第5話
■■奏■■
一体、私は彼に何を期待していたのかしら?
私と同じ位の歳で、凄腕の天才ギタリストが居る。
最初に、そう聞いたのは15歳の時だった。
名前は雪村透。
まさか、その彼と学校が一緒になるとは思いもしなかった。
最も話に聞いていただけで、実際に会った事もなければ、当然ギターも聴いた事はなかった。
……まぁ、今更聴いたところでどうって事はないのだけれど…。
……私は……もう音楽を歌を辞めたのだから……。
ひとり生徒会室でそんな事を考えていた時だった。
突如、轟音が鳴り響いた!
何?ギターの音!?
今の大きさなら校内中に聞こえただろう。
……外が騒がしい。
窓から外を見渡した。校庭にはトラックが停まっていた。
そしてトラックへと人が集まっている。トラックの荷台の上には雪村透と2人、ベースとドラムが居た。
……ドラム……あれは彩ね。
全く彩、あなたが居ながら何をさせているのよ?
雪村透がこちらに顔を向けた。距離はあるけれど、おそらく目が合った。
「へい!へーい!ようこそ、ゲリラライヴへ」
雪村透がそう言った。
……ゲリラライヴだなんて、何を考えているのかしら?
こんな許可のないライヴなんて、直ぐに先生達に止められるに決まっているわ!
……でも、何故かしら?こんなにも心から込み上げてくるモノは…。
■■宗次郎■■
うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
……と、透が叫びながらギターを弾いてる。
相変わらず五月蝿い。
どうやら、完璧にスイッチが入った様だ。
俺も負けてられん!
何より…、透の足を引っ張るのも、あんな想いをするのも、もうごめんだからな…。
……あの時の様に。
「こらぁーっ!宗次郎、五月蝿いわよ」
……母親に注意された。……騒いでるのは透だというのに…。
「よっしゃ!これでどうだっ!?」
と、透が言いながら手を止めた。
「……悪い、聴いてなかった」
「なっ!?な、ならもう一度だ!」
透がショックを受けた顔をし、またギターを弾いた。今度は透のギターに合わせ俺もベースを弾いた。
透を、ここまで夢中にさせる生徒会長のヴォーカル、俺も是非とも聴いてみたい。
その為には、俺も負けず気合いを入れなければならない!
■■彩■■
「ふぅ…。ちょっと休憩しようか?」
スタジオに入って、もうかれこれ、6時間はぶっ通しで練習をしていた。
「なんの!まだまだーーっ!!」
ま、マジ……!?正直、私の体力はちょっと限界です…。
「はいはい、あんた達2人でやってなさいよ!彩、休憩しよう」
た、……助かったよぉ〜、舞〜!!
「2人共、凄いね」
「ん?ああ、透はスイッチ入ると昔からあーなるんだよね。んで、ジローちゃんもあれでいて負けず嫌いだから、対抗心燃やしちゃうのよ」
私と舞は、練習する2人を眺めながら語っていた。
「多分、練習時間だけみればジローちゃんは、透の倍以上やっていると思うよ」
「えっ……!?」
入学式サボってまで、ギター弾くような透くんの倍!?
驚愕の事実に驚いた。一体、何が彼をそんなに掻き立てるのだろう?
「まぁ、私からしたらあの2人が異常なだけで、彩も充分練習してる方だと思うけどね」
「あまり、褒められてる気がしないのは、気の所為?」
「気の所為、気の所為」
「ま、でも、それじゃあ負けてらんないね」
私は、そう言い再びドラムセットへと向かった。
「透くん、宗次郎くん、入るよー」
「お!待ってましたぁ!」
「今、こっちの2曲目のBメロからです」
「うん、オッケー」
練習は夜遅くまで続いた。……そして、気合いの入った透くん、とてつもなく厳しく、怖かった……。
■■透■■
「……で、あんた場所はどうする気?」
舞が唐突に聞いてきた。
「グラウンドのど真ん中」
「はぁ!?機材のセッティングどうすんのよ!?」
「アレを使うんだよ」
俺は悪戯っぽく言うと舞がため息を吐いた。
「つーわけで、サードアイのスタッフ1人貸して下さい」
「言っとくけど、お父さんの許可おりたらよ?」
舞が念を押しできたが、まぁ大丈夫だろう。面白そうだ、どーんとやれ!とか言うに違いない。
……。
案の定、舞の親父さんから許可はおり、サードアイ御用達のトラックとスタッフをレンタルし、グラウンドのど真ん中に堂々と進入した。
トラックのウィングが開き、荷台の中でスタンばっていた俺達が登場。
周囲に生徒達が集まり、戸惑いじみた騒めきをしていた。
あっはっはっは…。良いぞー良いぞー!!
……さてと、俺は生徒会室の方へ視線を向けた。
再戦申し込み、宣戦布告、その思いを乗せギターを弾いた!
生徒会室の方をもう一度見てみる。蒼山奏が窓から姿を見せていた。
多分だけど、目が合った。
「へい!へーい!ようこそ、ゲリラライヴへ」
マイクをオンにして言った。
ターゲットは釣れたし、こんな事けしかけといて言うのもあれだが、教師陣にいつ止められるか分かったもんじゃないしな!
「ほんじゃ早速いってみようかぁっ!?先ずは、1曲目カヴァーで曲目は……」
■■舞■■
休みの間、透が作っていた曲は全部で11曲。
アルバム1枚出せる量だ。未完のデモ状態とはいえ、1曲作るのに時間は相当費やしただろう…。はっきり言ってアホだ!
その内、彩とジローちゃんが覚えてきた曲は4曲。そして、2曲は同じ曲だった。
その2曲を仕上げてやるとして…。もう1曲くらいやった方が良いだろう。
「……先ず1曲目なんだけど、カヴァーをやろうと思っている」
透が言った。
「カヴァー?何をやるんだ?」
ジローちゃんが質問した。
「そうだな……」
言っといて決めてなかったんかいっ!?全く、その場のノリと条件反射で話すのやめなさいよね!
会話に加わらず、練習してる彩の方を見てみた。
あれ?このドラムは……。
透が彩の方を見てニッと笑った。
「これでいこう!」
■■彩■■
「ねごとでsharp#!!」
透くんが、そう言うと同時に演奏を始めた。
舞と透くんジローくんが、話をしている時にたまたま私が、この曲のドラムを叩いていた。
それを見た透くんが、この曲を選曲した。
場を盛り上げ勢いをつけるに良い曲だ!
練習の時とは違う、2人の迫力に圧倒されそうになる。
ジローくんは、ピックを使わず指で弾く。普段からは想像出来ない程に、激しく熱いプレイ。
透くんは、基本的に動作が大きく一見派手に見えるものの、ひとつひとつが丁寧でお手本の様なギターを弾く。
何より2人共、本当に楽しそうだ!
私も…ゲリラライヴなんて、悪い事している所為なのか?テンションが上がっている。
2人には負けてられない!
私のドラムが勢いを増す!
あはっ!やばい、滅茶苦茶のっている!今日の私、絶好調だ!
集まっている生徒達が踊っている。
これは先生達も止めるの苦労しそうだなぁ、ごめなさい。
そして1曲目の演奏が終わり、そのまま次の曲へと繋がるドラムを叩いた!
■■宗次郎■■
1曲目が終わり、沙田先輩が透が作ってきたオリジナル曲へと繋がるドラムを叩く。
「続いてオリジナル曲を2曲。踊れ踊れ、もっと踊れぇーーーーっ!!」
透がそう言い演奏へと入る!
Re:start。
透はこの曲をそう名付けた。
非常にシンプルながらも、骨太なリフが特徴的な曲だ!
この曲を初めて聴いた時、俺達の代表曲になると直感的に感じた。
おそらく、沙田先輩もだ。だからこそ、この曲を覚えてきた!
もしかしたら、何かを訴え、伝えられる曲っていうのは、シンプルな方が良いのかもしれない。
透は、いつも本能的にやってのける!全く、本当に腹立たしい。
初めて聴く曲だというに、そんなの関係ないと言わんばかりに、生徒達は踊っている!
この勢いを殺してはならない!ちょっと、遊んでみるか?
そう考えた俺は前に出て、アドリブを入れた!
透と沙田先輩を交互に見やった!少し、面食らっている様だった!
来いよ!ついて来い!!
「宗次郎の野郎!魅せてくれんじゃんか?彩ちゃん、ついてくよ!」
「うん!オッケー!」
俺の考えを、読み取った2人が合わせに来る。俺は想いを、音に乗せ爆発させた!
透が前に出た!ソロを弾く気だ、本来この曲はソロパートなんて入ってなかった。
それを今、この場で入れようとしているのか!?
案の定、透はギターソロを弾いた…。
■■奏■■
1曲目のカヴァーとは、うって変わって随分と骨太な曲になったわね。
オリジナル曲と言ってたわね。作ったのは雪村透かしら?
トラックの前に、集まった生徒達は変わらず騒いでいる。
雪村透…。おそらくこれは彼から私への再挑戦!
しかし、以前聴かせて貰ったギターとさして変化はみられない。
観客を煽るためのパフォーマンスとして、動作が大袈裟ではあるが、演奏自体はひとつひとつ丁寧で洗練されている。
……ステージの3人も生徒達も、とても楽しそうだわ…。
トラックで乗り込んでゲリラライヴだなんて、奇想天外な状況に興奮しているのかもしれない。
ベースの子が前に出て来た。
!?これは…アドリブ?
ベースの子の演奏に、雪村透と彩が合わせについていった。
……はっきり言ってやる事なす事、滅茶苦茶だわ!
でも、ドクンと心臓が脈打つ音を感じた。
今更、どうして!?私はもう音楽を…。
今度は雪村透が前に出て来た!そして、弾くのは…当然ギターソロ…。
■■透■■
宗次郎の野郎、無茶しやがって!面白ぇじゃねぇか!
宗次郎がそこまで魅せてくれたんだ!
当然、今度は俺の番だよな!
やるとしたなら、勿論ギターソロ。
……だが、本来この曲にギターソロなんて入れてなかった…。
俺は、必ずしもソロを弾きたいってタイプではないからだ。
そして、ギターソロは曲の雰囲気に合わせて入念入りに作り込むものだ。
それを今この場で……。出来るか?いや、やるんだ!
足下を見る。
今使っているエフェクターはオーバードライブ。歪み系と言われる一種。
音を更に増幅させる為にブースターを踏む。
そして前へと出る。
顔は下を向いたまま、目を閉じ一呼吸。
目を開き、空を仰ぐ様に顔を上げソロを弾き始めた。
■■奏■■
雪村透が前へと出て、空を仰ぐ様に顔を上げソロを弾き始めた。
おそらくだが、この曲に本来ソロは作られていない。それを土壇場で弾いているのだ。無謀としか言いようがない。
しかし、雪村透は臆せずソロを弾いている。まるで、この状況を楽しんでいるみたいに。
そして、雪村透のギターサウンドが私を貫いた。
えっ!?何、今の……!?
ギターの音が……、変わった…!?
エフェクターを使ったとか、そういう次元の話じゃない。
もっと本質的なもの。心を魂を揺さぶる様な…。
そして、誰が聴いてもこの人の音だと分かるギター。
この間は手を抜いていたの!?いいえ、そんな風に見えなかった…。
……天才ギタリストが居る。昔聞いた言葉が脳を過る。
ああ、そうか!彼はギターに…、音楽の神様に愛されているんだわ!
だから、こんな状況でもあんな楽しそうに弾いて、周りを巻き込んで、それを武器にしている!
いつからだったかしら?音楽が楽しくなくなってしまったのは…。楽しむ事を忘れてしまったのは…。
届いたわ!
雪村透、あなたの勝ちよ!
あなたのギターは、確かに私の心に届いたわよ。
雪村透のギターが私の心に響き、音楽が楽しいものだと思い出させてくれた。




