勇者ですが何か?(21)嘘はいずれバレますが?
レンガで出来た家や、石で出来た建物。それらを横に並べるような形で、間に伸びる石畳の道を歩く二人の男。
一人はボロボロの姿の男で、その男に肩を貸し、病院へと向かうもう一人の男はアリアーハンの警備兵の鎧を纏っている。
「もう少しで病院だぞ」
警備兵は汚れた顔を見せる男の顔を見て目的地まであと少しだということを伝えた。
「……そうか、じゃあもう街の中もだいぶ奥に入ったってわけか?」
男の質問に頷く警備兵。
「病院は街の中心部に総合病院として作られたんだ。街の人たちがどこからでも行けるようにな。すぐ近くにはこの街を象徴する鐘塔があるから、傷の手当が終わってゆっくりできたら見てみるといい」
男は顔を上げ、家や他の建物の上から見える鐘を見て小さく笑った。
「そいつは良いなぁ……。迷わずに中心部まで行けるなんてな」
「ん?中心部に用があったのか?」
男は立ち止まり、さらに口を歪ませ笑い出した。
「どうした?何がおかしい?」
様子のおかしな男に警備兵は怪しみと恐怖の顔を見せる。
「まぁここまで連れてきてもらったんだ。そろそろ自力で行かせてもらうとしようか」
男の言葉が何を指すのかは分からなかったが少なくとも、何らかの悪意を感じ、警備兵は肩を離し、腰に下げた剣に手を置く。
「貴様、何者だ!」
その問いに男は歪んだ笑いを見せながら答えた。
「インバス。ギズベル盗賊団のインバスだよ……!」
インバスの言葉を聞き剣を抜こうとする警備兵。
だが剣を抜くよりも早く、インバスは警備兵の顔を左手で掴み、右手で剣を抜こうとしている警備兵の腕を掴む。
「ガァッ! くっ、何をするっ!?」
「悪いがあんたの役目はここまでだ」
「な、にぃ?」
インバスの顔を掴む力がだんだんと強くなっていく。警備兵の顔はゆっくりと歪んでいき、頬骨が音を立てて割れていく。
「あ、あぁ……! がっ、やめ……ぉ!」
「この街は、ギズベル盗賊団が頂戴させてもらう、あの世から見てな……愚かな警備兵さんよぉ!!」
鈍い音が路地に響く。警備兵の男はだらしなく涎を流しながら崩れ落ちる。握りつぶされた顔から血が吹き出し、元の顔がどのような顔だったのかは分からないほどの状態だった。
「ヒィ!!」
崩れ落ちる警備兵の様を見ていると、路地の向こうから女性の悲鳴が聞こえる。
振り向くと、バスケットにキャベツやトマトなどの野菜を詰めた女性が怯えた表情で、倒れた警備兵を見ていた。
女性は、インバスの顔を見たあと、急いで来た道へ戻ろうと踵を返して走り出そうとする。
「逃さねぇよ」
そう言って隠し持っていたナイフを取り出し、弧を描くように投げ、女性の後頭部へと見事に当てる。
女性は勢いよく前のめりで倒れる。ナイフは後頭部からしっかりと骨を超え刺さっており、女性は絶命していた。
「さぁて……頭のために、祝福の鐘を鳴らしに行くとするか!」
インバスは、女性の頭からナイフを抜き取ると、女性の着ていた服を切り、切りとった布で顔を拭きながら街の中心部へと何事もなかったかのように歩き出した。
ー勇者ですが何か?ー(21)
訓練所の広場では、第一チームとレベッカ率いる第四チームの試合が始まろうとしていた。
アイリーンは広場の端で、地面に腰を下ろして空を仰いでいた。
「あんた本当に今日どうしたの?」
声の方を見ると隣にアーシャが来ていた。アーシャは右手に持った水筒を口に付けて、ゴクゴクと飲んだあとにアイリーンに渡す。
「今日は……調子が良いのよ」
水筒の水を飲み、アーシャに返し立ち上がる。
「次の試合はレベッカ達とだろうし、私はちょっと剣を振ってくるわ」
そう言ってアイリーンは訓練所の学舎がある方へと一人、歩いて行った。
学舎の大きさは人が50人入れるかどうかと言う大きさの建物で、中には教室や、簡易訓練所、教官室などがある。
アイリーンたちとは別のクラスの少女達は今、学舎の中で基礎勉強や基本的な剣撃などを勉強している。
学舎の裏は木々が生えていて、小さな空間ができている。
その小さな木々で出来た部屋にアイリーンは着くとゆっくりと長い息を吐いた。
「どうした?」
イヤホン越しにタロウは聞いた。
「なんかね……罪悪感がね……あるなーって思ったのよ」
「罪悪感ねぇ……」
タロウはデパート屋上にある冷水器の水を飲み、街の景色を見ていた。相変わらず賑わっており、人々がデパートを行き来している。
「あんたのおかげで勝ててありがたいんだけど……、結局自分の力じゃないし、みんなを騙してるなって思ってね……」
「何言ってんだよ、元々馬鹿にされてたのを見返すためにこれをしてるんじゃねぇか。それにさっきの突きだって! あれはお前自身の一撃だったろ? あれには驚いたよ」
確かに卑怯な作戦ではあるが、タロウの言葉通りにしっかり動き、反応できる。そして何より自分で考えて一撃を当てた、これは紛れもなくアイリーンの実力あってのことだと、タロウはアイリーンに伝える。
「ふふ、ありがとう」
「おう! って……おい、戻れ!試合終わったぞ!」
タロウが訓練所広場に目を向けると、レベッカのチームが勝ったらしく、笛が鳴ると同時にレベッカのチームメンバーがレベッカに対して群れがっていた。
「あいつは本当に強いな……」
「レベッカ?当然よ、訓練所の中で勝てる子はいないわよ」
「なら、お前が初めて勝つことになるわけだ」
タロウの言葉に一瞬戸惑い、笑い出すアイリーン。
「何言ってんのよ、さすがに無理でしょ?」
「分かんねーよ? 案外勝てるかもだろ?」
広場へと向かいながらアイリーンはうーんと考えるような仕草をして、
「かも、ね」
そう言って、アーシャ達チームメンバーの方へと走って行った。
「遅いわよアイリーン!」
戻って早々、アーシャに怒鳴られアイリーンは謝り試合の様子をアーシャに尋ねる。
「ま、聞かなくても分かると思うけど……、レベッカの独壇場よね」
圧倒的な強さを見せ、怯む少女たちを華麗に打ち倒して行ったらしい。
端へと戻ってきた第一チームの少女たちも勝てるはずはないと諦めていたらしく、それぞれ「疲れた〜」と息を吐いて地面に転がっていた。
「次はアーシャのチームとレベッカのチームで試合だ!今日はアイリーンが調子良いみたいだから良い試合になると期待しているぞ!」
女教官の言葉を聞いてアイリーンは息を飲む。
「さすがにレベッカ相手にどこまでやれるか自信はないけど、今日は本当に”もしも”があるかもね」
アーシャはそう言ってチームメンバーの少女らを引き連れて歩き出す。
「あんたも準備してすぐ来てね、さすがに戦い方を考えないと勝てないから」
「うん、すぐ行く」
アーシャたちの方へと向かおうとすると前からレベッカが一人でアイリーンの方へと近づいてきていた。
「レベッカ……?」
「アイリーン……あなたに聞きたいことがあるの」
アーシャ達は振り返りはしたものの、「先に行ってる」と言い残し歩いていく。
レベッカのその目は真剣そのもので、アイリーンは何を聞きたいのか分からないため、たじろぎつつも「何?」と聞き返す。
「アイリーン。あなた……なんでさっきの試合で見えてなかった後ろからの攻撃を避けれたの?」
レベッカはアイリーンがさっきの試合でメイジーへと攻撃を繰り出してる時に、後ろからメイジーを助けに来た少女の一振りを見ずに避けたことを言っていた。
アイリーンはレベッカの言葉を聞いてギクリと肩を動かしてしまう。
「そ、それは……っ!」
「何か……隠してることがあるの? 例えば、そう……そのガーゼで覆った耳とか、本当に剣技の練習で怪我したの?」
「これは……まずいな!」
アイリーンとレベッカの会話を聞いてタロウもこの状況はまずいと、顔から嫌な汗が出てくる。
「アイリーン……なんとか誤魔化すんだ」
「そうよ、さっきも言ったけどこれは自分で怪我したの……それから避けたのは、あれは……」
「あれは……?」
レベッカの目が一層鋭さを増す。アイリーンはその鋭い目から視線を逸らせずにいた。
小さく唾を飲み込みアイリーンは口をゆっくりと開く。
「あれは……たまたまよ、たまたま! あのままじゃメイジーを切り崩せないと思って、横に動いたら後ろから攻撃されてたってだけよ」
「……なるほど」
レベッカの一言にアイリーンとタロウは安堵の息を吐く、がーー
「そんな偶然を信じられると本気で思ってるの? アイリーン・フィッシャー」
「っ!」
依然険しい表情でアイリーンを睨むレベッカであった。




