勇者ですが何か?(33)2人の旅立ちですが? -2-
ーー翌日
アリアーハンの北門前に、魔法のバッグを背負ったタロウと、荷物がパンパンに詰まったバッグを背負うアイリーンが立っていた。
「……」
「楽しみね! 昨日の夜、怪我した体に悪いことは承知で少しだけ剣の素振りをやったんだけど、やっぱり痛かったわ!」
タロウにガッツポーズを見せながら盛大に笑うアイリーン。その目はやる気とこれからの旅への期待で輝いていた。
「……」
「どうしたのよ〜! 緊張してるわけ?」
笑いながらタロウの肩をベシッという音を立て叩くアイリーン。そんな2人のやりとりを見送りに来ていたログウェルも盛大に笑う。
「はっはっは、元気だな! 昨日の後だというのに、そこは俺の娘ながらすごい!」
「……」
元気の良い父娘を横に、タロウは1人死んだような目をして長いため息を吐いた。
「もう、どうしたのよタロウ? まだ身体が痛いのは分かるけど、私がこれだけ元気なんだから、あんたも大丈夫なはずでしょ」
「傷の具合が悪いとかじゃねぇよ……」
「え? なら何が問題なのよ、私は出発の準備できてるわよ?」
肩に背負ったバッグをよいしょと背負い直し、タロウの顔を覗くアイリーン。
「それだよ! 何で付いてくる話になってんの!?」
「え?」
「え?」
「え? 何、俺が間違ってる感じ?」
「言ってなかったっけ? 私も同行するって」
アイリーンのさも有り気な言葉にタロウは全力で首を振った。
「いやいやいやいや! えっ? 何なのそれ!? 俺、何も聞いてないんですが!」
タロウの全力の拒否にアイリーンも怒鳴り返す。
「昨日言ったじゃない! 何で聞いてないわけ! あんた耳の穴大丈夫!?」
アイリーンの言葉に、タロウも頭を抱えて昨日の記憶を呼び覚ます。皆と分かれて2人で歩いた夜道、アイリーンが話している姿がぼんやりと浮かぶ。
「良い? 言うタイミングが無かったからあれなんだけど、昨日あんたを助けに行ったのはそもそもあんたに会いに行ってたの。父さんのような騎士になるには今の私だと全然ダメ……、悔しいけど実際認めるしかない、だから勇者の旅に同行して実力よりも先に名前だけでも世界に馳させようって魂胆だったわけ! あんたと一緒に行けば様々な英雄に出会って、稽古を「付けてくれるかもだし、魔人たちと戦っていれば実力も付いていく。万々歳なわけ。だから......私も一緒に行く! 今日、ギズベルと戦って、やっぱり今の私では何も守れないと分かった。でもあんたとならきっと、強くなれる……そう思う!」
タロウの顔を少し恥ずかしそうにしながら見つめ、アイリーンは尋ねる。
「だから、私も明日の旅について行くわ、良い?」
「……あー、分かった」
タロウは頭を抱え、返事をしていた自分を思い出す。
「言ってたな……、うん、ギズベルの事とか、色々考えてて上の空だった」
「はぁ? 何それ? とにかく、一緒に行くって言ったのに対して、分かったって言ったのは絶対なんだから、私も行くわよ」
「俺からも頼むよ、愛する娘を危険な目に遭わせたくないと言うのが正直なところではあるが……一度言い出したら俺には止められなくてね。全く、父親とは大変なもんだ」
ログウェルのどうしようもないと言った笑顔を見せる。もうこれは諦めるしかない、何せ、ゲンシュー王国騎士団で副団長を務める男が諦めたのだ。勇者の旅2日目のタロウでは話にならない。
「……ハァ〜〜しゃ〜ねぇなぁ……、分かったよ! 付いて来い」
アイリーンの喜びように疲れつつタロウは宿で充電していたテルフォンで地図を開く。本当なら船で最短で行ける予定だった為、陸路がどのようにしてゲンシュー王国に向かって行くのかを把握していなかった。
「うーん、ゲンシュー王国への行き方、何個かルートがあるんだな……」
タロウがルートの行き方を検索しているとログウェルが開かれた地図の場所を指してきた。
「俺としては"カスガ"を通るルートで行ってもらいたい、あそこはとてつもなく広い土地だし、雰囲気や文化も大陸の中でもかなり独特な所ではあるが、行くべきだ」
ログウェルが指した場所は森に囲まれている部分だったが、その森を越えるとかなり大きな街や村々が点々とあるみたいだった。
アイリーンもルートは特に気にしていないようだった為、タロウも頷く。
「分かった、カスガに行ってみるよ」
「あぁ、そうすると良い。それにカスガは多くの武人と言われる戦士を排出してきた場所だ、機会があるなら剣の稽古でもしてもらうと良いと思う。2人に足りない覚悟や技を学べるかもしれない」
「覚悟……」
「まぁ、とにもかくにも、応援している。きっとすぐ会うことになるだろうけど、それまでに2人が成長してくれることを願ってるよ」
ログウェルに見送られながら、2人はカスガへ向かって歩き出す。先はとてつもなく長い。街を出て平野を進み、深い森を進めばその道中でカスガの土地へと変わっていくのだ。さらに進み森を抜けて行くとカスガの都、"リョクエン"に到達することになる。
「……ところで聞きたいんだけど」
ふとアイリーンが話し始めた。
「何?」
「あんたの魔法のバッグ、良いわよね」
「……なんの話し?」
「いや、だから……荷物、重いなぁって」
「絶対に俺のバッグには入れさせねぇ」
「は? あんたそれでも勇者? ていうか男?」
「うるせぇ! こちとら、身体中が痛いし、うるさい女がいるしでキツイんだよ!」
「あんたねぇ、私だって痛いしどうしようもない貧弱勇者のお供するんだから、大変なのよ」
タロウとアイリーンは早々口げんかをしながら道を進む。
ーー未熟な勇者と見習い女騎士が辿る旅は、まだ始まりも始まり。日は昇ったばかりである。




