勇者ですが何か?(32)海路ではなく陸路ですか?
5月5日で投稿から1年経ちました!これからも自分のペースで作品を書いて行こうと思います。
「こちら、アリアーハンの街です! 現在は街に徐々に落ち着きが返ってきており、職人たちが壊れた家屋の修理に慌ただしく動かれております!」
メガネを掛けたリポーターが、早速修理が開始された家屋の前に立ち、街の状況を説明している。
「よかったわ〜〜、これでお母さん一安心よ♪」
チヨコはソファーの上で煎餅をバリバリと食べながら、テレビのニュースに向かってホッとした声をあげていた。その横にはモミジも座っていて、テルフォンでアリアーハンの情報を調べていた。
「ゲンシュー王国第六騎士団の副団長が来たらしいよ……、多分お兄ちゃんと言うよりかは、この人のお陰で終わったんじゃない?」
モミジの言葉にチヨコは首を横に振る。
「違うわよ〜、タロウが活躍したに決まってるわよ……、あ、ほらっ! ニュースでもタロウのこと言ってるわ」
「前日に旅立った勇者タロウが、アリアーハンでこの被害に見舞われたのは運命だったのでしょうか!?」
ニュースはアリアーハンからスタジオに切り替わっていた。
「勇者が旅立ち、次の日にこんな大きな事件が起こる……、やはり勇者と言う存在はこの世界にとって何らかの影響を与えているのかもしれないですね」
「俺はそうは思わねぇけどなぁ〜、たまたまでしょ、たまたまw。まぁ、可能性とすれば、あのおっかないババァがぁ? あいつが事件起こさせるように仕向けたんじゃね? 息子の晴れ舞台のために!」
チヨコの煎餅を砕く音が明らかに強くなる。
「このクソ坊主はお灸が足りないみたいねぇ……」
モミジはやれやれと言った顔で、スタジオ内で笑ってる坊主の男を見て、再びテルフォンに目を落とすのだった。
ー勇者ですが何か?ー(32)
雨も止み、太陽の光が差し込めるアリアーハンの街。その街役場の前でタロウ、アイリーン、レベッカの3人はログウェルが出てくるのを待っていた。
「……はぁ」
タロウのため息にアイリーンも疲れた顔で小さく笑う。2人とも顔や身体に包帯やガーゼを付けていて、先程までの激しい攻防をすぐに連想できる姿だった。
「コテンパンだったわね」
「……っせぇよ、お前だってボロボロで泣き喚いてたろ」
「なっ!? 誰が泣き喚いてるですって! 泣き喚いてはいないわっ! あれは……雨よ!」
タロウの言葉に顔を真っ赤にして怒鳴り返すアイリーン。その姿を見て今度は安堵のため息を漏らすタロウ。
「どうやら、見た目よりかは大丈夫そうだな」
「ふんっ、当然でしょ! 私は何と言ってもゲンシュー王国第六騎士団副団長の娘なのよ、こんな傷!......っつ……!」
胸を張るように構えた後、お腹を抑えるアイリーン。それを見てタロウはおいおいと心配の声をかける。
「友達は大丈夫だったのか? 治療終わってから行って来たんだろ?」
タロウの言葉に目を伏せるアイリーン。少しためらったような沈黙の後、静かに口を開く。
「アーシャは何とか一命を取り留めたって言われたわ、ただ意識は戻ってないし、危険な状態なのは変わらないわ」
アイリーンは拳を強く握りしめる。
「でも大丈夫よきっと! アーシャは私なんかよりずっと強いから」
「……だな、お前より強いってのは賛成だ」
「殴るわよ!」
「……私の心配はなくて?」
ふと2人に声がかかる。
「レベッカ!」
2人に歩み寄って来たのはレベッカだった。レベッカもアイリーンやタロウと同じように身体中に包帯を巻いている。
「元気そうで何より、金髪娘」
「金髪娘は流石に品がないのでは? 勇者さん」
レベッカの言葉に2人も笑い合う。
「おーい、待たせたな」
役場の玄関からログウェルが出て来た。
「父さん!」
ログウェルの方に歩み寄るアイリーン、一方レベッカは、緊張した顔で姿勢を正す。騎士を目指すもの達にとってゲンシュー王国騎士団とは、まさに手の届かない雲の上のような存在なのである。
「今回の騒動、収めていただき誠に感謝しています! わ、私はレベッカ・フランチェルズ、アイリーンと同じく"セノビカ"にて修練を励んでいる、女騎士見習いです」
「フランチェルズの家系の子か、話は聞いてるよ、中々に優秀な騎士見習いだってね」
レベッカに優しく微笑むログウェル。ログウェルの言葉にあたふたとなりつつ頭を下げるレベッカ。
「そして、タロウ……身体は大丈夫そうかい?」
「まぁ何とか大丈夫ですよ」
軽く笑い返すタロウにログウェルもにこやかな笑顔を見せる。
「それはよかった、タロウ、君には本当に申し訳ないんだが明日にはアリアーハンを出発してもらわないといけないんだ。今日の明日で大変なのは重々承知でね」
「え……、それはなぜです?」
ログウェルの言葉にタロウは少しだけ苦々しい顔で聞き返す。先程までアリアーハンはギズベル盗賊団に襲われ、タロウもまた重傷を負っているにも関わらず、少しも休ませてもらえないとは何事なのかと。
確かに、本当なら今日にでも船でゲンシュー王国に向かって、最短で夜には着けることもできるのではあるが、流石にこんな大騒動が起きてすぐに動き出すのは中々しんどいものがあるとタロウは思った。
(勇者として旅出てまだ1日しか経ってないんだぜ……?)
そんなタロウの気持ちを知っているのか、はたまた知らないのか、ログウェルは少しだけ気まずそうな顔を見せた後、頭を掻きながら一同が唖然とすることを口にするのだった。
「あー、それはだな……、俺が港を、あっ、いや……船をぶっ壊しちゃったからさ。だからゲンシュー王国までは陸路しか使えなくて、そうなると結構な日にちが掛かっちゃうから! ......的な?」
一瞬このおっさんは何を言ってるのかというような顔を見せた後、タロウの頭の中でログウェルの発した言葉の意味を理解するのに少し時間が掛かった。
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
タロウの言葉にログウェルは何度も頷く。
「うんうん、そういう反応になるよな、気持ちは分かる! 本当に分かる!」
「いや、何言ってんだあんた!おい!」
タロウのツッコミにログウェルは「ごめんごめん」と軽く頭を下げる。ログウェルに対してキレるタロウを見てレベッカはハラハラとした顔を垣間見せる。
「ちょ、勇者さん? ログウェル様にその言い方はあまりよろしくないんじゃないかなー、なんて……」
「よろしくもクソもあるかってんだ! なぜに!? なぜに港ぶっ壊したん!?」
「いや、港じゃなくて船ね、まぁ港も壊れてるかって聞かれると壊れてるんだけど」
ログウェルの軽く言う問題発言にタロウは地面に膝と手を起き崩れる。
「だめだ、頭がまとまんねぇ!え? なぜに壊せんの? あれか、ゲンシュー王国騎士団の奴らってきっと母ちゃん並みに強いんだ、きっとそうに違いねぇ」
「ヘックシュ! ダッハー!」
突然大きな声をだすチヨコにモミジは肩をビクッとさせる。
「びっくりした〜、お母さん、くしゃみの音が相変わらずすごいよ……、何でくしゃみした後に気合い入れるかのような声をかけるわけ?」
「はぁ〜、癖なのよ〜、……それよりも何か怒らないといけない気がするわ」
チヨコは家の壁に飾られているタロウの写真を手に取る。
「あの子……ちゃんと私のことお母さんと言ってるかしら……、母ちゃんなんて下品な呼び方してないでしょうねぇ」
チヨコの心配事を聞き、モミジはため息を吐くのであった。
「……少しは落ち着いたかな?」
カフェに入ったタロウ達、コーヒーを一口飲んだログウェルがタロウに尋ねる。
「まぁ、規格外の人だってのはさっきの戦いで分かったし、文句言ってもどうしようもないんだろ」
まだ不貞腐れているタロウではあったが、ログウェルの実力を思い出し、仕方ないとため息をつく。
(最後の一撃なんて意味不明なレベルだったしな……)
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「重撃剣術……『構えの計』ー鈍重ー!」
そう言ってギズベルに向かって振られる模造剣。その剣がギズベルに当たった時、風が、音が、遅れて周りにいたタロウ達へと飛んできた。
その勢いに足を取られるのではないかと錯覚するほどの風圧に、歯をくいしばるタロウ。
気づけばログウェルの前にはギズベルはいなかった。正確に言うと、真正面、訓練場広場の奥で体を大の字にして倒れ、意識を失っていた。
さらに、ログウェルが振った模造剣も柄を残して跡形も無くなっていた。
「……フゥー、加減したんだがな、模造剣じゃ保たなかったか」
「バケモンかよ……」
タロウは1人呟いた。
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「そういえば父さん、役場ではどんな話があってたの?ギズベルの処遇は?」
アイリーンの問いにログウェルは「あぁ」と語り始める。
「今回の事件についてジン・カーン国王へと報告した、勇者の旅が始まった翌日に起きた事件だ、現状、魔人等は関わっていないだろうが、それでも少しばかりは警戒態勢を強くしておかないといけない。そのためにゲンシュー王国第六騎士団が街の復興作業兼、街の警護活動に当たる」
「ゲンシュー王国騎士団が動くなんて……」
レベッカはゴクリと喉を鳴らした。
「そんなに重く考えなくていいよ、いや、死亡者が出てる時点で軽いとか重いとかではないんだが……、今回は俺がたまたまアリアーハンに帰省していたから、俺たち第六騎士団に任されたということもある。それにラクダヨ王国からも援助が来るしな、結構早い段階で街自体の復興はできると思うよ」
ログウェルはそう言ったあと、コーヒーを一口だけ飲み、静かに話を続ける。
「……ギズベルに関しては、どうにか刑を懲役、それが出来ないとしても禁錮刑でと相談したんだがな、街への被害の大きさを鑑みて、やはり極刑を望まれてる」
「あ、当たり前でしょ! あの男は街を壊して……人も殺したのよ! ……教官だって死んだ。あいつらには死刑が当然よ!」
アイリーンの怒りは当然であり、タロウもまたログウェルが何故ギズベルに対しそのような相談をしたのかが分からなかった。
「まぁ普通は極刑で当然だ。俺も分かってるんだ、ただな、俺は昔のあいつを知っている。あいつが何故盗賊団の頭になったのか、何故……アリアーハンの街を壊そうとしたのか」
ログウェルはタロウ、アイリーン、レベッカの目をまっすぐに見た後、深く息を吐いた。
「あれは16年前、まだアリアーハンで騎士団長を勤めていた頃の話だ……」
勇者ですが何か?講座
ー魔人および魔物ー
今でこそ、世界での人間の数は圧倒的ではあるが大昔前は、人間以外の人ならざる種族達が世界を生きていた。
様々な種族が生きていた中の1種族に"魔人"(魔族と言われることもある)がいた。
魔人の特徴としては、他種族の多くが長く生きられないほどの瘴気を放つ地域でも活動を行え、さらに同じ魔人族の中でも全く違う外見や力を備えているもの達が多く、優れた能力を持つ者達のほとんどが魔人の姿と人の姿に変わることができるということだった。
優れた能力を備えた種族ではあったが、気性の荒い者達が多かったことなどもあり、他の種族達からあまり好まれてはいなかった。
そんな魔人達が世界に(正確にはトキヨー大陸内が発端であり、他大陸に大きな影響が出る前に収まったのだが)侵略を開始したのも、今となっては予想できたものだったのかもしれない。
ここで"魔物"についても語っておこう。
魔人が表舞台からほとんど姿を消したことにより、より目立つようになった生き物であるが、現代において魔物が魔人と関連していると勘違いしている者が大勢ではないだろうか。
魔物には大きく分けて自然型と思念型がある。
自然型というのは、犬や猫などと同じように自然界で生まれた生き物で、他の動物よりも魔力を多く持っており、そのほとんどが自然界の法則に従い生きている。
思念型というのは、負の感情や、負の魔力など、主に人間のマイナスな思いなどが影響して突如生まれる存在であり、そのほとんどの行動が生まれた時の思念に影響されていると言われている。
そのため、人を魔物が襲ったという事件があっても、自然型か思念型かで事件の形は大きく変わっていく。
ーーー「魔の者達」からの抜粋ーーー




