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第7話

■■宗次郎■■

リハーサルを終えて、ひとり楽屋で目を閉じて瞑想していた。

サードアイ。透や俺にとっては何度もライヴをやっている慣れ親んだハコだ。

そして、特別な場所でもある。そう、特に俺にとっては…。

忘れもしない、あの日の事は…。


……。

………。

ギターを始めてから、初めてライヴ出演する日だった。

舞のお父さんに、そろそろライヴに出てみないか?と、言われて出てみる事にした。

メンバーは透と俺がギター、舞がベースで舞のお父さんがドラムという編成だった。

……結果は惨敗だった。最初の出だしは良かった、だが途中でミスをしてしまい、そこからはもうボロボロだった。

コードは忘れる、自分が今どこを弾いてるのかも分からない。

透達がフォローしてくれたお陰で、曲は何とか立て直っていた。

しかし、俺はただ立ち尽くしているだけでライヴを終えてしまった…。

俺は直ぐに人気の居ない場所へと駆けた。そして、手を壁に叩きつけた。


「くそっ!!くそっ!!くそッ!!!」


手を潰してしまう程に何度も何度も……。


「ちょっ!?ジローちゃん、何やってんのっ!?血が出てるじゃない!?」

「くそ!!何だ、この手なんて…っ!!」


不思議と痛みは感じなかった。相当に悔しかったんだろう。

更に思いっきり叩こうとした時だった。手は壁に到達せず、止まった!

……止められたんだ!透に。

透は俺の腕を掴んだまま、睨みつけてきた。


「離せ!離してくれよっ!!」

「……悔しいか?悔しいよな!」

「……ッ」

「いいか?その気持ちを絶対に忘れるな!そうすりゃ、次のライヴは上手くいく!」

「そんな事ありえな…っ」

「あり得るんだよ!特にロックにはな。その気持ちが全て活きる!悔しいって気持ちを持てる奴は、ロックをやる資格があんだよ」

「ロックをやる…資格…」

「ああ!だから、お前は合格だ宗次郎!これからも、俺とバンドを組め!」

「それ、お父さんの受け売りじゃん」

「うるさい!俺と宗次郎の男同士、真の友情が芽生えてんだ、口出すな!」


悔しい、本当に悔しいな!でも、このまま終わるのはもっと嫌だ!

透の言う通り、ロックをやる資格が本当にあるんだとしたなら……。

見てろ、必ず追い越してやるから!


「……そんなの芽生えてない」

「あぁっ!?ひ、ひでぇ!」


……。

………。


目を開き、天井を見上げ息を吐いた。


「お〜い!ジローちゃん!透達、お母さんの所でご飯食べに行くって、ジローちゃんは?」

「行く」


あの時の透の言葉が、俺の胸に刻まれ原動力となっている。

だが、俺はまだまだ自分の理想に追いつけていない…。



■■透■■

「嘘っ!?……凄く美味しい…」


サードアイ看板フードメニューの、焼きそばを口にした彩が言った。


「……本当だわ!美味しい」


続けて奏も言った。


らんちゃんの作る物は、何でも美味しいけどな」

「そうだな!」


俺と宗次郎は食べ慣れている。さっき奏と彩にサードアイは飯も美味い、そりゃあもうどれ位美味いかって言うと…美味い!と、オーバー気味に言ったら是非、食べたい!今直ぐ、食べに行くわよ!となり今、俺達は焼きそばを食っている。

因みに、蘭ちゃんとは舞のお袋の事だ!本人が、そう呼べと言うからそう呼んでいる。

……だって、そう呼ばないと怒るんだもん。

サードアイは地上4階地下1階の建物だ。地下は当然ライヴハウス。地上の3階はスタジオ。そして今、俺達が居る1階は受け付け及びダイニングバーとなっている。

蘭ちゃん曰く、ダイニングバー及び受け付けらしいけど……。


「それにしても、ビックリだわ〜!透ちゃんにジローちゃん以外のお友達が居たなんて〜」


この間延びした口調で喋り、おっとりした笑顔の絶えない大人な女性が舞の実母、藤咲蘭。蘭ちゃんである。

こう見えて、怒った時はマジ怖い…いや、恐い…。


「おいっ!!コラ、透っ!!聞いたぞぉ!ゲリラライヴ失敗したんだってぇっ!?」

「失敗してねぇしっ!?…最後1曲やれなかったけど…」

「ウチの、優秀なスタッフを借りてその体たらくは透、お前が悪い」

「何でだよっ!?」


今、俺に絡んで来たのは舞の親父さん、竜二りゅうじさん、サードアイ常連は皆、親しみを込めてマスターと呼んでいる。自称日本一ロマンスグレーが似合う男だそうだ。

以上が俺と宗次郎が、ガキの頃から大変お世話になっている藤咲家だ。


「しかし、まぁなかなか面白いバンドじゃないか!透、宗次郎」

「これからもっと面白くしてやんよ!」

「言うじゃないか!本番、楽しみにしてるぞ!」

「あら〜、透ちゃんとジローちゃんの晴れ舞台、こっちはもう閉めて私も観ようかしら〜」


……さらっと、問題発言をした蘭ちゃんであったが、聞かなかった事にしといた…。



■■彩■■

いよいよ、ライヴが始まった。……と言っても、まだ私達の出番ではない。

今日の出演者は全部で4組。私達の出番は3番目、今は1組目のバンドがライヴをやっている。私と奏さんは楽屋で待機中。

透くんとジローくんは、少しライヴ観てくると言って出て行ってる。

舞はPAピーエーをやりに行っている。

PublicパブリックAddressアドレス、略してPA。簡単に言ってしまえば音響である。…が、私達ライヴをやる人間にとっては、物凄い重要なポジションである。

出演者の音を活かすも殺すも、PAの腕次第と言っても過言ではないくらいに。

舞がディスリアイズに、加入しない最大の理由は、そのPAをやりたがっているからだ。中でも、ディスリアイズに関しては専属でやるつもりでいる。

もう、リハーサルの時から張り切っていたもんなぁ!

舞の気持ちに精一杯応えるライヴしないと。


「君達、まだ高校生なんだってね?」

「えっ!?あ、はい」


突如、声を掛けられた。

今日のトリを飾るバンドDessertデサートFoxフォックス。舞によると、今日の出演者の中で一番の集客率を誇る。そのギター&ヴォーカルの男性だった。

えーっと、確か名前はラグナさん。……ステージネームだよね?


「リハ観てたけど、高校生にしては結構やるじゃん?」

「あ、ありがとうございます」

「まだまだ伸びると思うよ!ま、分からない事があったら聞いてくれよ!色々、教えてやるからさ」

「……は、はぁ…ど、どうも」


う〜っ…、何か苦手かも…。


「ところで君、可愛いね!彼氏いるの?」

「い、いないですけど…」

「ふぅん。じゃあさ、ライブ終わった後、飲みに行かない?」

「えっ!?あ…いや、その…」

「2人きりになれる良いところ知っているよ?バンドのイロハってヤツを俺が優しく教えてやるよ」


腕を肩に回して耳元で囁く様に言ってきた。

ちょっと!?これはいくらなんでも…。

腕を振り払えず、困惑していると奏さんが近付いて、手を大きく振り上げた。ラグナさんにビンタをしようとしている。

その時だった…。


「うぉーーっとぉぉっ!?足が滑ったぁぁぁぁぁっ!!」


透くんのわざとらしい台詞と共に放たれた、ヤクザキックがラグナさんの顔面に直撃して、ラグナさんが倒れた。

これには、流石の奏さんも呆気に取られた表情をしていた。

と、とにかく….助かった……。


「透、滑ったのはお前の足じゃなくて、お前のそのわざとらしい台詞だ」


ジローくんの冷静な指摘に、透くんは恥ずかしそうにうるせぇよ!と返していた。

奏さんは、その様子がツボにハマったらしくお腹を押さえながら笑いを堪えている。


「ってぇぇぇ。おい!コラ、てめぇっ!!俺の大事な顔になんて事をしてくれるんだっ!?えぇっ!?」

「いやはや、戻って来たら何かウチの大切なメンバーに、ちょっかい出してるクソヤローが居たから、つい反射的に」

「反射的に人を蹴るのかてめぇはっ!?あぁっ!?」


ラグナさんが怒鳴り散らしている。何で透くんは、こう人を挑発するかなぁ?


「あんた、バンド始めて何年くらい?」

「あ?7年だよっ!?それがどうしたっ!?」

「それなりにはやるみたいだけど、まだまだ伸びしろあると思うよ、うん!」


それさっきラグナさんが言っていた事、殆どそのまま返してる。

……って事は、そこら辺から聞いていたな!助けるなら、もっと早く助けてくれれば良かったのに……。


「てめぇ!この野郎!!それなら勝負だ、勝負しようぜっ!?」

「は?」

「お前達が俺達より良いライブしたら、土下座でも何でもして詫びてやるよっ!その変わり、それが出来なかったらライブ終わった後その女は俺に付き合って貰う。どうだっ!?」


ちょっと…何を勝手に決めてるの…。そんな馬鹿げた勝負、皆引き受ける訳ないでしょう……。


「そんな勝負、引き受けるわけないでしょうっ!?」


ですよね!奏さん。


「負けるのが怖いんだろ?大したギターも弾けやしないもんな!」


あれ?何だろ!?その言葉を聞いて何故かカチンと来た。

そして、私の中で何かがはち切れる。

貴方に、透くんのギターの何が分かるって言うの!?

そこまで言うなら、やってやろうじゃない!!


「分かりました!良いですよ!!勝負しましょう」

「言ったな?撤回は無しだぜ?」

「お、おい!ちょっと、彩!?」

「透くん、絶対に勝つよ!」


……や、やっちゃった……。

でも、もう後には引けない!!



■■舞■■

1組目のバンドのライヴが終わり、2組目のバンドの準備をしている所に彩が来た。


「彩、いつまでヘコんでいるの?可愛い顔が台無しよ?」

「はぁ〜っ…。ど、どうしよう!?私ったら、ついあんな事、言っちゃって…」


事の経緯は彩から聞いた。困った顔でで来た時は何事かと思ったけど…。

でも、透達ならまだしも彩が啖呵を切るなんて、珍しい事もあったもんだ。

相当、腹立ったんだろうなぁ!

いざって時の度胸は、相変わらず目を見張ものがあるな。


「彩、ありがとね」

「へっ!?何が…!?」

「あいつの為に怒ってくれたんでしょ?」

「いや…別に…私は……その…」


透には、本当にギターしかないからなぁ。それを、馬鹿にされたのを黙っていられなかったんだろう!

透、良い仲間に巡り会えたね!

私も、紹介した甲斐があったってもんよ。

それに…。


「彩ってさぁ…、良い女よね」

「……そんな事ないって」


彩は照れながら否定をした。

私は今回、立場的に力を貸す事は出来ない。

ステージで演奏している人達が望む音、1人でも多くのお客さんに最高の音を届ける為に。

透には、ジローちゃん会長でもなければ私でもない、彩みたいな人間が必要なんだ!

きっと…。



■■奏■■

2組目のバンドライヴが終わり、準備に取り掛かろうとしていたところ。


「せいぜい盛り上げてくれよ!俺達がやりやすい様にな」


彩を口説いていた男、ラグナが煽ってきた。

私はラグナに近付いた。


「な、何だよ?」

「貴方、一体何の為に音楽をやっているのかしら?好きだから?それとも楽しいから?」

「は?何を言って…」

「まぁ、しっかりと観て、その目に焼き付けなさい!私達のライヴを」


手の甲で髪を払い、振り向きざまステージへと足を進めた。


「格好良いじゃん?」

「透、それ女の子に対して言う台詞じゃないわよ?」

「んなことねぇだろ?」

「まぁ、いいわ!」

「さてと、そんじゃ…ま」


透が前へ手を出し宙で止めた。


「ライヴ前と言ったら、コレは外せないな」


今度は、宗次郎が同じように手を出し透の手の上に乗せた。


「良いね!何かバンドっぽい」


彩も同じく手を出し宗次郎の手の上に乗せた。


「彩ぁ、バンドっぽいっておかしくね?」

「バンドですよ。俺達」

「あ、そうだね!あははは」


3人が私へと視線を向けた。


「ほら、何やってんだよ?奏」

「奏さん」


透と彩に言われ私も同じように手を出し、一番上の彩の手の上に乗せた!


「っしゃぁ、んじゃ…。今宵、最もロックな時間届けんぞーーっ!!」

「おーーーっ!!」


透がそう言い、重なり合った私達の手が掛け声と同時に上へと宙を切った。

そして幕が上がり、ステージに照明が照らされる。

フロア一帯を見回す。

沢山の人が居た。おそらく、次の出演者目当てのお客さんだろう。

見覚えのある、うちの学校の生徒もちらほらと居た。


「私達はディスリアイズ」


マイクを手にしバンド名を紹介した。そして、髪を手の甲で払いもう一つ。


「今宵、最もロックな時間届けるわ!」


透がさっき言った言葉を、お客さんに向けて言った…。

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