勇者ですが何か?(20)アイリーンの突きですが?
「これでトドメよ!」
少女の剣が、怯んでいるアイリーン目掛けて振られた。
ーーだが、その剣がアイリーンへと当たる直前、その剣は動きを止めた。正確には止められていた。一人の少女が割って入って来たのだ。
「ったく、さっきのは本当にマグレだったわけ?」
「……アーシャ?」
アイリーンに向けられた剣を防いだのは、後ろにいたアーシャだった。
アーシャは剣をはね退け、少女に素早く二発の攻撃を当てる。
「くっ!」
少女は堪らず後ろへと下がり、アーシャと睨み合う。周りで戦っていた少女達もアーシャの動きに気づく。
「アーシャ!大丈夫?」
「心配しなくて大丈夫よ、それよりさっさと勝ちなさい!」
アーシャの言葉に背中を押されるような形で、少女達は勢いを増し、剣を振る速度も増していく。
「前に出てくるなんて……。ふっ、アイリーンのために危険を犯すなんてあんたらしくないんじゃない?アーシャっ!」
地面を蹴り、少女はアーシャに向かって剣を振る。それを受け止めアーシャは笑う。
「私らしくないって? なら私らしさを見せてあげるわよ」
そう言って力いっぱいに少女の剣を弾き、少女がふっ飛ぶほどの勢いで剣を当てるアーシャ。
少女は飛ばされて地面に倒れ、剣の当たった横腹を抑える。
咳き込む少女の元にアーシャは近づいていき剣を向ける。
「どう私らしさは分かったかしら?」
「……負けよ」
少女は負けを認め、仰向けに倒れた。それを聞いたアーシャはアイリーンに振り返る。
「今の失態を挽回したいと思わない?」
「えっ?」
「だから、リーダーの首をやるって言ってるの! さっきの強さがマグレだったのか確かめるから」
アーシャはまっすぐな目でアイリーンを見ていた。
「やってこいアイリーン。落ち着いて行けば勝てる」
タロウの言葉を聞き、アイリーンは深呼吸してアーシャを見返す。
「やってやるわよ」
アイリーンの自信の満ちたその言葉を聞き、アーシャも笑う。
「では、どうぞこのまま真っすぐ進んで、倒してきてくださいな」
そう言ってアーシャは道を開けてわざとらしく道はあっちだと教える。周りでは他の少女達が剣を打ち合っていたが、アーシャの示したところを真っすぐ進めば、メンバーが一人抜けてできた空間があり、奥にはアーシャとアイリーンに警戒した表情を見せる敵チームのリーダー、メイジーが剣を構え立っていた。
アイリーンはメイジーの方へと進んでいく。最初はゆっくりと歩き、アーシャを超え、打ち合ってる少女達の横を超え、徐々にメイジーの場所へと近づいていく。
メイジーもまた、アイリーンが進んできてるのを確認し、構えたままゆっくりと進み出す。
二人の距離が近づいて行き、だんだんとアイリーンの足が早歩きになりそれが小走りへと変わる。
そしてさらに早く足を動かしアイリーンは走り出す。
「ハァァァァァァァァァ」
メイジーまであと2、3メートルの所でアイリーンは地面を強く蹴りメイジーに向かって跳躍する。
右手の剣をメイジーに向かって振りかぶりながら。
メイジーはアイリーンが飛ぶのと同時にガードの構えを見せ、アイリーンの振った剣を受け止めた。
しかし、跳躍し体重の乗った剣を受け止めたメイジーは後ろへと体勢を崩してしまう。
アイリーンもすぐに地面に手を置いて立ち直り、勢いのまま剣をメイジーに向かって突き伸ばす。
「くっ!」
メイジーは身体目掛けて伸びる剣をなんとか振り払う。しかし、体勢が整ってなかったために後ろに回るような形で下がる。
「ヤァァッ!」
アイリーンは掛け声を出しながら剣を上から振り下ろす。それをなんとか受け止めてくるメイジーに、さらに追撃で振り下ろしていくアイリーン。
アイリーンは夢中で剣を振り下ろし続けた。メイジーが体勢を崩したおかげで、多少大振りでも当てることができると分かり、躍起になって剣を振るアイリーン。
「後ろだっ!」
急に耳にタロウの言葉が入りハッとするアイリーン。
「もらったぁ!」
アイリーンはとっさに横に転がって、背中に近づいてきていた少女を避けた。
見れば敵チームの少女の一人が、打ち合いをやめメイジーを助けに戻ってきていた。
「すごい!アイリーン、後ろも振り返らずに避けたよ!」
端で見ていた少女達は、今までの大振りで隙ばかりあった動きとは明らかに違うレベルの動きを見せるアイリーンに驚きと称賛の声をあげていた。
ただレベッカだけは転がって後ろの攻撃を避けたアイリーンを見て、ハッとした顔を見せたあとすぐに険しい表情になっていた。
「まさか…」
レベッカはそう呟き、そのままアイリーンを見ていた。
仲間の少女も走ってくる。敵の少女はメイジーの前で構える。
「アイリーン! 私が抑えるからメイジーをさっさと倒しなさい!」
「分かった!」
走ってきた少女は、壁となっているメイジーのチームの少女へと斬りかかる。その攻撃を受け止め、先ほどまでと同じように激しく打ちあう二人の少女。
その二人を超えて、またもメイジーと対峙するアイリーン。
アイリーンはまた跳躍して剣を振ろうかと考えたが、メイジーの目を見て飛ぶのをやめた。突きと一緒で、警戒された状態で技を出しても通用しないと分かったからだ。
「大振りはせずに軽くでいいんだ……。牽制するように剣を振れ」
タロウの指示を聞き、アイリーンはかぶりを振った。
「そんな力抜いて剣を振ってたら、すぐにやられるわよ!こっちはあと一回でも当てられたら負けるのよ?」
アイリーンは二回の攻撃を受けていたため、あと一回でも攻撃を当てられたらリタイアしないといけなくなる。そのためアイリーンとしては、小手先で様子を見るよりも、素早く決めるべきだと考えていた。
「いや、駄目だアイリーン! 」
タロウの制止を聞かず、アイリーンはメイジーに向かって走っていく。
向かってくるアイリーンを見て、メイジーは剣を持つ手に力を込める。
「はぁぁぁぁ……!」
アイリーンはメイジーにどんどん近づき、その距離は十分に剣が当たる距離まで来ていた。
「ふんっ!」
メイジーはアイリーンの顔を目掛けて、剣を横に振った。その剣がアイリーンの顔に当たる前に、アイリーンは足を止めて体を素早く下に屈めた。
「えっ!?」
メイジーの剣は空を切る。視界からアイリーンが消えたことに理解できず、そして気づいた時にはメイジーに向かって剣が突き上げられていた。
剣を振りかぶっていたため、メイジーはその剣を避けることは無理だった。見事にアイリーンの剣はメイジーの鎧に下から突き上げるように当たり、メイジーは押し上げられる形で宙に浮き、そのまま倒れる。
「ーーっ!」
アイリーンの鋭い突きを喰らってしまったことに、倒れて空を見上げたままメイジーは驚きと戸惑いを隠せないでいた。
驚いていたのはメイジーだけではなく、打ち合っていた少女達や端で見ていた少女達、アーシャ、そしてデパートの屋上から見ていたタロウでさえもメイジーと同じように驚きの表情で見ていた。
「はぁ、はぁ……」
アイリーンは肩で息をしながら倒れたメイジーの元へと近づいていく。アイリーンの青い瞳は澄んだ青でありながら燃えたぎるような何かに包まれていた。
アイリーンは倒れて未だに反応が出来ていないメイジーの顔の横に立ち、剣を突きつける。
顔に向かって突きつけられた切っ先を見た後、メイジーはアイリーンの目を見返す。
その状況を固唾を飲んで見る少女達。誰もが息を飲み、訓練所の広場にはアイリーンと、剣を向けられ怯えるメイジーしかいないのではないか? というほどの静けさに包まれていた。
打ち合っていた少女達もその瞬間だけは剣を振ることを忘れていた。
「……勝機は頂いたわ。続ける? メイジー」
アイリーンの言葉を聞いて、目を見て、メイジーはアイリーンに対して初めてと言っていいだろう”恐怖”を感じた。今までろくに剣を当てることもできなかったのに、短時間の間に遥かに強くなっている、そして今自分は剣を向けられ、どうすることもできない。
その事実にメイジーは目を閉じてほんの一瞬考えた。そして、
「……私の負けよ……降参、するわ」
アイリーンはその言葉を聞いて、安堵した表情を見せて剣を下ろし、倒れたままのメイジーに手を差し出した。
「え? 何を……?」
アイリーンの差し出した手を見て戸惑うメイジー。そんなメイジーを見てアイリーンは微笑み、
「試合は終わったんだから……。ほら、ずっと寝てるつもり?私としては、体勢を崩しても受け切る防御の技を聞きたいんだけど……、私だったらすぐにバランス崩してやられると思うから」
笑いながら聞いてくるアイリーンを見て、メイジーもフッと笑い、差し伸ばされた手を取り立ち上がる。
「何?勝ったからって早速馬鹿にしてるの?それとももう私に完全に勝ったつもりなの?」
「そ、そうじゃない!」
「ふふ、うそうそ! 分かってるわよ! 単純に強くなりたいんでしょ? 良いわ、教えれることは教えてあげるから」
そう言って次はメイジーが手を伸ばす。
「今まで、いろいろ言ったりしてごめんなさい…。正直、驚いたわ」
メイジーの申し訳なさそうに言う言葉を笑顔で返し、アイリーンはメイジーの手を固く握った。
勇者ですが何か?講座
〜女騎士育成所『セノビカ』〜
アリアーハンで、少女がもし騎士になりたいと思うなら必ず向かうのがこの、女騎士育成所『セノビカ』である。
『セノビカ』はアリアーハンで唯一の女騎士育成の学校、訓練所である。
この『セノビカ』の名の由来は、昔の女英雄から来ている。
遥か昔、アリアーハンに突如襲撃してきたドラゴンに対し、挑んだ女騎士がいて、その者の名が『セノビカ・フォウ』と言った。
今でこそ女騎士は増えているが、昔は騎士とは男の職業だった。女が剣を持つなんて許されない、馬鹿げてると言われるような時代に、セノビカは人々を守るためと騎士になる夢を持っていた。
そして様々な冷たい視線を浴びながらも女騎士として認められる。その道は過酷なもので、騎士として認めてもらえず、馬鹿にされ、辱めを受け、時には仲間であるはずの騎士の男たちから強姦されることもあった。
それでも、セノビカはアリアーハンに住む人々、ましては世界に生きる全ての人々のための盾になると、剣になると誓い、鍛錬に励んでいた。
そしてその日は訪れた。
突如として圧倒的な力を持つドラゴンがアリアーハンの街を襲ったのだ。
街は炎で赤く燃え上り、道には判別も不可能なほど黒く焦げた人々の死体が転がり、その圧倒的な力の前では騎士たちは太刀打ちもできず、中には逃げ出すものや、ドラゴンに命乞いをするものまで現れた。
そんな中、セノビカだけは諦めず、重い鎧を身にまとい、生き延びてる者たちを助け、逃げようとする騎士たちに激を送り、ボロボロになりながらもドラゴンに向かって進んでいった。
ドラゴンも自分に立ち向かってくる騎士がいることに気づき、地に舞い降りてセノビカに言った。
「我に挑むはなぜか? なぜ圧倒的な力の前で貴様は向かって来れる?」
「簡単だ、私は騎士だ。民を守るための盾となると誓った。民を脅かす者を斬るための剣になると誓った。なぜ圧倒的な力の前で向かって来れるか?教えてやろう……私はどんな困難も屈辱もこの身一つで潜り抜けてきた。今更こんなことに心折れるようなことがあるわけないだろう」
ドラゴンはさらに激しい攻撃を浴びせセノビカを瀕死の状態へ追いやる。だが、それでも向かってくるセノビカにドラゴンは顔を近づけて言った。
「騎士よ、貴様は出会った中で真の騎士であろう……。だが、いかに貴様が立ち上がろうとも無駄だ。我を殺すことは”男”には不可能なのだから」
その言葉を聞きセノビカは笑った。
「それは良かった。私を騎士と認めてくれる者がいるなんてな……」
そう言ってセノビカはドラゴンの左目へと剣を突き刺した。
「知ってると思っていたのだが知らなかったのなら教えよう……私は女だ!!」
そうしてドラゴンを撃退したセノビカは称えられた。そして今までの無礼や態度をアリアーハンの民、そして騎士たちは詫びた。
セノビカはドラゴンとの戦闘での傷が原因でその後すぐに死亡する。
その後、英雄として讃えられ、セノビカのような志ある少女たちを騎士へと育てるために、女騎士育成所『セノビカ』は設立される。
今現在は志が云々というよりも、一定の稼ぎが手に入り、尚且つ国や街に正式に仕えることができる職業としての安定さが少女たちの入学理由であることが多い。
主な生徒たち
・レベッカ・フランチェルズ
・アーシャ・コリンズ
・メイジー・ウィリアムズ
・キヨミ・ナカタ
・アイリーン・フィッシャーなど
ーーー女英雄にして、女騎士の始祖セノビカよ、我らに民を守るための導を示したまえーーー
(女騎士育成所『セノビカ』教科書の一文)




