジョークだったらしい。

全っ然、面白く無い。

抗議の意味も含めて、全く面白く無いと言わんばかりの素面で、じゃあそれで、と注文した。


こちらの世界でも水はサービスでついてくるようだ。

飲み物の注文を忘れたな、と思ったけど、サンドイッチと一緒に渡された。


値段は3ゴールドだった。


ホルダの中には渡された報酬金以外にも硬貨がどっさり入った革袋が入っている事は宿で確認済みだ。

食い逃げする必要は無い。


あらかじめ財布的革袋に入れないでおいた分が懐に入れておいてあったので、そこから代金を払う。

多分、安いのだろう。

食べる前に、一度、パンに何か変な物が挟まってないか確認してから口に入れた。


あれ?うまくね?


レタス、スライスオニオンのシャキシャキ感、そしてフライの油のしつこく無さ、レモンのさっぱり感、そして何よりも主張しすぎる事無くしっかりと存在感をアピールするサワークリームソース、それら全てが肉厚な白身魚の味を最大限に引き出している。


おばちゃんがこっちを見ていないのを確認してから、おばちゃんに向かって小さくGJサインを送る。


夢中になって食べると、あっという間に無くなってしまった。

全然、足りん。

もう1個注文する事にした。






食べ終わっても席を立つ事無く、入り口から見える通りの様子を眺めていると、いくつか分かった事があった。


ひとつ。基本的に街の中で暮らしているのは人型のモンスターだけだ。

たまに獣型のモンスターも通るものの、その数は圧倒的に少ない。


街というのは、そもそも人が暮らすために作られるものだ。

それはつまり人型のモンスターでなければ暮らしやすいとは限らないのだろう。


ひとつ。レベルが低いモンスターほど、人口が多い。

オークやグール、リザードマン、コボルト、オーガ、エトセトラ、エトセトラ。

圧倒的に多いのはそれらレベル20にも満たないような種族だった。


一度、リッチが通りかかった時は、街の住人達が明らかに距離を置いていた。

例えるならヤクザの大親分という所だろうか。

そしてリッチが通ったのはその一度だけだった。


その時に、試しにとなりに座っていたオーガにリッチについて聞いてみた。


オーガは最初席に着いた時は、鎧を着込んで朝食を食べにきていた俺の事を、邪魔だ、さっさと失せろ、と言わんばかりだった(実際に、ちっと舌打ちされた)が、通りのリッチを指差して、「なあ、あれって」と聞くと、「馬鹿!何やってんだよ!」と焦りまくった表情を浮かべて手を下ろされた。


そして田舎から来たおのぼりさんだとでも思ったのか、「いいか、あれはリッチって言ってめちゃくちゃヤベー奴なんだ。指なんかさしてっと殺されっぞ!」と、教えられた。


最初の不機嫌さが抜けた乱暴な口調はヤンキーのあんちゃんって感じだ。


ちょうど食べ終わった所だったのか、席を立つオーガに、「ついでに教えてよ。リッチっていっぱいいるの?」と聞くと、「あんなヤベー奴がいっぱいいてたまるかよ」と、吐き捨てるように言って去っていった。


レベル60とか70のモンスターが群れをなして行動していたら、どうしようか?

なんて考えたりもしたものの、どうやらそれは有り得ないらしい。


ちなみにオーガのあんちゃんはグールと一緒で朝からステーキだった。






店から出て、中央広場から人の流れを眺める。


聞こえてくる喧噪はやっぱり日本語だ。

なんでモンスターが日本語?と不思議に思ったものの、自分なりの解釈を見つけた。


オール・オーディナリーズ・サーガは日本国内だけで運営されていたゲームだ。

つまり全ての設定、ストーリーは日本語で組み立てられていたものだ。

日本語で作られた世界、それが現実化した時に、世界の共通言語として日本語が選ばれたのではないだろうか。

勝手な想像と言われればそれまでだったけど、それが自分で納得できる最良の答えだった。






いつまでも遊んでいる訳には行かない。

アルフレッドが待っているかもしれない。

あのゴブリンの集落に向かう前に、ギルドにもう一度寄ってから行く事にした。


「お、昨日の変わったお兄さんじゃん」


ギルドの窓口担当は昨日のリザードマンだった。


「今日は何か新しい依頼でもやってく?」


まるで新しく入荷したゲームでもやっていくか?と言うような、ゲーセンのバイト君のごとき親しげな軽い科白。


あぁ、俺はこういうやり取りをゲームだった頃にやりたかった。

思わず、虚空を見上げてしまう。


「えぇっと、俺の登録情報ってどうなっているんです?」

「登録情報?何、自分のプロフィール見たいっての?」


別に変わった質問では無かったらしい。

カウンター裏からファイルを取り出してくると、名前なんだったっけ?

と改めて聞きつつも、調べてくれる。


「はいはいっと、ノル・ブリンカさんね。おぉ、何気にレベル高かったんだな、あんた」


そう言いつつ1枚の紙(紙だ。羊皮紙などではない)を手渡された。

それを見て、思わずうーんと唸ってしまった。






名前:ノル・ブリンカ


種族:ゴブリン王


ジョブ:ゴブリン王


レベル:58


出身地:カストール


達成クエスト:チュートリアル(10pt)  ゴブリン討伐(40pt)






なんだ、その種族:ゴブリン王、ジョブ:ゴブリン王ってのは。

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