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はじめてのクエスト達成

戦いは終わった。

アルフレッドが何人かのゴブリンを集め、話を聞いている。


この集落のゴブリン達の基本概念は、物は奪え、だった。


例えば使っている剣の切れ味が落ちたり、折れたりしたらどうするか?

それを研いだり修復したりという事はしない。


新しい剣を奪えば良いと判断していた。

鎧や盾といった防具などは言うまでもなく、狩りで獲物が少なければ食料までも奪う。


アルフレッドに聞くと、彼のいた国にはきちんと鍛冶職のゴブリンもいたらしいので、この集落のゴブリンは本当に蛮族だったという訳だ。


アルフレッドと俺が暴れ回った結果、集落には15人の死者が出た。

恨まれるかな、と被害をまとめた内容をアルフレッドから聞いて思った。


そう。殺したのだ。


しかし、今、冷静になれる状況になっても、特に何の感慨も湧いてこない。


そうか、殺したのか。

ただ、その事実だけを受け止めた。


余計な反抗を防ぐために、集落内の武器、防具をまとめて一軒の家に集め、その家に集落の住人が近づく事を禁じた。


そして、全ての集落の住人を集めると、アルフレッドは今後の集落のあり方を語り始めた。


それは奪うのではなく、生み出す事の素晴らしさ。


切々と語り続ける。

何人かの集落の住人の顔に、少しずつ変化が生じていたように見えたのは俺の気のせいだったろうか。


そして、王がどうのこうの、と俺についても何やら言っていたけど、おいおいと思いつつ、黙って聞いた。






戦闘を終え、集落のゴブリン達の目に浮かんでいた多くは、恨みよりは恐怖のようだった。


その事にはアルフレッドも気が付いていたようだ。

恐怖政治。

耳にした事はあるものの、実際に間近で体験した事は無い。


それはどうなの?と聞いてみると、いきなり誇りをと言われて誇りは生まれる物ではありません、と返ってきた。


彼らにとっては今まで暴力こそが正義と信じてきたのだ。

ならば、それ以上の暴力を示した自分達こそが、今は正義なのは間違いないのだろう。






集落の事はとりあえずアルフレッドに任せてカストールの街に戻ってきた。


アルフレッドの後ろで偉そうにしているだけで集落では特にやるべき事も無く、ぼんやりしていると、アルフレッドにギルドに行くよう頼まれたのだ。


どうせあのままいても、集落に俺が泊まる事は出来ないのだ。

集落はゴブリンサイズで家が出来ていたので、当然の事ながら俺が横になれるベッドは無かった。


正直、アルフレッド抜きでこのモンスターだらけの街を歩いても大丈夫なのかしら?

と、心配もしたけど杞憂だったらしい。


ギルドに入ると、ゴブリン討伐を終えた事を伝えた。

ギルドの係員は「早いな!」と驚いていた。

レベルは低くとも、とにかく多勢で襲ってくるゴブリンに手を焼いていたらしい。


手に持ってきていた麻袋を渡す。

アルフレッドから頼まれたこれの中身は殺したゴブリン達の右足首らしい。

確認はしていない。


ポタポタと何かが垂れているのを気にしたら負けだ。


集落は残っているものの、もう街の周辺で襲われる事はないという事も伝える。


係員は麻袋の中身の確認に忙しく、「ああ、そうなの」と興味もなさそうだ。


もしかしたら、あの集落に意趣返しに行くモンスターがいるかもしれないと考えて、自分の所持金から賠償金でも払わないといけないかなぁ、とか考えていただけに、何だか拍子抜けである。


不思議な事に、ノル・ブリンカの名前はギルドに残っていた。


ついぞギルドでクエストを受ける、という事には縁がなかったのになぁ。

と、思った所で思い出した。


そういえばゲーム開始時のチュートリアルで登録だけはしたっけね。

全く縁が無かったので忘れていた。


係員がリザードマンだったという事を除けば、現実のお店で受けるような普通の対応だった。

ずっしりとした革袋を受け取る。

報酬金だ。


集落にあったオークが言っていた物であろう、バトルアクスをリザードマンに預ける。

あのオークにはギルドでアルフレッドの渡した物と引き換えで、バトルアクスを受け取れるようにしておくと言っておいた。


オークが来ない可能性もあったが、その場合はバトルアクスはこちらの物だ。

あのオークは来ないだろうな。

何となく、そう思った。






その日はもう陽が落ちて、街の門が閉められた。

これで街の外には出られない。


ゲームの頃には何時でも自由に街の出入りが出来たのに、こちらでは違うらしい。


宿を取って横になる。


アルフレッドをあの集落に置いてきてしまったけど、彼は大丈夫だろうか?

いや、アルフレッドの心配をしている場合ではない。


俺はこれからどうなるんだろうか?


不安と、集落で自分が振るったあの圧倒的な暴力の行使で得た興奮とがごちゃごちゃになる。


あーーーー。

あーーー。

あーー。

あぁ。

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