第4話
■■透■■
朝のホームルームが終わり、周りは雑談をしていた。
俺はというと、ノートを広げシャーペンをトントンと叩きながら、広げたノートと睨めっこしていた。
真面目に勉強をしている訳じゃないぞ、コレは作曲ノートだからな。
「朝から失礼するけど、雪村透はこのクラスかしら?」
ん?今、俺呼ばれたか?
いつの間にか教壇に女子生徒が立っていた。
クラスの奴じゃないよなぁ!
「窓際の席の、あそこにいる男の子がそうです」
「そう!ありがと」
謎の女子生徒の前にいた、クラスの女子がご丁寧に教えた。
謎の女子生徒と目が合い、こちらへと向かって来た。
そして、俺という目的地に到達し立ち止まる。
見るからに気が強そうではあるが、かなり美人だった。
「あなたが雪村透?」
「そういうあんたは?」
「……」
俺の質問に謎の女子生徒が、キョトンとした表情をみせた。
「あなた、私の事を知らないの?」
「えっ!?だって初対面だろ?」
「……ふぅ。成る程、確かにその通りね」
謎の女子生徒は、軽く息を吐きながら納得した。
「それじゃあ、初めまして雪村透君。私は蒼山奏、この学校の生徒会長を務めさせて頂いてる者よ!これで良いかしら?」
手の甲で髪の毛を払いながら言う、その仕草がなんとなくお嬢様っぽい。良いとこ育ちか。
そして、この謎の女子生徒は生徒会長だったのか?成る程ねぇ…。
……ん?生徒会長!?生徒会長って言ったか!?って事は、この女が彩ちゃんの言うヴォーカル候補っ!?
まさか、そっちから出向いてくれるとは願ってもないチャンス。
「ちょっとだんまり?」
「…あ、いや。俺も丁度あんたに用があったから、驚いていただけだ」
「あら?奇遇ね、何かしら?」
「そちらからどうぞ!」
「そう?じゃあ遠慮なく…….」
そう言い会長は手を大きく上げた。そして次の瞬間、その手で俺の頬を振り払った。
パシーンと小気味良い音が教室に響いき、教室内がざわついた。
「……ってぇなぁっ!?何しやがるっ!?」
舞ならいざ知らず、初対面の女に殴られる覚えはないぞ。
「私が会長を務める代で入学式をサボった罰、最上級生に対してタメ口をきいた罰よ」
「なっ……!?」
後者はともかく前者は理不尽じゃないか?大体、そもそも何で…。
「ちょっと待て、何で入学式サボった事知ってんだよ?」
そう、何でこいつがそんな事知ってんだ?
しかし、瞬く間にパシーンとまた小気味良い音が響いた。
「あなた馬鹿なの?それとも、日本語通じないのかしら?」
「っざけんなっ!!てめえみたいな暴力女に誰が敬語なんか使うかよっ!?意地でも使わねぇっ!」
「良い根性ね。……ところで……」
暴力女がそう言い掛けたところでチャイムが鳴った。
「あら?仕方ないわね。あとで放送するから
、そうしたら生徒会室まで来るように」
そして、そう言い去って行った。
……一体、何だってんだ?まさか、あいつ俺の事を、叩くためだけにわざわざ来たのか?
……お、面白えぇぇっ!!何か興味が湧いて来たぞ!!
さっさと放送で呼び出せ、畜生!
■■舞■■
昼休み私は彩と机を並べ向き合い、お弁当を食べていた。
そして、私は彩に聞きたい事がある。
「あ〜や〜!?」
うふふふ。と笑いを含みながら呼んだ。
「……こ、怖いよ、舞」
彩は、今にもこの場から逃げ出したそうな素振りを見せた。
透やジローちゃんだったら、全力で逃げてるんだろうな!
「会長がヴォーカル候補ってどういう事っ!?」
会長は最上級生、つまり私達より一個上3年生だ。
つまり、1年前に声を掛ける事が出来た筈なのだ。だけど、彩はそうしなかった。
他人の事だし、何か理由はあるんだろうけど。
それでも私は、気になってしょうがないんだ。
「……ほ、本人に聞けば…?舞、奏さんと仲良いんだし…」
「まぁ、馬は合ってはいるわよね」
「それに私も、全部の事情を知っている訳じゃないから…」
「…分かった!なら、生徒会室に行くわよっ!?」
「えっ!?今…?今からっ!?」
私がそう言い席から立った時、チャイムが鳴り、放送が掛かる。
『お呼び出しをします。1年C組雪村透君、生徒会室まで来るように!繰り返し言います……』
会長の声だ。……っていうか、透の事を呼び出していた!?
思わず彩の顔を伺った。
当然、彩も事態を掴めてなく首を横に振っていた。
「とにかく、急いで生徒会室へ行こう」
「うん」
私達は急いで片付けをし、生徒会室へと向かった。
一体、何したのよぉぉぉぉっ!?透のバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
■■透■■
待ちに待った呼び出しを受け、俺は生徒会室の前に来ていた。
う〜む…、俺の学生生活には絶対無縁の場所だと思っていた所為なのか、いざこうして立ってみると只ならぬオーラを感じる。
それとも、あの会長がいる生徒会だからなのか?
俺は気合いを入れる為に顔を叩き、勢いよくドアを開けた。
「たのもーっ!」
会長蒼山奏は、奥の席に座ったまま哀れむような目で見ていた。
「あなた、普通はノックしてからドアを開けるものよ?それに、たのもーっ!なんて道場破りじゃあるまいし…」
「あー…、じゃあやり直そうか?」
「いいわ!あなたに出来るとは思えないもの、時間の無駄だわ」
随分な言われようだな!ま、俺が悪いんだけど…。
「さて、雪村透君!あなたギターを弾くそうね?」
「んぁ?あ…、あぁ、まぁ」
何となく不意打ちを食らった気分だ。向こうからそれに触れてくるとは思わなかったし。
「あなたの事は、噂で以前から聞いていたわ!知る人ぞ知る天才ギタリストだってね」
「ふぅん!そいつぁどうも。……んで?」
俺の事を知っていたからって、何だってんだよ?
「ここに1本のギターがあります」
そう言いながら、床下に置いてあったギターを持ち上げ机の上に置いた。
……いや、何でそんなもんがここにあんだよ?
「何でもいいわ!一曲弾いてごらんなさい」
「は?」
何を言ってんだ?この女。意味が分からないぞ。
意味が分からないが、これはこいつをヴォーカルに引き込むチャンス!この機を逃すなんて馬鹿だろう。
俺はギターケースを開けた。中身はアコースティックギターだった。それを取り出しチューニングを始めた。
「リクエストは?」
「何でもいいって言ったでしょ?」
「んじゃLisaLoebで、FoolsLikeMe」
「あら?なかなか良い趣味してるじゃない」
さてと、ここいらでこっちも用件を言っとくか。
「弾く前にひとついいか?」
「何かしら?」
「今、新しくバンド組んでヴォーカル探してんだよ!あんた歌、上手いんだろ?」
「さぁ、それはどうかしら?」
「あんた、ヴォーカルやってくんねぇかな?」
「……いいわよ」
……あれ?あっさり乗ってきたな。
「ただしあなたの演奏で私を、納得させる事が出来たならよ」
「オッケー!言ったな」
「………そんな事……有り得ないから…」
何かを言っていたが、小さくて聞き取れなかった。
「そんじゃいくぜ」
俺はそう言い、アコギのボディを叩きカウントを取り、演奏を始めた。
蒼山奏は無表情で俺の方を見ている。だが、指で机をトントンと叩きながらリズムを取っている。
これは好感ありっ!!
「もういいわ!」
「は?」
サビを弾き終えた所で蒼山奏は言った。
「いや、まだ曲の途中だし、折角だから最後まで弾かせ…」
「充分よ!それに、まるまる一曲弾きなさいって言ったかしら?」
ぐぬぬ!?確かに言っていない…。
「さて、雪村透君。成る程ね、噂通りの腕前だったわ!」
「どうも!そんじゃ結果は…」
「残念ながら、あなたの要望には応えられそうにらないわね!」
「……そうか」
「あら?言っといてなんだけれど、意外とあっさり受け入れるのね?」
「まぁ、自信はあったけどね。世の中の人間全てが俺のギターを、好きになる訳じゃないだろ?あんたに、俺のギターは届かなかった。……それだけの事だ」
そう言い、俺は生徒会室を出ようとした。
「ちょっと待って」
「あ?」
しかし、止められた。何だよ、まだ何かあんのかよっ!?
「サービスに、ワンコーラスだけ歌を聴かせてあげるわ!」
「は?」
「実力も分からない、人間に言われっぱなしってのも不公平でしょ?」
「確かに、それじゃあどれほどのものかお手並み拝見といこうじゃないか」
俺がそう言うと同時に、勢いよく扉が開いた。
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
………何でお前が出てくんだよ?舞。
舞の後ろで彩ちゃんが、申し訳なさそうな恥ずかしそうな素振りをしていた。
蒼山奏も呆れた顔している。
「舞、何であなたがここに居るのよ?」
「会長!その歌、私達も聴かせて貰います!」
………盗み聞きしてやがったな、こいつ。
蒼山奏の顔を窺った。やれやれ、仕方ないわね!といった表情だった。
「さて、同じ曲で良いかしら?」
「ん、ああ!」
俺が返事をすると同時に、蒼山奏は手の甲で髪を払い、目を閉じた。
そして、息を大きく吸い開口!
一声。
「っ!!?」
全身に鳥肌が立った。
何だ!?こいつの歌声は!?はっきり言って、上手いなんて次元の話じゃない。
天性の歌声。カリスマ特有の声質。
ふざけんなよ、こんな歌声を聴かされて諦めろって無理だろ!
「ふぅ…。まぁ、久しぶりだしこんなところかしらね」
ワンコーラス歌った、蒼山奏が息を吐きながら言った。
「か、会長!こんなに凄かったんだ…?」
「さ、これで分かったでしょう?」
「ああ!….よぉく分かったよ」
俺は、そう言い今度こそ生徒会室を出た。
「は?ちょっと、透!?良いの?」
舞がそう言い追いかけて来る。
「あ!2人共、ちょっと待ってよ」
続けて彩ちゃんも追いかけ来た。
「ねぇ!透ってば、本当に良いの?」
……舞がさっきから何度も同じ事を聞いてくる。俺は返事をしない。
「ちょっと!?透ってば、聞いてんのっ!?」
「聞いてんよ、うるせぇな」
「あんたねぇ、だったら返事をしなさいよ」
「彩ちゃん」
「ん?」
「曲の方はどうだった?」
「うん、どれも凄く良かったよ。何曲かならもう叩けるよ」
流石だな。なら話は早い。
「それじゃあ、それを3日間みっちり練習しよう」
「えっ!?完璧に仕上げるって事?透くん、奏さんの事、諦めたの?」
愚問。俺は不敵に笑いながら口を開く。
「まさかでしょ?リベンジすんだよ」
「その練習した成果を、奏さんに観て貰うんだね」
「ああ。でも今度はギャラリーも一杯だぜ?」
「えっ!?」
「透〜、あんた何企んでんのよ?」
「ゲリラライヴだ!ゲリラライヴをこの学校でやる」
このままじゃ、絶対終われねぇ!
蒼山奏、何としてもバンドに引き込んでやる。
もう一度、勝負だ!