金曜日の夜と、へんな声
はじめまして。
この作品を読んでいただきありがとうございます。
ゆっくりですが更新していきますので、よろしくお願いします。
――金曜日の夜。
テレビのバラエティ番組の笑い声が、リビングに広がっている。キッチンからは、食器が触れ合う軽い音と、夕飯の残り香が漂っていた。
「ねえ、みんな」
その中に、母の声が混ざる。
「明日、おじいちゃんとおばあちゃんの家に行くからね」
「え?」
陽斗はソファに寝転がったまま、スマホから顔を上げた。画面の光が、少しだけ目に残る。
「久しぶりでしょ。田んぼも、そろそろ収穫なのよ」
「しゅうかく?」と、美月が首をかしげる。
「おこめ、とるの?」
「そう。お米もだし、さつまいもも掘るのよ」
「いも!やる!」
ぱっと顔が明るくなる。その声に、母は小さく笑った。
「あとね、ちょうどお祭りもあるの」
「まつり!?」美月が勢いよく立ち上がり、椅子が少しだけ音を立てる。
「いく!みつき、いく!」
「もちろん」
母は、少し懐かしむように目を細めた。
「夜になるとね、大きな山車が動くの。灯りがついて、すごくきれいよ」
「へぇ……」
それまで興味なさそうにしていた結衣が、ほんの少しだけ顔を上げる。
「太鼓の音がね、けっこう遠くまで聞こえるのよ」
「……うるさそう」
小さくつぶやく。
「そういうお祭りなの」
母は楽しそうに肩をすくめた。
「田んぼってさ、虫やばくね?」
陽斗が眉をひそめる。
「いるわねぇ」
母はあっさり言う。
「無理だわ俺」
「大丈夫よ、慣れるから」
「慣れねえよ」
ソファに体を沈め、天井を見上げる。
その横で、美月だけが楽しそうに笑っていた。
「おまつり!おいも!おこめ!」
母は手を止めて、三人を見渡す。
「はいはい、楽しみなのはいいけど――明日は朝早いんだから、ちゃんと早く寝なさいよ」
「えー……」陽斗が顔をしかめる。
「何時?」
「6時には出るからね」
「はやっ」
「だから今日は夜更かしなし」
「マジかよ……」
ぶつぶつ言いながらも、ようやく体を起こす。
「じゃあ先にお風呂入る」
結衣が静かに立ち上がる。
「みつきも!」
美月が後を追う。
足音が廊下に消えていくと、リビングは少しだけ静かになった。
――その夜。
部屋の明かりを消すと、世界が一気に落ち着く。窓の外は暗く、遠くで車の音がかすかに流れていた。
布団に入っても、なぜかすぐに眠れなかった。
静かすぎる気がする。
いつもより、音が遠い。
天井を見つめながら、陽斗はぼんやり思う。
(久しぶり、か……)
――山車。灯り。太鼓の音。
さっき聞いた言葉が、頭の中でゆっくりと浮かんでは消える。
そのとき。
かすかに――
「……あそぼ」
小さな声が、した気がした。
「……?」
体を起こし、耳をすます。
部屋の中は静まり返っている。時計の針の音だけが、やけに大きく聞こえた。
「……気のせいか」
小さくつぶやいて、もう一度横になる。
やがて、意識が沈んでいく。
――夢を見た。
暗い場所。
水の音が、近くで揺れている。
ひとり、立っている影。
小さな背中。
ゆっくりと振り返る。
顔はよく見えない。
ただ――寂しそうに、笑っていた。
「……あした、くる?」
その声だけが、はっきりと残る。
そこで目が覚めた。
カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。
「……なんだよ、今の」
胸の奥に、妙なざわつきが残っていた。
理由はわからない。
でも――あの声が、頭から離れなかった。
読んでいただきありがとうございます!
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次回は田舎へ向かいます。




